13、昔話の前に
食堂に着くと、すでにラグナードの父親の姿があった。
瞳は金色だが、ラグナードがそのまま年をとったような人だ。ミルディアの記憶にもある。
ミルディアは頭を下げ、声をかけられるのを待つ。
「そう硬くならなくてよい。久しぶりだな、ミルディア嬢。大きくなって」
ラグナードの父、フレデリックの声が響く。
「お久しぶりでございます、リーフェンシュタール卿」
ミルディアは深く礼をし、顔を上げる。
ほかにはタイラーと給仕の姿しかない。
「母上は?」
ラグナードが尋ねる。継母だが、一応そう呼んでいる。
「魔物が出たので、念のため実家に帰らせてある。まずは食事にしよう」
フレデリックの言葉で、食事が運ばれてきた。
当たり障りの無い話をしながら和やかに食事は終わった。
食事は丁寧に作られたことがよくわかる、素材の味が生きた素晴らしい物だった。
「ジョシュアは元気かな?」
「はい、お陰さまで」
ジョシュアはミルディアの父の名前だ。
食事が終わり、お茶が注がれた。
「昔の話をしてもいいだろうか」
フレデリックの言葉で微妙に空気が変わった。
「……はい」
ミルディアの声が少し小さくなる。
「15年前のあの日、何があったのか。君が覚えていることを教えてほしい。ジョシュアは……君の父上は、君を守ろうとして事情を聞かせてくれなかった。まだ6歳だったのだから仕方ないとわかっている」
フレデリックがため息をつく。
「ラグナード、お前は何も覚えていないようだが……お前も立派な成人だ。そろそろ、真実を知っても良い頃だろう」
フレデリックは一呼吸おき、
「お前の姉のヴィクトリアは、魔物に殺された」
はっきりとそう告げた。
ラグナードは目を丸くした。
「お前の母は、娘の死に耐えきれず気が触れてしまい……ほぼ自殺に近い形で亡くなった」
フレデリックの言葉はラグナードにとって衝撃的ではあったが、だから誰も教えてくれなかったのかと納得できるものでもあった。
「少し腑に落ちないこともあってな。ヴィクトリアは魔物に食われ、無残な姿だった。顔は比較的綺麗なままだったので判別はついたのだが」
思い出したのか、フレデリックは辛そうに顔を歪めた。
「しかし、お前は重症だったが食われてはいなかったし、何より魔物の姿を見た者がいない。しかし、あの遺体の様子は野生動物に食われたものとは思えない。魔物はなぜお前を食べなかったのか。そしてどこに消えたのか。普通、魔物は誰かが退治するまでは近くに残るはずなのだが。しかし、あれから最近まで魔物が出たことはないのだ」
フレデリックは首を傾げた。
「ヴィクトリアの生きている最後の姿を見たのはミルディア嬢と、ラグナードのはずだ。あの日何があったのか、教えてほしい。何があったとしても、幼かった君を責めることはしないと約束する。ラグナードも、もしかしたら話を聞いて何か思い出すかもしれない」
フレデリックに促され、ミルディアは目を閉じて深呼吸した。
「お話しします。私が覚えている全てを」
ミルディアが目を開いた。
その目には決意と悲しみが彩っていた。