15、ミルディア6歳・2
しかし、いざ到着すると緊張はピークに達した。
自宅より立派なお屋敷。広い敷地。たくさんの使用人。
庭には立派なバラ園があり、ミルディアは魅了された。
ジョシュアが屋敷の主と挨拶を交わしている。
爵位の垣根など無さそうなほど仲良く見える。
「ミルディア、リーフェンシュタール卿だよ」
ジョシュアがミルディアに紹介する。
「初めまして、ミルディア嬢。君のお父さんとは学院で同じクラスでね。よく遊んだんだよ。勉強では1度も勝てなくてね」
フレデリックが朗らかに応じる。
「剣術では私は1度も勝てなかったからね、お互い様だ」
ジョシュアが笑う。
(お父様、嬉しそう)
ミルディアも嬉しくなった。
(友達っていいものなんだな。私もできるかな)
ミルディアが考えていると、子どもが2人、玄関から走り出てきた。
「ヴィクトリア、ダメだろ」
フレデリックが慌てて女の子を抱えて建物の中に入った。
小さな男の子が後を追う。
ミルディアとジョシュアも3人を追って、慌ただしく中に入る形になった。
そのまま応接室へ通された。
「すまないね、ヴィクトリアは長く日に当たってはいけないんだ」
フレデリックが謝罪する。
ミルディアは初めてきちんと2人の子どもを見た。
2人はびっくりするほど整った容姿をしていた。
女の子は艶やかな黒髪にラピスラズリを思わせる深い青い瞳。
男の子は灰銀色の髪に金色の瞳をしていた。
(こんな綺麗な子、見たこと無い)
ミルディアはため息をつき、自然と習った通りに目上の人へのお辞儀をしていた。
女の子が不思議そうにそれを見ていた。
「顔を上げて。私はヴィクトリアよ」
そう言われ、ミルディアは顔を上げた。
どうやら、ヴィクトリアはまだそこまで厳しく礼儀作法を習っていないらしい。
「ヴィ、ヴィク、トっリーア、様……」
ミルディアは緊張のあまり噛んでしまったのだが、
「トリーでいいわ。家族だけのときはお父様もお母様もそう呼ぶから」
ヴィクトリアは呼びにくいのだと思ったらしい。
「あなたの名前は?」
「ミルディア、です」
「じゃあ、ミルって呼ぶわね。こっちは弟のラグナード。ラグナとかラグとか、呼びやすいように呼んでいいわよ」
ヴィクトリアが言う。ラグナードはにこにことそれを肯定した。
「早速遊びましょう。楽しみにしてたの。外には出られないけど、家の中でなら何でもできるのよ。よろしく、私の初めてのお友達」
嬉しそうに笑い、ヴィクトリアはミルディアに手を差し出した。




