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妖精巫女と海の国  作者: もも野はち助


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50/50

50.ゆっくりと

最後は9,000文字越えになってしまいました……。

申し訳ありません!

しかも甘いんだが酸っぱいんだか分からない感じなので、苦手な展開の方はご注意ください。

 姉をサンライズへ見送った翌日――。

 アズリエールは気が抜けた状態で、自室でぼんやりと過ごしていた。


 以前なら週末である本日は、王妃テイシアとお茶をしながら過ごしていたのだが……今回の事でテイシアは、かなりオルクティスの逆鱗に触れてしまったらしい。

 しばらくアズリエールとのお茶を禁止されたようで、二日前に城内でテイシアに偶然出会った際は、今までの事に関しての謝罪と共に何とかしてオルクティスにお茶会禁止の撤回を説得して欲しいと頼まれてしまった……。


 もちろん、アズリエールも誤解が解けたテイシアと交流をしたいので、何度かオルクティスの説得を試みたのだが……毎回笑顔を返されるだけで、一向に聞き入れてくれない。

 その事を申し訳ない気持ちでテイシアに伝えると、盛大なため息をつかれ「あの子は普段は温厚で滅多に怒らない子なのだけれど、一度怒るとなかなか怒りが収まらないのよね……」と愚痴を零し、酷く落胆していた。


 ちなみにこの偶然テイシアに出会って話し込んでいる時も、どこからか護衛のラウルが飛んできて、さっさとアズリエールをテイシアから引き離すと言う徹底ぶりである。ラウルも王妃であるテイシア相手にこのような対応をしなければならないので、非常に心苦しい様子だが……主君にそれを訴えても笑顔で却下されるらしく、最近医務室で胃薬を貰う事が日課になっているらしい。

 今回の事で母親に対するオルクティスの怒りは、相当根深いのだろう……。

 その当事者でもあるアズリエールは、何だか二人に対して申し訳ない気持ちになってしまう。


 そんな事を考えながら肘掛付きの長椅子にだらしなく座っていると、突然扉のノック音が部屋の中に響きわたる。


「どうぞ」


 アズリエールが許可を出すと、現在多忙なはずのオルクティスが入室してきた。


「あれ? オルク、しばらくは公務で忙しいって言ってなかった?」

「うん。でも昨日二日分の仕事を何とか片付けて、君との交流時間を無理矢理作って来た」

「無理矢理って……」

「だってここ10日間近くは君が姉君にベッタリされていたし、僕も公務で全く手が離せなかったから、一緒に過ごせる時間が最近少ないと感じたんだ」

「そう言えば、ここ最近は食事の時間以外にオルクと会話してなかったかも……」

「それでよければ、これから中庭の方で一緒にお茶でもどうかと思って」

「いいね! 久しぶりにお外でお茶!」

「そもそも少し前までの週末は、母上にアズリルを独占されていたからね」

「その事なのだけれど……。もうそろそろテイシア様を許してあげてもいいのでは?」

「うん。無理だね」

「当事者の私が、もういいって言ってもダメ?」

「ダメ」


 満面の笑みを浮かべながら、容赦のない返答をするオルクティスにアズリエールが、小さく息を吐く。テイシアの言う通り滅多に怒らない分、怒った際はかなり根に持つタイプらしい。

 そんなテイシアに対して同情的なアズリエールの様子を気にする事なく、オルクティスはアズリエールの両肩を後ろから掴み、そのまま押すように中庭へ誘導し始めた。

 すると、中庭の東屋前でメイド達が手際よくお茶の準備をしていた。


「あれ? 予め準備をしていたの?」

「うん。さっきも言ったけれど、君との交流時間を無理矢理作ったから、出来るだけその時間を無駄にしたくなかったんだ」

「今、そんなに公務が忙しいの?」

「忙しいと言うか……あらかじめ取り組んでいた計画がユリアエール嬢が手伝ってくれたお陰で、早く進められそうなんだよね」

「それって……港内の円滑な船の誘導航路の選定?」

「そう。本来はアズリルだけで、その航路の査定をするはずだったのだけれど……。この一カ月半は彼女の協力もあって、査定予定だった誘導航路の実験が予定以上に進められたから、現在その報告書を大量にまとめている最中なんだ」

