16、ミルディア6歳・3
それからの3日間は、とにかく夢のように楽しかった。
ミルディアの人生の中で1番自由で楽しかったのはあの時だったと、今でも言えるほどに。
好きなときに寝て、起きて、ずっと遊んで、お腹がすいたらご馳走がいつでもあって。
家の中で鬼ごっこ、かくれんぼ、おままごと、ボードゲームやカードゲーム。夕方になって日差しが和らいだら庭に出ることも許された。
ヴィクトリアは日に当たりすぎると皮膚がひどい炎症を起こしてしまうからだと言っていたが、それ以外はとても元気に見えた。
走るのもミルディアより速かった。
それから、ヴィクトリアは利口だった。
早期教育を受けた自分とは違う、天性の賢さを感じた。
ミルディアでは思い付かないような発想をして、何度も驚かされた。
何よりも羨ましかったのは、ヴィクトリアもラグナードも子どもらしい天真爛漫さがあり、子どもらしく過ごすことが当たり前だったことだ。
ミルディアは物心付く前から勉強の毎日が当然で、それが普通だと思っていた。でも、違うと思い知らされた。
ミルディアの家族はミルディアの将来のことを思って早期教育をしていたのだが、ただ子どもらしく過ごして可愛がられているヴィクトリアとラグナードがとても羨ましく、眩しかった。
ミルディアには天性の巫女の素質があり、そのために教育が必要であることはわかっていた。
それでも、2人を羨ましく思う気持ちは治まらなかった。
「人を羨ましく思うのは浅ましいこと。未熟な証拠。巫女はそんな感情を持ってはいけません」
母の言葉を思いだし、ミルディアは唇を噛み締めた。
ヴィクトリアとミルディアは同じ学年にあたるのだが、ヴィクトリアのほうが誕生日が早かった。
「私、もうすぐ誕生日で7歳になるの。バラが満開の頃よ。バラ祭りの少し後だから、一緒に祝えなくて残念」
そう言われ、バラの花はヴィクトリアにぴったりだとミルディアは思った。
「誕生日にバラがいっぱいっていいな、私は秋の生まれなの」
「秋はコスモスが綺麗よ。私は春も好きだけど、秋も好きよ」
ヴィクトリアが目を輝かせる。
「僕は夏だよ」
ラグナードが言うと、
「ラベンダーが綺麗な時期ね。ミルの瞳と同じ色」
ヴィクトリアがラグナードの頭をなでる。
ミルディアはヴィクトリアの言葉に驚かされてばかりだった。
秋はコスモスが綺麗だとかラベンダーが自分の瞳と同じとか、よくそんなに早く思い付くものだ。
どちらかと言うとのんびりした性分のミルディアはそこまで早く頭が回らなかった。
「ねえミル、お願いがあるの。誕生日プレゼントがほしいの」
突然そんなことを言われ、ミルディアは驚いた。
「ごめん、誕生日のこと知らなかったから、家から何も持ってきてないの」
ミルディアが申し訳なさそうに言うと、
「違うの。お願いを聞いてほしいの」
ヴィクトリアが真剣な顔でミルディアの顔を覗き込む。
そんな顔で頼まれたら、ミルディアは頷かないわけにはいかなかった。