9、2ヶ月前・2
「それならば、狙われたのは貴女の可能性もあるのでは?」
「それは無いと思います」
ラグナードの言葉を、あっさりミルディアが否定した。
「私があの日、王妃とお茶会をする予定なのを知る者は限られていますから、王妃が狙われたと考えるのが自然です」
「なるほど。ほかに気付いたことは?」
「不自然と言うか、腑に落ちないことはあります。あの毒は強いものではありませんでした。暗殺未遂と言うほどの毒ではありません。健康な成人ならば、少し飲んだとしても数日間体調を崩す程度です。ただ……」
ミルディアが言葉を濁す。
「ただ?」
ラグナードが促した。
「もし仮にですが、王妃がご懐妊されていたら御子の命はなかったでしょう」
男のラグナードには思い付かなかった発想だ。
「王妃にご懐妊の兆候が?」
「それは……わかりません」
陛下がキャロライン様のところにあまり通われないのは王宮の者なら周知の事実だが、可能性がゼロとも言えない。
だが、いくら親しいとは言え、そこまで踏み込んだ話はしない。キャロラインも異性関係がタブーの若い巫女にそんな話はし辛いだろう。
「お気の毒に、キャロライン様は自作自演説まで囁かれて精神的に参ってしまわれて……今も体調が優れないままです」
強くない毒だったため、王妃が陛下の気を引くためにやったのでは、と言う者がいたのだ。
「その噂は聞いたことがありますが、失礼ながら、その時の王妃の様子を考えて、可能性はあると思いますか?」
「あり得ません」
ミルディアは目を見開いた。
「キャロライン様は本当に驚いていました。演技とは思えません」
政略結婚とは言え、あんなに頑張っている人に愛情を向けない陛下に、ミルディアは不満を抱いていた。
政治的なところに不満はないのだが。
人の気持ちが簡単に行かないのはわかるが、恋愛ではなく夫婦なのだ。
もう少しキャロライン様のことを気にかけてもいいのでは、とミルディアは思う。
「では、犯人の目的はなんでしょう」
ラグナードが考え込む。しばし沈黙が訪れた。
「本当にご懐妊されていたか……。それとも何かの練習、もしくは……」
ラグナードの言葉に、
「警告?」
ミルディアが繋げた。
練習だとするならば、次に狙われるのは王妃とは限らないことになる。
警告とするなら、誰が何のために王妃に警告するのか。
考えてもわからないことばかりだ。
「間もなく到着します」
窓の外を見て、ラグナードが言った。
「夜明け前に着けるとは思いませんでした。回復魔法のおかげですね。感謝します」
食事を取る以外にほとんど休息を取ること無くたどり着けたのはラグナードも初めてだ。
「夜に向けて、しっかり休養と栄養をとってください。騎士団の皆様も、馬も」
ミルディアが微笑む。
魔物は夜に活動するのだ。働くのは今夜になる。
休む時間は十分だ。