「あー……っと。それは……忙しくしてしまって、ごめんなさいになるのかな?」

「いや? むしろ僕的にはお礼を言いたいくらいだよ」

「なら良かった!」


 そう言ってアズリエールは、メイド達が淹れてくれたお茶に手を伸ばす。

 口元にカップを近づけると、アズリエールの好きなリンゴの香りが漂う。

 ちなみにこの東屋に設置されているテーブルとカウチは何故か横並びに座るタイプだ。正直なところ、アズリエールは誰かと横並びで座ると話しづらいと感じてしまうのだが、オルクティスは気にならないらしい。


「そう言えば……昨日の送迎会の前半、アズリルは久しぶりに男装をしていたね? 何故?」

「だって私が男装して隣にいないと、ユリーが色んな男性に声を掛けられてしまうから……」

「君達は、お互いに対して過保護気味だよね……」

「オルクはユリーが、どれだけ男性の目を引いてしまうか知らないから、そんな事言えるんだよ!! ユリーは一人で放置しておくと人だかりができる程、男性が集まって来るんだからね!?」

「………………」

「何、その反応?」

「同じ顔の作りをしているアズリルが言っても、あまり説得力がないのだけれど……。その定義で言ったら、アズリルも一人でいたら男性達が群がってくるって事だよね?」

「私、群がられた事ないけれど?」

「それは……恐らく君が公の場でドレスを着た状態で一人になった事がないからでは?」

「あ、そっか」

「アズリル……。君、あまりにも男装する事に慣れ過ぎてないかい?」

「そうかも。そう言えば……よくテイシア様は男装する事を許してくれたよね?」

「いや、怒っていたよ?」


 そのオルクティスの返答にアズリエールの顔色が一気に青くなる。


「ええっ!? で、でも! ハルミリアお義姉様は許可してくれたって……」

「アズリルが男装する事に対しては怒ってはいないよ。けれど、アズリルが着る衣裳を自分で選べなかった事に母は酷くご立腹だったね」

「もう紛らわしい言い方しないで! でもそしたら今後の夜会で男装する機会を作った方がいいかな?」

「いや、それは僕的には承諾出来ない」

「何で?」

「君に男装されたら、ダンスを披露する際に僕が困る」

「ああー……確かに。少年令息と王子の禁断の恋みたいになるよね……」

「君にサンライズで婚約を申し込んだ時、そういう感じになってしまったから本当に困ったよ……」

「そう言えばあの時、周りのご婦人方から黄色い歓声が上がっていたような……」

「僕に男色の噂が出てしまったら、アズリルの責任だからね?」

「ええー……? あの服装の私にロマンス小説に出てきそうな麗しの王子様みたいな婚約の申し入れをしたオルクにも原因があると思うのだけれど?」

「その女性が喜びそうな効果的な演出の婚約の申し入れをしたにも拘わらず、冷静に対応してきた君も凄いと思うけれどね……」


 苦笑しながらオルクティスも自分の目の前にあるティーカップに口を付けた。

 その優雅な仕草でお茶を飲むオルクティスを横目でチラリと見たアズリエールが、ずっと気になっていた事を確認しようと話を切り出す。


「あの、さ。その申し入れの際に交わした婚約条件なのだけれど……。それって今でも有効、だよね?」


 アズリエールが言っている『婚約条件』というのは、友人関係での婚約という部分だ。条件のメインとなる内容は『巫女力の保護』である。

 だが、そのアズリエールの質問に対して何故かオルクティスが、フイっと視線から逃れるように明後日の方向に目を向けた。


「オルク……? ねぇ……まだあの条件、有効だよね!?」

「…………」

「オルク!?」


 ここ数日、この話題を振ると何故か明後日の方向を向いたまま視線を逸らしていたオルクティスだが……観念したのか大きく息を吐いた後、やっと口を開く。


