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妖精巫女と海の国  作者: もも野はち助


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10/50

10.笑い上戸な婚約者

 食堂に着くと、オルクティスが扉を開けて中に促してくれた。

 すると、中で待機していた執事と数名のメイドと給仕が挨拶をしてくる。

 そして席に着こうとすると、近くで控えていた給仕が椅子を引いてくれた。

 たった一日だけの滞在なのに丁重に扱われている様子から、オルクティスとこの屋敷の所有者であるレイオットとの親密さが窺える。


 そしてすぐに運ばれて来た料理は、かなり新鮮な肉を使ったと思われる鹿肉のワイン煮だった。じっくり煮込んであるようで、フォークで掬うとトロリと崩れそうなくらい柔らかそうだ。

 しかしそんなメイン料理以上に驚いたのが、付け合わせに贅沢なほどの魚介類が使われている事だった。

 マリンパールという国は海産物メインで貿易を行ってはいるが、現在滞在しているこの屋敷の場所では、海の近くという感覚がなかったアズリエール。だが魚介をふんだんに使った料理が出てきたので、思わず小首を傾げてしまった。

 そのアズリエールの考えを読み取ったオルクティスが、にっこりと微笑む。


「ここは丁度、海と山の間くらいに位置してる場所なんだ。だから両方の食材が楽しめるんだよ」

「うわぁ~。贅沢! もしかしてクロフォード卿は、かなり食に拘りがあるの?」

「そうだね……。言われてみれば、幼い頃から食べ物の好みはうるさかったかも」

「海と山かぁー。空からの移動ならそれに気付けたけれど、陸移動だと地形とかよく分からないからないからなー。でもここは山だけでなく海にも近い場所なんだね?」

「基本的にクロフォード家がここに別邸を建てたのは、山賊等を牽制する目的でもあるからね。正直この辺りは、サンライズとマリンパールだけでなく、うちと一番隣接している面積が大きいコーリングスターとの国境でもあるから、悪い意味で彼らにとっては絶好の狩場なんだよ……」

「確かに武芸に秀でた人が多いマリンパールの人間と、国民の殆どが魔法を使えるコーリングスターの人間からしたら、サンライズの国民は山賊達にとっては、いいカモだよね……。そもそもうちは、おっとりマイペースな国民性だから襲撃に備えるという部分では、かなり楽観的に捉えている人が多いってアレク兄様が嘆いていたな……」

「だからこそ、うちが他国に防衛的な部分での協力を提供出来るのだけれどね。だからアズリルもこの道中は城に着くまで、むやみに空中散歩はしないでね? ここは三か国が隣接している国境でもあるのだから。コーリングスター出身の山賊なんかは、平気で遠距離魔法を使ってくるから十分に気を付けてね?」

「はーい」


 そう言ってアズリエールにやんわりと釘を刺したオルクティスは、美しい所作で鹿肉を口に運ぶ。

 流石、王族でもあるので男性と言えども食事の際のその美しい所作にアズリエールは、思わず見とれてしまった。

 しかしそんな美しく上品な動作で食事をしているオルクティスは、その山賊を簡単に返り討ちにしてしまえる程、強いらしい。

 以前、アレクシスがそう言っていた事を思い出す。


「そういえばオルクも相当な手練れだってアレク兄様が言っていたけれど……。僕と一緒に過ごしている時は、そういう感じはあまりしないんだよね。何でだろう? その穏やかな雰囲気がそうさせるのかな? だけどオルクも相当強いんだよね?」

「どうかな……。一応、毎年城で開催されている武術大会では、上位には入ってはいるけれど、ここ最近は二位か三位止まりだし」

「二位か三位っ!? 武闘派な人が多く参加している大会で毎回それって凄いのでは!? ちなみに一位の人は相当強い人なの!?」

「そうだね。ちなみにそれは僕の兄なのだけれど」

「王太子殿下かぁ……。確かお名前はノクティス様だっけ? うちやコーリングスターも王太子殿下が優秀とか、やり手って他国からは言われてはいるけれど、マリンパールの王太子殿下も相当だよね……」

