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妖精巫女と海の国  作者: もも野はち助


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25/50

25.マリンパールでの生活

すみません……。

今回、ちょっと文字数多いです。(>_<)

 昨日はユリアエールからの手紙で、やや不安を募らせたアズリエールだが、翌日からは本格的に風巫女としての役割と第二位王子の婚約者としての日々が始まり、その目まぐるしい一日のスケジュールからか、姉の事を気にしている場合ではなくなっていた。


 そんなアズリエールのマリンパールで過ごす日々は、風巫女として船の誘導をする事がメインになる。

 そして市場の仕入れが少ない週末になると、船の出入りがそこまで多くないので、城で淑女教育を受けるという流れだ。


 その一日の始まりは、朝食をオルクティスだけでなく王太子夫妻とも一緒に取る事から始まる。なんでも王太子妃ハルミリアが、アズリエールと一緒に朝食を取る事を希望したらしく、そのついでに王太子である第一王子がオマケで付いてい来たという感じだ。


 だが意外な事にその王太子は、アズリエールに興味津々だった。

 恐らく妹的な立場になるアズリエールの存在が珍しかったのだろうと、オルクティスは言っていた。

 それと同じくらいその妻ハルミリアは、アズリエールに夢中である。

 そんな未来の義妹に対する兄夫妻の接し方に弟のオルクティスは、半ば呆れ気味だった。


 朝食が済むと、アズリエールはオルクティスの護衛のラウルと共に王都の港の方へと向かう。その間、オルクティスは城で事務的な公務をこなしている。

 対してアズリエールの方は、フィルクス隊と行動を共にしながら、早朝に積み荷を運んできた貿易船の出港を円滑にする為、巫女力で船を誘導させていくのだ。


 港が船の出入りで一番込み合うのが、入港してくる船が多い早朝よりも積み荷を降ろした後に出向する船が多い時間帯だ。

 その為、アズリエールは8時くらいから風巫女としての仕事を開始する。

 それを昼過ぎまで行って、その後小一時間程の昼休憩を挟み、そして午後からは15時頃から再び船の誘導を始め、大体船の数が減り出す17時前後くらいまで、ひたすら船の誘導を行うのだ。


 その間、午後からの仕事を始める前に昼食をとるのだが、城に戻る時間が勿体ないと、アズリエールは自ら海兵騎士団の寄宿舎にある食堂で、昼食を取る事を希望した。この事にその場にいたほぼ全員が驚いたが、ただ一人オルクティスだけは苦笑して承諾してくれた。


 その為、風巫女としての仕事を始めてから三日目となるアズリエールは、この日も午前中の出向する船の誘導に目途が付くと、騎士団員達の使う寄宿舎の食堂で昼食を取っていた。

 そんなアズリエールにフィルクスが心配そうに尋ねてくる。


「アズリエール様……本当にこのような場所で、お食事をされてもよろしいのですか?」

「うん! だってここのチキンソテー、絶品なんだもの!」


 その返答にフィルクスは更に困った表情を浮かべ、護衛のラウルは笑いを堪える為に咄嗟に口元抑えた。


「ですが……お城に戻られた方が、更に絶品料理を召し上がれるのでは……」

「フィルは分かってないなー。確かにお城のお料理は、高級食材を使って一流のシェフが作っているのだから絶品だよ? でもね、高級食材のお料理って少しずつしか出て来ないから、満腹感があまり得られないんだよね……。その点、ここのチキンソテーは、ボリュームもあって、しかも素朴で懐かしい味! たまにこういうお料理を食べると安心するんだよねー」


 そのアズリエールの言い分にフィルクスは、やや呆れ気味な笑みを浮かべる。

 反対にラウルの方は、肩を震わせ笑いを堪えていた。

 そんな三人に見回りから戻って来た兵士達が声を掛けてくる。


「妖精巫女様! 本日もお疲れ様です!」

「うわ! 随分ボリュームのあるお食事をされてますね……」

「俺も妖精巫女様と同じチキンソテーにしよーっと」

「あっ! チキンソテーは、さっき私の分で終わっちゃったよ?」

「そ、そんなぁ~……」


 お陰ですっかりここに馴染んでしまったアズリエールの様子にフィルクスが更に苦笑する。そんなフィルクスもすっかりアズリエールとの距離も縮まり、今では略称で呼ばれていた。

