18、ミルディア6歳・5
それから後のことは記憶が曖昧だ。
「子どもの遺体が……」
「おそらくヴィクトリア様かと……」
「遺体の損傷がひどく……」
等、断片的に情報が入ってきた。
「トリーが……?」
耳鳴りがして、目の前が歪んだ。何も聞こえなくなった。
ミルディアは震え、そして絶叫した。
(私のせい? 私が行かせたから?)
口から出るのは言葉にならない叫び声だけだったが、喉がつぶれるほど泣き叫んだのを覚えている。
次の記憶は、ラグナードに付き添う自分。
小さな手を握り、懸命に回復魔法を使っていた。
ラグナードは頭を強く打ち瀕死の重症だったが、ミルディアの魔法とジョシュアの手当てで怪我はすぐに良くなった。
しかし、なかなか目を覚まさなかった。
(どうして? 怪我は良くなってるはずなのに)
ミルディアは何度も何度も魔法を使った。しかし、ラグナードは目を覚まさなかった。
(私が未熟だから……?)
ミルディアは己の無力さを嘆いた。
しかし、神殿から派遣された巫女の力をもってしても、ラグナードは目を覚まさなかった。
ミルディアはほとんど寝ることも食べることもせず、ラグナードに付き添っていた。
強い自責の念が、ミルディアをそうさせていた。
誰に何と言われようと、頑としてラグナードの側を離れなかった。
その間にヴィクトリアの葬儀は終わり、ヴィクトリアとラグナードの母も亡くなったらしい。
ラグナードが目を覚めしたのは5日後だった。
ミルディアも憔悴しきっていたが、ラグナードが目を覚ましたときは飛び上がった。
ゆっくりと開かれたまぶた。
その奥の瞳は金色ではなく、赤く染まっていた。
「……姉上?」
それがラグナードの第1声だった。
ミルディアはそこで意識を失った。
それはラグナードの瞳の色が変わっていたからでも、姉上と呼ばれたからでもない。
単純に、体が限界を迎えていた。
無理もないことだった。わずか6歳の子どもが、食べることも眠ることも最小限で5日も過ごしていたのだから。
目を覚ましたときは自宅のベッドだった。
数日間眠り続けていたらしい。
(あれは夢……?)
ミルディアはそうであってほしいと願ったが、まだ声が出ない喉のせいであれが夢ではないことを悟った。
両親は何も話さなかった。無かったことにしようとしているようだった。
ミルディアの心を思い、思い出させないようにしていたのだろう。
(トリー……ラグナ……)
ミルディアは泣いた。
もう会えないのだ。ヴィクトリアはもういないのだ。
初めての友達、夢のような楽しい時間。
(忘れない……忘れない……絶対に)
拳を固く握りしめ、唇を噛み締める。
(トリーのことも、私の罪も……全部、何一つ忘れない)
その日から、ミルディアはさらに修行に邁進するようになった。のめり込むと言ってもいいほどに。
(何もできないけど……トリーとラグナと、2人のお母様のために祈る)
それがミルディアの日課となった。
10歳になると神殿に行き、そしてあっという間に頭角を現した。
天性の才能に加え、早期教育を受け、さらに誰よりも熱心に修行するミルディアは誰よりも強い力を持つ巫女となっていた。