「兄の場合、無自覚で何でも完璧にこなせる人だからね」

「あー。アレク兄様の毒気を抜いたような感じの方なのかな?」

「いや、そうでもないよ? そこそこ腹黒いから。でもまぁ……アレクシス殿下と比べたら、兄の腹黒さなんて可愛いレベルだと思うけれど」

「アレク兄様の場合、魔王並みに腹黒過ぎだと思う……」


 そのアズリエールの呟きにオルクティスが吹き出した。


「いいの? そんな事を言ったら王族に対しての不敬になってしまうよ?」

「そこはサンライズの巫女の特権で、大目に見て貰えるから大丈夫!」


 そう自信満々に答えたアズリエールは、味わうように少しづつ食べていた鹿肉の最後の一切れを口に頬張る。

 その様子を楽し気に眺めていたオルクティスが、優しい声音で呟いた。


「サンライズ王家は、本当に君達巫女の事を大切に扱っているのだね」

「まぁ、国にとって僕達サンライズの巫女は大事な収入源だからねー。だから僕達も大切にして貰っている分、こうやって他国にその力を提供する事に快く協力しているのだけれども……。僕の場合、その巫女力がかなり特殊だから、あまり貢献度は高くなくて非常に申し訳ないんだよね……」

「そんな事はないよ? うちにとってアズリルのその力は、物凄く貴重な力なのだから」

「マリンパールには、本当に感謝しきれないよ。この偏った力を有効に使ってくれるのだから」


 そう言って苦笑するアズリエールにオルクティスが、柔らかい笑みを返す。

 しかし次の瞬間、その柔らかい空気をまとったオルクティスからの質問で、アズリエールは一瞬だけ体を強張らせる事となる。


「そういえばアズリルには双子の姉君がいるんだよね? その姉君はどんな風に巫女力を使われるのかな?」

「え、ええと。ユリー……姉のユリアエールは、母と同じでバイオリンを演奏する事で力を発動させるんだ。しかも僕と違って、威力はそこまで強くはないのだけれど広範囲に広がりやすい風を産み出せるよ」

「不思議だね。同じ双子でも巫女力の発動方法は、かなり違うんだ?」

「そうだね。外見は両親でも間違える事があるくらいそっくりだけど、内面はそれぞれの個性で、かなり違うかも……」


 そう答えながら何とか平常心を保ったアズリエールは、早く話題に切り替えようと、頭の中で必死に別の話題を探した。

 しかし、そういう時に限って、なかなか思い付かない……。


「そんなに見分けが付かないくらい似ているんだ。双子って不思議だな……」


 そう呑気に呟くオルクティスだが、アズリエールの方は気が気でない状態だ。

 オルクティスと交流を始めて二カ月が経つが、今まで姉の話題を振られる事が一度も無かったからだ。

 だからなのか……オルクティスから姉について聞かれる可能性をアズリエールは、全く予想していなかった。

 だが普通に考えれば、婚約者の家族の事に興味を持つのは当たり前だ。

 しかもアズリエールの場合、姉とは珍しい一卵性双生児なのだから、オルクティスでなくても殆どの人間が興味を持ってしまう。


「もしかして、よく入れ替わって両親や周りの人達を騙したりして遊んでいた?」


 面白そうにそう聞いてきたオルクティスにアズリエールは、必死で動揺している事を悟られないように平常心を保つ。


「うん。子供の頃は、よく入れ替わってたね。でも最近はほぼないかな。そもそも今はユリーと僕は髪の長さが違うから、そこで見分けられるし」

「それでは髪型を同じにしてしまえば、見分ける事は難しいね」

「そうだね……」


 早く話題を変えたいと焦っているからなのか、アズリエールは自分でも驚くほど素っ気ない声で返答してしまった。

 何故か分からないが、オルクティスに姉の事を聞かれると胸の中がモヤモヤする……。

 それは、また姉の存在で婚約が破談になる可能性を懸念している為だと思ったが、何故かその考えはしっくりこない。

 もしその状況になったとしても、それはもう何度も体験している事なので、そこまで警戒する必要もないはずだ。


 それでも今回の婚約に関しては、いつもと違い破談になってしまう事への酷い抵抗感がある……。

 それは、あまりにも今のオルクティスとの関係がアズリエールにとって居心地の良いものだからなのか、それともオルクティスは絶対に姉に流されたりなどしないという安心感が覆されるかもしれない恐怖からなのか、アズリエールにはよく分からない……。