 それが計算なのか無自覚なのか……。

 相手との距離を一瞬で縮めてしまうアズリエールの対人スキルを何度も見ているラウルにとっては、もはやお馴染みな光景だが、フィルクスは毎回驚かされているようだ。


 そんなのんびりとしたやり取りをしていたアズリエール達だが、その雰囲気を壊す様な騒がしい足跡がドタドタと近づいてきた。


「コラァァァ―!! お前ら止まれぇぇぇぇー!!」


 その叫び声の方にアズリエール達が視線を向けると、何かが三人の前に駆け寄って来た。


「わふっ!」


 アズリエールが足元を見やると、そこには白と黒の二匹の大型犬が行儀よくお座りしながら、大きくパタパタと尻尾を振っている。


「お、お前ら……何で言う事聞かないんだよぉ……」


 恐らく犬の世話を担当しているであろう青年が息を切らしながら、涙目で犬達を睨みつけている。

 その青年の様子にアズリエールは、少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「ごめんね……。私、犬に物凄く好かれやすいから……」

「い、いえ! 妖精巫女様の所為ではございません! こいつらが言う事を聞かないだけで……」

「それにしても……海兵騎士団って、犬を飼っている人が多いんだね?」

「「「へ?」」」


 アズリエールの質問に世話係の青年だけでなく、ラウルとフィルクスも素っ頓狂な声を上げた。


「え? だってこの子、初めて見る顔だよね? 昨日も近寄って来た子がいたけれど、別の毛色だったし。ここは犬好きの人が多いのかなって」

「アズリエール様、こいつらは別にペットとして飼われている訳ではないのですよ?」

「え?」


 フィルクスのその言葉にアズリエールが首を傾げる。


「実はこいつらは、ここで立派に働いてます。主に違法薬物と密入国者の探知犬として」

「あー、なるほど! だから犬が、たくさん飼われているんだね!」


 そう言って足元の二匹の犬を交互にわしゃわしゃと撫でると、二匹ともアズリエールの足元にすり寄って来た。


「コラァァァー!! お前ら、そんなにすり寄ったら妖精巫女様のお召し物が汚れるだろうーがぁ!!」


 青年が手綱を引っ張り必死に二匹を引き離そうとするが、犬達は一向にアズリエールから離れようとしない……。

 その騒がしい様子にラウルとフィルクスが顔を見合わせて笑っていた。




 そしてその週末――――。

 アズリエールは港ではなく、城内でマリンパールの王族向けの淑女教育を受けていた。


 しかしサンライズで王族向けの淑女教育を受けていたので、社交的な振る舞いでは特に指導する事がないらしい。

 その為、主にマリンパールの歴史について学ぶ事が殆どだった。

 その際にすぐに教育係の女性と雑談になってしまう。

 それがとても楽しくて、アズリエールはマリンパールで過ごす日々を大満喫していた。


 しかしそんな楽しいひと時が、一瞬で終わりを告げる誘いが、アズリエールのもとにやって来る。扉がノックされたかと思うと、やや困った笑みを浮かべた王太子妃ハルミリアが入室して来たのだ。


「アズリル、お義母様があなたとお茶をご希望なのだけれど……」

「ええ。喜んで」


 気まずそうにそう告げてきたハルミリアにアズリエールも、やや困った笑みで返した。そして教育係に挨拶をして、ハルミリアの後に続いて退室する。


「ごめんなさいね……。どうやらお義母様は、週末のアズリルのお茶の時間は、わたくし達に付き合って貰いたいご様子なの」

「いえ。わたくしもテイシア様とのお茶は、楽しみなので」

「本当に……?」

「ですが、出来ればハルミリアお義姉様に手助けして頂けると助かります……」

「そうなるわよね……。全く! お義母様はいつまでアズリルを試し続けるおつもりなのかしら!」

「お義姉様の時は、ここまで長引かなかったのですか?」

「そうねぇ……。いえ、長引いたわ! わたくしの場合、二週間は続いたもの!」

「に、二週間……」

「アズリル、大丈夫よ! わたくしが全力でフォローするから!」

「お心遣い、大変痛み入ります……」

「ほ、ほら! 元気を出して!」

「はい……」


 やや重い足取りでハルミリアの後を続いていたアズリエールの目の前に王妃テイシアの部屋が現れる。そこでアズリエールは、大きく深呼吸をした。

 その様子に苦笑しながらハルミリアが、目の前に扉をノックする。


「失礼致します。お義母様、アズリルをお連れしました」


 ノックと同時に部屋の扉が開かれ、二人は室内へと足を踏み入れる。

 すると王妃テイシアが、花がほころぶような柔らかい笑みで迎えてくれた。


「アズリル、いらっしゃい! さぁさぁ、その様な所に立ち尽くしていないで、二人共こちらにいらっしゃいな!」

「はい。テイシア様」


 ハルミリアに続き、アズリエールがテイシアが座っているテーブルの席に着く。

 するとテイシアが、更に笑みを深めた。


「相変わらず一つ一つの動作が、あなたは美しいわね……。そうそう。大事な事をお願いをしないと! 実はね、今週からあなたには、わたくし達とのお茶に付き合って貰いたいの」

