17、ミルディア6歳・4
ヴィクトリアのお願いはこうだった。
「西の森の奥に、綺麗な湖と花畑があるんだって。特に夕日が差し込む頃が綺麗なんだって。どうしても見に行きたいけど、庭から外には出てはいけないって言われてるの。それを見に行きたいの」
「私はどうすればいいの? 一緒に行くの?」
ミルディアが尋ねると、
「家に残ってほしいの。私の姿が見えなくて誰かに尋ねられたら、かくれんぼしてるとかごまかしてほしいの」
「え……危なくない? 大丈夫?」
ミルディアは少し怖かった。嘘を付くのは良くないと教わったし、ヴィクトリアに何かあったら大変だと思った。
「大丈夫、案内してくれる人がいるの」
「誰? 本当に大丈夫?」
「大丈夫よ、うちの使用人だから」
大人がついてるなら大丈夫かと、ミルディアは承諾した。何よりもヴィクトリアが信用している人物だ。
「ラグナはどうする?」
ヴィクトリアに聞かれ、少し迷ったが、
「一緒に行く」
と、ラグナードは答えた。外に出てはいけない約束より、外に出られると言う好奇心の方が勝ってしまった。
「本当に大丈夫? 日差しとか……」
「心配しないで、大丈夫よ。夕方から出て、夕食までに戻るから。ちゃんと長袖の上着を着て、帽子もかぶるし」
春の終わりの夕方は長い。夕方から日が沈むまで3時間はかかる。
「3時間で行って戻れるって。それまで、うまくごまかしておいて」
ミルディアは不安だったが、頷くしかなかった。
庭の外で待ち合わせていると言うヴィクトリアとラグナードを、ミルディアは不安な気持ちで見送った。
その日はお祭りの最終日。
1番豪華な食事やパレードの準備でみんな忙しいようで、こちらに気を向ける大人は少なかった。
それでも何度かは聞かれたが、ヴィクトリアに言われた通り
「かくれんぼしてるの」
とごまかしておいた。
明日には帰るから、一緒に遊びたい気持ち、寂しい気持ちもあった。
ばれたら怖い気持ちもあって、早く帰ってきてほしいと思っていた。
しかし、2人はなかなか帰らなかった。
庭に夕食の準備がされ、侍女に呼びに来られて、いよいよごまかすのが難しくなった。
「2人が見つからない」
ミルディアは泣きそうになりながら答えた。
それから大人が屋敷中を探したが、当然ながら見つからない。
だんだん大騒ぎになってきた。お祭りどころではなくなった。
中にいないのだから外を探せということになり、捜索の手は外まで伸ばされた。
領民の目撃証言から、西の森に向かったことがわかったときには日が暮れていた。
リーフェンシュタール家が抱える警備兵が集団で西の森に向かった。
それ以外の者は、庭に用意されたパーティー会場で待っていた。
ミルディアもその中にいた。不安で泣くミルディアをジョシュアが膝にのせて抱き締めていた。
あちこちに松明で灯りがともされていた。
暗い中にぼんやりと浮かび上がるリーフェンシュタール邸を、ミルディアは見るとも無しに見ていた。
人がいない屋敷には玄関と厨房、そしてその間をつなぐ廊下にしか灯りが灯っておらず、ミルディアの恐怖心を煽った。