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12、肖像画

ミルディアは穏やかに目を覚ました。ゆっくり休めた気がする。

日差しが強い。もうお昼頃か。

いつもと違う天井。ここはどこだっけ。

ミルディアは色々考えながらゆっくり体を起こした。

「お目覚めですか?」

少し離れた場所から声がかけられた。

広い部屋の隅に見知らぬ女性がいる。服装からして侍女だとわかる。


「あなたは……?」

「ミルディア様のお世話を仰せつかりました、エイミーと申します」

エイミーと名乗った女性がお辞儀する。

「そうでした、ここはリーフェンシュタール邸でしたね」

ミルディアははっとする。

「はい、夜明け前にお着きになられて、倒れてしまわれたので」

「お手を煩わせてごめんなさい」

ミルディアは己れの不甲斐なさにうなだれる。

「いいえ、長旅でお疲れだったのでしょう。当領地のためにわざわざおいでいただき、感謝します。それより、お湯の準備がしてありますが、いかがですか? もう少し後で、旦那様方とのお食事の用意を致します」

「ありがとう」

ミルディアは言葉に甘えてお風呂に入ることにした。


入浴後しばらくして、エイミーが呼びにきた。

「お食事の準備ができました。ご案内します」

「わかりました」

ミルディアはエイミーについて部屋を出る。

少し歩いたところに肖像画が何点か飾られていた。

ミルディアは思わず足を止める。

「ミルディア様、何か?」

エイミーに尋ねられ、答える前に

「知ってる顔がありましたか」

背後から近づいてきたラグナードに声をかけられた。

「坊っちゃま」

「エイミー、下がってくれるか。すぐに行く」

ラグナードに促され、エイミーはお辞儀して立ち去った。


「姉のことを知っていたのですね。こちらにも来たことがあるとか」

エイミーが離れるのを見届けてから、ラグナードが口を開いた。

馬車の中よりやや口調が硬い気がするのは、ミルディアの気のせいではないだろう。

「申し訳ございません。ラグナード様の記憶がないことと、ラグナード様がお父上から何も聞いてないとのことだったので、私から話す決心がつきませんでした」

ミルディアが頭を下げる。

あの物言いたげなそぶりはやはり気のせいではなかっのだな、とラグナードは思う。

「話してくれますか?」

「はい。お父上にも聞いていただいたほうがいいかと思います」

「では、食堂で」

ラグナードが先に立って歩き始めた。

ミルディアはラグナードの後ろを歩きながら肖像画を振り返る。

視線の先には、艶やかな黒髪にラピスラズリ色の瞳をした綺麗な女の子の肖像画があった。

ミルディアは悲しげに見つめた後、再び前を向いて歩き始めた。

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