「実はあの婚約条件……君のお父上とアレクシス殿下からは、アズリルの了承が得られれば、反故にしても構わないと承諾を頂いているんだよね……」

「はぁ!?」


 婚約者のいきなりな爆弾発言にアズリエールが驚きから、テーブルに手を突いて勢いよく席を立った。すると、オルクティスがこめかみ辺りとポリポリと指で掻きながら、何ともバツの悪そうな表情を浮かべて更に言葉を続け出す。


「ついでに言うと、父上と兄上からは、港の円滑な誘導経路の査定が終われば、君の巫女力の維持はそこまで頑張らなくてもいいと言われている……。現状だと遅くても三年後には、誘導経路の確立は出来ると思うから丁度僕達が婚礼を挙げる頃には、この国にとってはそこまで君の巫女力に頼る必要がなくなるかと……」

「待って……? それって……」

「ようするに、両国間では僕は挙式後に君の同意さえ得れば、君の巫女力を率先して維持する必要性はないという事になっているんだよね……」


 その衝撃的事実にアズリエールが、あんぐりと口を開けた。

 対してオルクティスは、気まずそうな表情を浮かべながら、再び視線を逸らす。


「で、でも! 婚約承諾書の方にはそんな事一言も……」

「確かに婚約承諾書には書かれていなかったけれど……。もう一枚のマリンパールでの行儀見習いで滞在する事への承諾書の方に書いてあったはずだよ? その中に閨の作法についての指導目的についての項目があったと思うのだけれど、そこに『将来的に本人同士の合意があった場合、その行為に至る可能性を考慮して閨の作法教育を受ける事は必須とする』という部分で、すでにアズリルの巫女力を維持するという条件は撤回されている形になるんだよね……」

「それ、詐欺じゃない!!」


 するとオルクティスが珍しく子供っぽい表情で、キョトンとする。


「いや、でも……流石にその部分の説明はアレクシス殿下から、しっかりとアズリルにして貰うようにお願いをしていたのだけれど……」


 そう言われ、アズリエールは婚約手続きをした当時の事を思い出す。


『あとは……こっちにもお願いできるかな?』

『こっちの書類は?』

『これは婚約承諾後、マリンパールへの行儀見習いで滞在する事への承諾書だね。まぁ、アズリルの場合は、行儀見習いというよりも風巫女として滞在するという意味合いの方が強いけれど』

『なるほど。じゃあ、こっちにもサインするね!』


 その時のやり取りを思い出したアズリエールは、調子の悪い風車のようにギギギッとオルクティスの方へと顔を向けた。


「アレク兄様が……サラリとサインを促して来たから、内容をよく読まないでサインしちゃった……」

「アズリル……。その失敗、僕の奥さんになってからは絶対にやらないでね……?」

「やらないよ!! そもそもあれは相手がアレク兄様だったから、何にも疑わなかったのに!!」

「君の中では本当にアレクシス殿下への信頼は絶大なんだね……」

「今をもって、その信頼は地の底に落ちたよっ!!」


 そう叫んだアズリエールは、そのままテーブルの上に突っ伏した。


「何で今回ユリーが、わざわざマリンパールにまで来て必死に妨害行為をしていたのか、やっとその理由が分かったよ……」

「恐らくユリアエール嬢は、その行儀見習いの承諾書を見て危機感を抱いたのだろうね……」


 オルクティスの補足を聞いたアズリエールが、更に盛大なため息をついた。


「ねぇ……。その条件を組み込んだのって、テイシア様?」

「いや?」

「じゃあ、ノクティス王太子殿下?」

「違うね」

「じゃあ、アレク兄様だ!」

「それも違うかな」

「じゃあ、誰!?」


 予想がことごとく外れたアズリエールが悔しそうに問いただすと、何故かオルクティスが笑顔を浮かべたまま無言を貫く。その反応から唖然としたアズリエールが、自ら答えを導き出した。


