14、ミルディア6歳
旅行に行くと告げられたとき、ミルディアは文字通り狂喜乱舞した。
物心付く前からほぼ休みなく勉強と修行の毎日。旅行など生まれて初めてだった。
期間は1週間。
最初の2日と最後の2日は移動日。間の3日が自由時間だった。
移動日は馬車の中などで勉強する約束をさせられたが、3日も自由なんて初めてのことだった。
兄のクリストファーは王立学院の寮にいる時期で、最初は父と母とミルディアの3人で行く予定だった。
しかし直前に母が風邪をひき、2人で行く事になった。
「私の学生時代の友人の領地のお祭りに呼ばれたんだ」
と、父ジョシュアが説明した。
「お前と同じ年の女の子がいて、体が弱くて学校にも行けないから、遊び相手になってほしいそうだ」
6歳と言えば、良家の子女は王立学院に行く年だ。
ミルディアは巫女の修行のため、その子は体が弱くて家庭教師をつけて家にいるらしい。
「あと、2つ年下の男の子もいる。仲良くしてやってほしい」
そう言って、ジョシュアは色んなゲームを教えた。
ミルディアも多少は兄と遊ぶことがあったので、全く遊びを知らないわけではなかったが、カードゲームやボードゲームなどを教わった。
もちろん勉強もした。
時期は春の終わり。
その領地ではバラ祭りが行われるらしい。
元々ブドウがよく取れる場所だが、ブドウ畑を囲うようにバラも植えられた。
ブドウがかかりやすい病気にはバラもかかりやすいため、元々はブドウの病気のセンサーの役割だったが、いつ頃からかバラの名所としても知られるようになったらしい。
ラグナードの祖母にあたる人がバラをとても愛し、自身が得意な土の魔法を使って見事なバラ園を作ったりもしたそうだ。
やがてバラの季節には、3日間に渡りブドウの豊作を祈るためとバラを愛でる祭りが行われるようになったとか。
「向こうは侯爵家で、我が家より爵位が上だから失礼の無いようにな。そんなに気にする人たちではないが、念のため」
爵位は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順に高い。
王族と正式な婚姻が結ばれるのは圧倒的に侯爵家以上に多い。
それを聞いて、ミルディアは少し緊張した。しかし、6年の人生で初めて『お友達と遊ぶ』のだ。
否が応でも胸が高鳴った。
2日間の移動は大変だし、座りっぱなしであちこち痛くもなったが、そんなことはどうでもいいほどわくわくしていた。