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妖精巫女と海の国  作者: もも野はち助


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14/50

14.初めて見た一面

 ウェイラル子爵家が管理する港町を一時間程散策すると、次の宿泊場所までの到着時間を懸念され、二人は港町を発った。


 次の宿泊場所でもある屋敷は、セリナス領にある王家が所持している別邸になる。

 そこで一泊し、翌日の朝一番に出発すれば最終目的地であるマリンパール城へ到着となる。


 そのセリナス領は、三大侯爵家の一つリベルディア家の傘下でもある伯爵家が治めている領地だ。

 同時にこのリベルディア侯爵家は、現在この大陸の中心国でもあるコーリングスターの王妃イシリアーナの生家でもあるミスティクルー公爵家と関りが深い。


 このミスティクルー家というのが、主に大国コーリングスターとの窓口を専門に担っているのだが、その分マリンパール領内では、ある意味独立しているような存在だ。

 ミスティクルー家の属している国はマリンパールだが、実際はコーリングスター寄りの考えも強く持つ。

 大陸一の大国と二番目に規模の大きいマリンパールが万が一争う事になった場合、常に中立の立場から意見出来る存在として、両国の外交関連を専門に担う少々特殊な家柄だ。


 そしてコーリングスター側の何代目かの第一王位継承者の許に必ずこのミスティクルー家の公爵令嬢を定期的に嫁がせると言う形で、両国の中立的な立場を維持させていたのだが……。

 現王妃イシリアーナの輿入れに関しては、まだその嫁がせる機会ではなかった。

 しかし現コーリングスター国王でもある当時王太子だったジークレイオスが、当時のミスティクルー公爵令嬢のイシリアーナにえらく惚れ込み、予定よりも三代早くミスティクルー公爵家の令嬢でもあったイシリアーナの輿入れが実現された経緯もある。


 そんなマリンパール国内で唯一の公爵家でもあるミスティクルー家だが、国内の派閥争い等に関しては、口出しどころか一切関与してこない。

 あくまでもマリンパールとコーリングスターの言い分を中立の立場で検討し、意見する独立した特殊な存在なのだ。


 その為、残された三大侯爵家の上の爵位が存在しないも同然なので、この三家が派閥争いを始める可能性が高まる。

 だからこそ将来的に第二王子のオルクティスに臣籍降下ともに公爵位を与え、その三大侯爵家を抑えられるもう一つの公爵家を生み出そうという動きが、現在視野に入れられている。


「それじゃ、オルクは将来初代公爵閣下として、その公爵家を守っていかないといけないね」

「まぁ、そうだね」


 現在は、そのコーリングスターとの交流が盛んなセリナス領内にある王家所有の別邸に馬車で向かっている最中だ。


「それで……オルクは次の婚約者候補とか、ちゃんと目星はつけているの?」

「え?」


 当然とでも言いたげなアズリエールの質問内容に驚き顔のまま、オルクティスが首を傾げる。


「いや、だって、このまま僕を妻に迎い入れる訳にもいかないでしょ? そんな力ある侯爵三家を押さえ付けるなら王家の血筋は重要だから、オルクは妻としての役割をしっかり達成出来る女性を迎えないと!」

「まぁ、そうなのだけれど……。そこは僕の子でなくても兄上達に頑張って貰って、二人の子供を養子に迎えれば問題ないから。だからアズリルさえよければ、挙式後にそのまま僕の妻として公爵夫人になって貰えた方が、こちらとしては嬉しいのだけれど」


 あまりにも予想外の返答がオルクティスから返ってきたので、思わずアズリエールが口をあんぐりさせる。


「こ、公爵夫人!?」


 その反応を楽しむようにオルクティスが、口元を押さえ笑いを堪えた。


「そんなに驚かなくても……」

「驚くよ!! 僕、そんな高位貴族用の淑女教育なんて、全く受けていないんだよ!?」

「でも一時期、王妃候補向けの淑女教育をアレクシス殿下のご婚約者のアイリス嬢とご一緒に学んでいたって――――」

「それ、誰情報!?」

「え? アレクシス殿下だけれど」

「アレク兄様……」


 オルクティスの返答にアズリエールが、ガックリと肩を落とし頭を抱え込む。

 確かに一時的にアイリスの王妃教育に興味本位で、親友のフィーネリアと一緒に参加していた事はある……。


 だがそれは7年前の例の事件直後、アズリエールの巫女力が危険視され、力の使い方の指導を三ヶ月だけサンライズ城に滞在して受けていた時の一瞬の期間だけだ。

 それをさも、しっかり教育を受けていたように語ったアレクシスは、一体何を考えているのだろうか……。

 ずっと項垂れているアズリエールが、やや不憫に思えて来たのか、反応を楽しんでいたオルクティスが苦笑しながらフォローに入る。


「でもアレクシス殿下のお話では、君は本当に王族向けレベルの淑女教育をしっかりとマスターしていると伺っているよ?」

「王族向けかは確認していないけれど……。確かに淑女教育を開始する際、厳しめな指導を受けたいと昔の僕は、アレク兄様にはお願いはしたよ? でもまさか、それが王族向けだったなんて……」