「まさか……オルクが……?」

「ユリアエール嬢は凄いよね……。まさかあんなにもすぐ見抜かれるとは思わなかったよ」


 そう言ってバツが悪そうな笑みを浮かべているオルクティスの言葉にアズリエールが、大きく目を見開く。


「だからこそ、彼女がアズリルに対して行った婚約の妨害行為の理由に気付けたのだけれど」

「そう言えば……オルクは何でユリーが私を守る為に妨害行為をしていたって分かったの?」

「いや、だって……。初めて彼女と顔を会わせた時、物凄い殺気を醸し出されてしまったから……」


 苦笑しながらそう言うオルクティスにアズリエールが、ポカンとした表情を返す。

 確かに二人が初めて会話した際、穏やかな表情とは裏腹に何故か場の空気が張り詰めていた。だが、その時はアズリエールも二人を面会させる事への不安があった為、そこまでそのピリピリとした空気感を気にしていなかったのだ。


「で、でも! その後にユリーはオルクに対して、アプローチするような行動をとっていたでしょ!?」

「あー……うん。でもね、そのユリアエール嬢って、戦闘態勢のアズリルの雰囲気とそっくりだったんだ……。だからすぐに演技だって分かっちゃって」

「戦闘態勢って……。私、そんな態勢に入っていた時なんかあった?」

「何回もあるじゃないか。一番分かりやすかったのは、最初の夜会の時に僕と一緒にダンスを披露した時かな? 君は普段あどけない少女のような振る舞いをしているけれど、自分をアピールしなければならないここぞという場面では、驚くほど化けるからね……。あの一瞬で無邪気な雰囲気から艶やかな雰囲気に変わる瞬間を目の当たりにした時、思わず僕は息を呑んだよ」

「そ、そんなに雰囲気変わっていた?」

「変わっていたね。少なくとも僕がもっと大人っぽいエスコートをしたくなるくらいには」


 その言葉にアズリエールがビクリと体を強張らせる。

 その様子を見たオルクティスが、にっこりと笑みを深めた。


「ユリアエール嬢が僕に対してアプローチをし出した時も同じような笑みを張り付けていたんだ。君らの性格は真逆だけれど、表情の動きは本当にそっくりなんだよ。僕の場合、先に君のみでその変化のギャップに免疫があったから、ユリアエール嬢のアプローチは何とも感じなかったけれど……。過去の君の婚約者や縁談相手は、コロっとなびいてしまったのではないかな? 初めに出会ったのがあどけなさ全開の君で、後から同じ顔をした艶やかな雰囲気をまとうユリアエール嬢に出会ったら、そのギャップの違いでユリアエール嬢の印象は、かなり魅力的に見えるからね……」

「そういうものかな……」

「実際にあの夜会から、僕が君の頭を撫でる機会が増えただろ?」

「それ関係あるの?」

「あるよ。君の頭を撫でる事によって、僕は自分にある暗示をかけていたから。『アズリルは愛でるべき存在であって、求めるべき相手ではない』って。そう言い聞かせないと、本当に君に対して友人の一線を越える様な接し方をしてしまいそうだったんだよね……」