「それは大変光栄なお誘いでございますが……。テイシア様のご都合はよろしいのでしょうか?」

「ええ! そもそもここ最近は、ハミと二人きりのお茶に飽きてしまって……」

「お、お義母様!?」

「だって……あなた、最近はすっかりわたくしに慣れてしまったようで、緊張感がなさ過ぎるのだもの。ここはアズリルに参加して貰って、あなたに忘れてしまった緊張感を思い出して貰おうかと思って!」

「お義母様……」


 テイシアのその言葉にガクリと肩を落としたハルミリアに思わず苦笑してしまったアズリエール。

 しかし、王妃テイシアの言っている事は裏を返せばハルミリアだけでなく、アズリエールにも緊張感を持ってお茶の時間を過ごして欲しいという事だ。

 お茶とは……本来リラックスしながら会話等を楽しむ行為ではなかっただろうか……。

 そんな事を一瞬思いうかべていたアズリエールの心を読んだのか、テイシアがニッコリと笑みを深めてくる。


「それでアズリル、風巫女のお仕事の方は順調なのかしら?」

「はい。皆、大変良くしてくださいます」

「そう。良かったわ! でも……あなた確か、騎士団の寄宿舎の食堂で昼食を取っていると聞いたのだけれど……」


 その言葉にアズリエールが、一瞬だけ固まる。

 その様子にハルミリアが、すかさずフォローに入った。


「お義母様、アズリルは早く海兵騎士達と連携がとりやいように親睦を深める為、敢えてそちらで昼食を取られているのですよ」

「あら? 何故ハミが答えるの?」

「えっ? い、嫌だわ! だってお義母様が何か探る様な物言いをなさるから、つい……」

「まぁ! 人聞きの悪い! 探るような物言いなど、わたくしはしていませんよ?」

「だってぇ……」

「ハミ、あなた最近、少々気が緩んでいるのではなくて?」

「も、申し訳ございません……」


 そのやりとりを聞いていたアズリエールは、ハルミリアの助け舟に甘んじていられない事を悟る。

 ハルミリアがアズリエールをフォローすれば、それが全てハルミリアに返ってしまうからだ。


「実は、海兵騎士団の寄宿舎にいる探知犬があまりにも愛らしくて、その子達と触れ合う時間を得たい為、あちらで食事をとっております」

「そういえば、あなたはとても犬に好かれやすいのよね?」

「はい。サンライズの巫女は、それぞれある特定の生き物に好かれすいという特徴がございまして」

「それがあなたの場合は、犬なのね……」

「ええ」

「それでは、あなたのご姉妹もそういう生き物がいらっしゃるのかしら?」

「え……?」


 急に『姉妹』という言葉がテイシアから出てきたので、アズリエールは分かりやすいくらいに体を強張らせてしまった。

 その反応をテイシアが見逃すはずもなく……更に笑みを深めて質問してくる。


「あら、だってあなたのお姉様と妹君も風巫女なのだから、そういう生き物がいらっしゃるのよね?」

「え、ええ。その姉は……母と同じ野ウサギに好かれやすく、妹二人は鹿と小鳥に好かれやすいですね」

「そういえばお姉様とあなたは確か双子なのよね? 見た目もそっくりなのかしら?」


 その質問に笑みを張り付けたまま、アズリエールは必至で答えようとする。

 しかし、先程から冷や汗が止まらない……。


「はい。一卵性双生児なので。ただ性格の方は、対照的ですね。姉はわたくしと違って、とても内向的な上に淑やかな女性なので……」

「まぁ! 同じ双子でもそこまで違うの!?」

「ええ。外見は全く一緒ですが、中身は本当に正反対なので」

「それは是非、あなたと並んでいるところを拝見したいわね!」


 そのテイシアの言葉にアズリエールは息を飲む。

 しかしその話題を何も知らないはずのハルミリアが、無自覚な機転を発動して変えてくれた。


「お義母様、それよりもアズリルの風巫女としての評判の方をお聞かせくださいませ! 本日、お義母様がアズリルをお呼びしたのは、各方面から上がった風巫女としての彼女への賛辞の声をお聞かせくださる事でしたわよね?」