 アズリエールが、更に深く項垂れ、頭を抱え込みながら呟く。

 その呟きにオルクティスが反応した。


「自分から厳しめの淑女教育を望んだの? どうして、そんな事を――――」


 すると、項垂れていたアズリエールが盛大なため息をつきながら、体勢を起こす。


「僕は自分の我儘で、令嬢としては問題あるこんな格好(なり)をしているから……。だからせめて淑女としての礼儀作法や振る舞いだけは、完璧に身に付けておくべきだと思って。やる事をやりもせず、自分の我儘を貫き通すのは何か違うと思って、自分なりのけじめとして、厳しめの教育指導をアレク兄様を通してお願いしたんだ。でもまさか、こんな事まで視野に入れられていたなんて……」


 そして再びガックリと肩を落とす。


「なるほど。何故アレクシス殿下が、王族である僕の婚約者候補として、君を自信満々に紹介してくれたのか、今やっと分かったよ」

「でも! 僕は将来的に自分が公爵夫人になる事が、考慮されていたなんて聞いてないよ!?」

「それは本当にごめん……。でも無理矢理という訳ではないから。もちろん、君の意志は尊重するつもりだよ? でも……こちらとしては、自国にとって大変有益な風を操る力を持つ君が、第二王子である僕の妻として公爵夫人という立場に収まり、生涯この国の繁栄に協力してくれれば、物凄く助かるのだけれど」

「そういう言い方はズルいよぉ……。ますます婚約解消を言い出しにくくなるじゃないかぁ……」

「だって出来れば、僕にとっても、そしてこの国にとっても、君には僕との婚約をそのまま継続して貰って、最終的には僕の妻としてこの国に骨を埋めて貰いたいから」

「オルク……。それ、凄く重いのだけれど……」

「それだけマリンパール王家は、君という存在を絶大に評価しているという事だよ?」


 ニッコリしながら、そう言い張るオルクティスにアズリエールは、ワザと意地の悪そうな笑みを向ける。


「でも約一名、反対しているお方がいらっしゃるのでは?」

「母上の事かな? どうだろう……。僕の予想では、君に会って、すぐにその考えは思い直される気がするけれど。だって君は、僕達王家の人間を懐柔する為のサプライズを準備しているのだよね?」

「マリンパール滞在中に僕が、円滑な人間関係を築きやすくする為でもあるサプライズだったのだけれど……。もしテイシア様のお心を掴んでしまったら、将来的には公爵夫人という大役が待ち受けていると思うと、そのサプライズはしない方がいいかもとも思えてくる……」

「出来ればそのサプライズは実行し、成功させてほしいな。正直な所、母を敵に回すと非常に面倒だと思うし。何よりも僕は周りの君への間違った認識の噂が、払拭された方が嬉しいのだけれど」


 更にニコニコとしながら、やんわりと協力を催促してくるオルクティスにアズリエールは、頭を抱えたまま唸る。


「う~~~~……」

「アズリル、これは僕からのお願いだよ? 将来的に公爵夫人になって貰う事への件は、今はまだ保留でいいから……。明日からのマリンパール滞在中のこの三カ月間は『第二王子の婚約者は、実はこんな素敵なご令嬢だった』と、国中に自慢させて?」


 そう言って頭を抱え込みながら、俯いているアズリエールの顔を下から覗き込む。

 そして同情を誘うような困り気味の柔らかい笑みを浮かべながら、オルクティスが上目遣いで懇願して来た。

 そういう行動をされたアズリエールが、ガバっと顔を上げ叫ぶ。


「だぁーかぁーらぁー!! そういうお願いの仕方がズルいのぉぉぉー!!」

「うーん。アズリルの真似をしてみたのだけれど……」

「尚更、腹立たしいよっ!!」


 アズリエールがキッと睨みつけると、オルクティスが声を上げて笑い出す。

 その反応にアズリエールが口を尖らせた。


 そもそも今オルクティスが頼んで来た内容は、将来的にアズリエールと生涯を共にしてもいいという話になる。

 そうなればオルクティスは一生、自分の子供を授かる未来が無くなる……。

 その場合、確かにマリンパール王家にとっては、アズリエールが生きている限り、風巫女の力で円滑な船の入港管理が保証されるのだが、それは第二王子であるオルクティスの人生を犠牲にして成り立つものだ。