 ただ確実に言える事は、これ以上オルクティスと姉の話をするとアズリエールの不安が膨れ上がってしまうという事なのは確かだった。

 その不安をオルクティスに気付かれないように必死でアズリエールは、平常心を貫き通す。


「ちなみにアズリルの妹君達は、どうなの?」

「えっ?」

「だって君には双子の姉君の他に年の離れた妹君が、あと二人いるのだろう?」


 急に姉ではなく、妹達の話題を振られたアズリエールは一瞬、反応に遅れてしまった。そして同時に物凄く安堵した自分自身にも驚く。


「うん。いるよ? リエルとティエルって言うんだけれど、リエルは今年10歳になる三女で、ティエルは先月8歳になったばかりの末っ子なんだ」

「その二人も変わった巫女力の発動方法なのかな?」

「リエルは母や姉と同じく楽器の演奏……まぁピアノなんだけど、それで風を起こすスタイルだね。ティエルは、一人でクルクルとダンスをしながら風を起こすんだ」

「へぇー、面白いね。サンライズの巫女って本当に個人個人で巫女力の発動方法が違うんだ?」

「まぁ、その中でも僕は異色だけどね……」

「確かに。だってアズリルの方法だと空を飛べなければ、ただの身投げになってしまうからね」

「僕……昔、それでサンライズ城の窓から飛び降りて、驚いた新米侍女を気絶させた事があるのだけれど……」

「くっ……!」

「ちょっと! 笑わないでよ!! その後、アレク兄様にいつ終わるか分からないくらいお説教されて、大変だったのだからっ!」

「あははははははっ……!!」


 それを聞いたオルクティスが、ついに笑いを堪えきれず、前屈みになりながら爆笑し始める。

 その反応から、どうも初対面時に抱いていたオルクティスの印象が自分の認識とは、かなり違っているように思えてきたアズリエール。


 初めてお茶会で婚約を申し込んできたオルクティスは、落ち着いた物腰のかなり大人びた印象だったのだが……この二カ月間の交流を得て、どうやらそれはアズリエールの思い違いだったらしい。

 今目の前にいるオルクティスの様子は、自分と大して変わらない年相応の15歳の少年という感じだ。

 何よりもこの笑い上戸な所は、初対面時では一切気付けなかった部分でもある。


「オルクって……もしかして笑い上戸?」

「い、いや? そういう訳ではないのだけれど……」


 しかし現状、うっすらと涙を浮かべながら苦しそうに笑いを堪えている様子では、全く説得力がない。

 そもそもサンライズで面会している際もアズリエールの言動で、かなり笑いを堪えている事がオルクティスには多かった。


「オルクは絶対に笑い上戸だと思う……」

「僕が笑い上戸というよりもアズリルが、僕の笑いのツボを刺激するのが上手なんだと思うよ?」

「僕、別にそこまで笑わせようとしているつもりはないのだけれど……」

「ご、ごめん。でもアズリルの言い回しって毎回凄く面白いから、つい……」


 そう言って口元抑えながら笑いを堪えている婚約者の様子にアズリエールがプク~っとむくれだす。

 そのアズリエールの不機嫌そうな状態は、昼食後に堪能した庭の散歩中まで続いた。

 しかし、午後のお茶で出された極上のシフォンケーキを目にした瞬間、うっかり機嫌を直してしまい、その変わり身の早さで再びオルクティスに爆笑されてしまったアズリエール。


 しかし、それが却ってアズリエールの心を穏やかにさせた。

 何故ならば、先程の姉の話題が出た際に抱いていた不安が気がつけば、いつの間にか消え去っていたからだ。

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【妖精巫女と海の国のあとがき】

【他サンライズの巫女シリーズ】

★風巫女エリアテールが主人公の話★

★雨巫女アイリスが主人公の話★
+注意+

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