「もう……。アズリルの事なのに何故あなたが、それを聞きたがるの?」

「未来の義妹の評判を把握しておく事も義姉であり、王太子妃でもあるわたくしの務めかと!」

「あなたは、自分のお気に入りの彼女が皆に褒め称えられている現状が、知りたいだけでしょ……?」

「よろしいではないですか! それで……アズリルには、どのような称賛の声が集まってきているのですか?」

「全く、あなたって子は……。まぁいいいわ。それでは今から報告を受けた彼女の評判を読み上げるわね?」

「はい!」


 そう言ってテイシアは近くに控えていた侍女から、この三日間でかなり国内外の貿易関係者や国民から上がって来たアズリエールへ意見をツラツラと読み上げる。

 現状のアズリエールの風巫女としての役割は、実は実験的なものでもある。

 万が一、船の誘導の際にアズリエールの手違いで事故の様な事が起こった場合や、アズリエール自身に危害が及ぶような事があれば、即中止となる可能性もあるのだ。


 その為、港や貿易関係者と国民からアズリエールが風巫女としてどれだけ貢献度がある存在か、意見を募っていたらしいのだが……。

 どうやら派手好きなマリンパール国民にとっては、可憐で小柄な少女が妖精のように空を舞い、大型船を軽々と動かす姿は壮観な光景だったらしく、海兵騎士団内で広がった『妖精巫女』の呼び方までも浸透してしまう程、評判がいいらしい。

 同時に港や貿易関係者の方からも、船の出入りがかなり円滑になったとの喜びの声が多く寄せられていた。


 たった三日で、まさかここまで反響を呼ぶとは思っていなかったテイシアが、それらの高評価な声の多さにニッコリと笑みを浮かべた。


「ふふっ! アズリル、あなたの風巫女としての振る舞いは、国内では大評判のようね! これならば未来の第二王子妃としては、申し分のない結果だわ!」


 珍しくテイシアが裏表のない柔和な笑みをアズリエールに向けた。

 しかし、当のアズリエールは何故か力のない笑みで返す事しか出来ない。

 その様子にテイシアだけでなく、ハルミリアも怪訝な表情を浮かべる。


「アズリル、どうかしたの? もしかして……あまり嬉しくないの?」


 心配そうにハルミリアが顔を覗き込んで来た事で、アズリエールが我に返る。


「も、申し訳ございません! まさかこれ程までに反響があるとは思わず、驚いてしまって……」

「そうね。まさかたった三日で、ここまで国民の心を惹きつけてしまうなんて。オルクも元々国民からの人気が高い子だから、今後はあなた達がセットで行動すれば王族のイメージアップとして、良いパフォーマンスになりそうね」

「まぁ、お義母様! それではまるでノクティス様が国民からあまり支持されていないように聞こえるのですが!?」

「だって……あの子、城に引きこもって公務ばかりしているから国民から見た場合、あまり存在感がないじゃない?」

「そのノクティス様の公務を増やされているのは、お義母様ですよね!?」

「だってティスに頼むと、すぐに仕事を処理してくれるから助かるんですもの」

「それならばオルクの方にも少し廻して頂けませんか?」

「嫌よ。だってオルクに査定関係での書類を回すと、あの子は色々考え込んでしまって判断を下すのに時間が掛かり過ぎるんですもの。その点、ティスは一瞬でそういう部分を見極めて判断してくれて仕事が早いから、ついつい事務系の公務はあの子の方に廻してしまうのよね……」

「お義母様……」

「そもそもティスは表立って公の場に出るのは、あまり好きではない性格でしょ? その辺はオルクに頑張って貰うから、適材適所という事でいいのではないかしら?」


 自分の夫の酷使されている状況を抗議する嫁と、それをサラリと交わす姑の会話がアズリエールの目の前で繰り広げられる。

 しかし、当のアズリエールはその会話内容が一切耳に入っては来なかった……。

 アズリエールは、このお茶会で最大のミスを犯してしまったからだ。


 王妃テイシアに姉が自分の弱点である事を知られてしまった……。


 その事が先程から頭の中を駆け巡り、この日のお茶席でのアズリエールは、終始力ない笑みを浮かべながら時間をやり過ごすしかなかった。

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