 だが、アズリエールからすると、オルクティスはとても面倒見の良いタイプである。

 もし子供を授かれば、確実に子煩悩な父になるはず。

 しかしそのオルクティスの未来を王家が求めている国益と、自分の巫女力を失いたくないという我が儘で閉ざしてしまう事は、アズリエールにとって出来れば避けたい事なのだ。


 しかし当のオルクティスは、自身が子供を持てないという未来に関して、あまり意識していない様子だ。

 というよりも……まだ15歳という年齢ではピンと来ないのだろう。

 しかし、それは年齢を重ねる毎に大きな問題となってくるはず。

 アズリエールとしては、やはりオルクティスには、普通に愛する人と結ばれ、家族を増やす未来を歩んで欲しいと強く願ってしまう。


「もし……オルクが公爵となって、更に僕と婚姻した場合、それは簡単に離縁出来る婚姻という扱いには出来る事なの?」


 ボソリと呟くようにアズリエールが質問すると、それを耳にしたにオルクティスが大きく目を見開く。


「その場合――――アズリルは、そういう状態になっていた方がいいのかな?」


 答えの代わりに質問で返して来たオルクティス。

 その声が、何故か酷く力ない声に聞こえてしまい、アズリエールが慌ててオルクティスの顔色を窺う。

 すると、予想通りの悲しそうな笑みを浮かべていた。


「ま、待って! 今の質問は別にオルクと夫婦になる事が嫌とか、オルクの事が受け入れられないとかでした訳ではないよ!? むしろ、オルクの将来の事を心配……というか、普通の夫婦で得られる幸福を得られない婚姻になってしまうから、申し訳ないという気持ちから出た質問だからね!?」

「うん……。もちろん、アズリルがそんな酷い考えをする女性ではない事は知っているから、それは分かってはいるのだけれど……」


 先程の悲し気な笑みを浮かべたまま、オルクティスが力ない声でポツリと溢し、一度言葉を止めた。

 しかし次の瞬間、何かを訴えるような真っ直ぐな目をアズリエールに向ける。


「僕にとって何が幸せかを判断出来るのは、僕自身だけだよ?」


 そう言って柔らかい笑みを浮かべたオルクティス。

 しかし、その瞳からは明らかに「他人に自分の幸せが何か、勝手に決めつけられたくない」という強い意志が読み取れた。


 出会ってから今日までの二カ月間。

 アズリエールに対しては、常に受け身で接してきてくれたオルクティスだが、今日初めて譲れない部分もあるという事を主張をされたアズリエールは、その初めて見た婚約者の一面にビクリと体を強張らせる。


「ご、ごめん!! 本当にそういうつもりではなくて――――っ!!」


 どこか怯えたような反応をし出したアズリエールにオルクティスがハッと気付き、気まずそうに謝罪する。


「僕の方こそ、ごめん……。こんな風にアズリルを怯えさせるつもりは一切なかったのだけれど……。でも今の君の言葉だと、夫婦となるからには子供を授かる事が僕の幸せだと、決めつけられているような気がして……」


 出来るだけ、優しい声音になるように気遣ってきてくれたオルクティスにアズリエールが苦笑する。


「違うよ。僕は別にすオルクに怯えた訳じゃないんだ……。その――――久しぶりに自分が、相手の気持ちを読み間違えた事に情けないと思ってしまっただけだから」

「読み間違えたって……。むしろ、間違えない方が難しいと思うのだけれど」


 苦笑するオルクティスに今度はアズリエールが、真っ直ぐな瞳を向ける。

 そしてそのまま綺麗過ぎる程の笑みを浮かべた。


「でも、それがアレク兄様から伝授して貰った今僕の中にある()()()()()()だから」


 今まで天真爛漫のアズリエールしか見た事がなかったオルクティスが、大きく目を見開く。

 いつも明るく無邪気に振る舞っているアズリエールだが、今目の前の彼女は貴族令嬢達がよく使う『心の中を読ませない為の仮面』の様な笑みを浮かべていたからだ。

 アズリエールが、そのような笑みを浮かべられる事を知ってしまったオルクティスの瞳が、動揺からか僅かに揺れる。


「アズリル……君は――――」


 しかしアズリエールは、その美し過ぎる仮面の様な笑みをすぐに消し、再びいつもの無邪気な笑みを浮かべ直した。


「はい! この話は、お互いに謝ったのだから、もう終わり!」


 そう言い切り、アズリエールはさっさと話を終わらせてしまう。


「アズリル、あの……」

「もうこの話は終わりだよ?」


 それでも何か言いたげに話を続けようとしたオルクティスだったが、またしても強い光を宿した瞳で笑みを浮かべ、これ以上は踏み込ませないという態度をアズリエールが、やんわりと示す。


 先程アズリエールは、何故そこまで自分の将来を犠牲にしてまで、オルクティスがマリンパール王家に尽くす事に抵抗を抱かないのか、その理由を敢えて聞かなかった。

 だからアズリエールの方での触れられたくない部分には、オルクティスも触れないで欲しいという訴えでもある。


 そのアズリエールの訴えを空気を読む能力に長けているオルクティスは、一瞬で気づいてしまう。

 いつもは便利な対人スキルではあるが、今ほどその特技が邪魔な能力だと感じた事はない。


「分ったよ。じゃあ、もうこの話は終りにしよう」


 困りきった様な笑みを浮かべたオルクティスは、早々にアズリエールの『最大級の武器』についての追及を諦めた。


 そんな一瞬だけ気まずい雰囲気になった馬車内だったが、その状態を継続する事は、あまり得策ではないとお互いに判断し、すぐに今まで通りのやりとりに戻る。


 その後、屋敷に付くまでは、午前中のような雰囲気で、明日マリンパール城入りした際の予定と、城内の様子などの話をして、先程のやりとりをお互い無意識で、有耶無耶にする事にした。

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