 そう言いながら、頭を撫でだしたオルクティスにアズリエールが複雑な表情を向ける。


「それじゃあ……今までオルクが私の頭を撫でていた時って……」

「物凄く品の無い言い方をすると……僕の理性が吹き飛ばないようにおまじない的にやっていた行為だね」

「待って!! もしオルクの理性が吹き飛んでしまっていたら、どうなっていたの!?」

「全力で君の事を抱きしめていた」

「なっ――!!」

「下手をしたら膝の上に乗せたり……長椅子に押し倒して愛でていたかも……」

「ひぃっ!!」

「以前、泣いている君を軽く引き寄せて背中を叩いてあやした時は、本当に危なかったなぁー。あの時の自分の理性と忍耐力には、思わず自画自賛したくなるよ」

「嫌ぁぁぁぁぁー!! その時の弱っていた自分が恥ずかしい上にオルクが何か怖いっ!!」


 思わずオルクティスと距離をとったアズリエールは、背を向けながら座っているカウチの背もたれにしがみ付いた。

 その反応にオルクティスが声を上げて笑い出す。


「今日のオルク、意地悪過ぎるよぉ……」

「ごめんね? でもこれぐらい言わないと、アズリルがちっとも僕に警戒心を持ってくれないから……」

「警戒心?」


 やや赤い顔をしながら、アズリエールがそっとオルクティスの方へと顔を向ける。

 すると、オルクティスが困り顔で笑みを浮かべた。


「ユリアエール嬢が君に助言した事は本当だよ。どんなに誠実で紳士的な男性でも必ず獰猛な獣を飼っている……」


 その言葉にアズリエールが一瞬、息を呑む。


「それはもちろん、僕の中にもいる。でも君は他の男性に対しては、その獣を十分警戒出来ているのに僕に対してはそれが出来ていないよね? それは僕の事をとても信頼してくれているからだと思うけれど。でも裏を返せば、君が僕の事を異性として見てくれいないという事なんだ」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「じゃあ、言い方を変えようか? 君は僕の事を異性として見ないように心がけている」

「……………」


 すると図星だったからなのか、アズリエールが黙ってしまう。

 確かに今までのアズリエールは、敢えてオルクティスを異性として認識しないようにしていた。

 そうしないと、オルクティスと適度な距離感が維持出来ないと感じたからだ。

 それをすでに見抜かれていた気まずさから、そっと視線を逸らすアズリエールにオルクティスが座る位置を変え、距離を詰めてきた。


「確かに僕が君に婚約を申し込んだ時の最初の目的は、長期に渡る風巫女の力の無償提供が目当てだったのだからアズリルのその心構えは、とてもありがたいものだったよ? でもね、今はその必要性は一切ないんだ」


 そう言い切ったオルクティスにアズリエールが、カウチの背にしがみ付くのをやめ、ゆっくりと座る姿勢を元に戻し始める。


「だからアズリルには、これからはしっかりと僕の事を異性として意識して欲しい」


 その瞬間、アズリエールが大きく目を見開く。


「僕の中では大分前から君は妹的な存在ではなく、一人の女性になってしまっているんだ。正直、今の中途半端に愛でられる接し方が許されている状態や、滅多に弱音を吐かない君に無防備に甘えられる事は、僕にとって生殺しにされているような状態なんだよ……。僕は君を愛でるのであれば全力で愛でたいし、君に甘えて来られたなら全力で甘やかしたい」

「うっ……わっ、わっ……」


 あまりにも真っ直ぐな視線を向けながら、恥ずかしい事を口にし出したオルクティスにアズリエールが耳まで真っ赤になった状態で固まってしまった。そのアズリエールの反応を見たオルクティスは、何故か小さく息を吐いた後、困った笑みを浮かべる。


「でも君は、僕からそういう接し方をされる事が苦手の様だから……。今まではその匙加減を徹底して、君が心地よいと感じる距離感で接していたんだ……。でもそろそろ僕の中で、その停滞した距離感を維持する事が限界になって来てる。だからアズリルには婚約期間中のこの三年間で、少しずつでいいから僕からそういう接し方をされる事に慣れて行って欲しいんだけどな」


