10、ミルディアの考察
ラグナードとの会話で、毒殺未遂事件を改めて考える。
(誰が、何のために? あれ、でも待って……あの状況で1番疑わしいのは……私!?)
とんでもない事実に気づいた。
毒の知識があって、王妃の近くにいて毒を入れることが可能なのは自分自身だ。
(キャロライン様に毒を盛るなんて、そんなこと、私は絶対できない! でも、それを証明はできない……)
ちらりとラグナードに目を向ける。
(まさかこの人、陛下に頼まれて私を探ってる?)
ミルディアはくらくらしてきた。
(私には動機がない……でも、例えば、キャロライン様に恨みがあって、とかでっち上げることはできる……かもしれない)
立場上、2人だけで会う機会は多い。その間に何かあったと勘ぐられる可能性はある。
(もしくは……途中で止めることで疑いの目を逃れようとしたとか思われてるかもしれない。途中で気が変わったとか……)
ミルディアが陛下に不満を持っているのは事実だ。
(例えば、キャロライン様の危機を作って陛下との距離を縮めようとしたとか思われたり……? だから毒が軽かったと思われてるとか……)
疑い始めるとキリがない。
(誰かが私を陥れようとしているの? どうしよう、疑いを晴らさないと……)
だが、何も思い付かない。
そうこうしているうちに目的地に着いてしまった。
ラグナードに差し出された手にひかれて馬車から降りたとたん、ぐらりと体が傾いた。
(しまった、考え事に夢中で魔力を使いすぎた……)
魔力が尽きると気を失うのだ。
「ミルディア嬢!」
慌ててラグナードが支えに入り、なんとか倒れこまずに済んだ。
「すみません、油断して……魔力を使いすぎました」
何とか立とうとするも、体に力が入らない。
ミルディアの視線の先に、まだ暗い中にリーフェンシュタール家の屋敷が浮かび上がる。
今日到着することを知らされていたためか、玄関に灯りが付いていた。
(これは……あのときの……)
一瞬で、過去の記憶が蘇る。
(あ……ダメだわ……)
ミルディアは意識を保っていられず、そのままラグナードに体を預けることになった。
「ミルディア嬢、しっかりして下さい」
ラグナードはミルディアを抱え上げた。
「誰か居ないか!」
ラグナードが玄関に向かって声を張り上げた。