 そう言って、オルクティスが再びアズリエールの頭を撫で始める。


「むむむむむむ……無理だよっ!! だって! オルクのその甘い接し方って、色気がダダ洩れなんだもの! わ、私、そんな接し方ばかりされたら心臓が止まっちゃうよ!!」

「アズリル……。こう言っては何なのだけれど、君だって僕に同じような仕打ちをしていた自覚はないの? ハッキリ言って君は婚約後の交流から今現在に至るまで、僕の心臓をかなりの頻度で止めかけているよ? それでも僕は何とか持ちこたえて来たのだから、君にだってそれくらいは耐えて欲しいと思う」


 厳しめな事を言いながらもニコニコと頭を撫でてくるオルクティスにアズリエールが、やや俯き気味になる。そして確認してはいけないと思いつつも、確認せずにはいられない事を恐る恐る口にした。


「あの……今、頭を撫でているという事は……」

「うん。今の僕は全力で君の事を抱きしめたいと思っているね」

「――――っ!!」


 それを聞いたアズリエールは勢いよく身を引き、オルクティスから距離を取ろうとした。しかし、素早く片腕を掴まれ阻止されてしまう……。


「オ、オルクゥ~……」


 思わず涙目でオルクティスを見上げると、予想に反して優しげな視線を返される。


「ゆっくりでいいから……。いつか君が僕の為に大切な巫女力を失ってもいいと思える日が来るまで、僕はずっと待つから……。だから君のペースで確実に僕の気持ちに追いついてきて……くれないかな?」


 そう言って腕を掴んでいた力を緩めながら腕伝いにアズリエールの掌まで手を滑らせ、そのまま自分の手をアズリエールの手に重ねた。そんな甘さはあるが友人同士のスキンシップにも取れる接し方は、それ以上はアズリエールの心の準備が整うまでは踏み込まないというオルクティスの意思表示でもある。

 その配慮にアズリエールは安堵感を感じながら、今は甘える事にした。


「オルク」

「うん?」

「言っている口調と雰囲気は凄く紳士的だけど、内容の方は全く紳士的でないように思えるのは……気のせいかな?」

「そんな事はないよ? でも三年も待つのは辛いなぁー。そこから更に待たされたら、あまりの苦行に僕の中の獣が目覚めて暴走するような気がする……」

「それって全く私の気持ちが追いつくのを待ってくれてないよね!?」


 敢えて冗談に流してくれたオルクティスから、本当にずっと待っていてくれるのだろうと感じたアズリエールが、オルクティスに向ってふわりと微笑む。

 それに応えるようにオルクティスも優しい笑みをアズリエールに返した。


 14歳のアズリエールには、盲目になるほど人を愛すると言う感覚が分からない。

 それでもオルクティスの隣は、誰にも譲りたくないという強い気持ちは存在している。

 それが将来的にどのように育っていくのか……。

 それはアズリエールだけでなく、オルクティスにも分からない。

 それでも待つと言ってくれた婚約者の手をアズリエールは、そっと握り返した。


 その後、ユリアエールの予想通り、早々にその恋心を自覚したアズリエールが無自覚に繰り出すあざとい行動で、婚約期間中のオルクティスが苦悩する事になるのだが……それはまた別の話である。

以上で『妖精巫女と海の国』を完結させて頂きます。

もし作品の感想等あれば、評価ボタン前後辺りにある【妖精巫女と海の国のあとがき】の感想欄をご利用ください。

※他サンライズの巫女のお話もそちらにリンク張っております。


尚、誠に申し訳ないのですが、今作に関しては番外編がない状態で一度完結処理をさせて頂きました。

(理由の方はあとがきにて記載してます)

ですが、将来的に番外編の執筆は予定しておりますので、また執筆が完了したら再び連載再開をさせて頂きます。


この度は、50話もある長いお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました!

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★この作品の感想は、あとがきの方でどうぞ!★
【妖精巫女と海の国のあとがき】

【他サンライズの巫女シリーズ】

★風巫女エリアテールが主人公の話★

★雨巫女アイリスが主人公の話★
+注意+

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