3 願い。
なんとなくわかってきた。これは【異世界転生】じゃない。俺、【召喚獣】になってるんだ。間違いない。
異世界から召喚獣を呼び出して攻撃させる召喚士。俺もゲームの中で何度もお目にかかったことがあるし、召喚士キャラを使用した事も多々ある。だが、【召喚される側】になったのは初めてだ。
麻衣とのキス未遂事件の時から始まった俺の召喚獣としてのお勤めは続き、俺はどんどん消耗していった。いや、こっちの世界の人間の能力を把握した上で召喚してくれ。ほんとに。
また、タイミングも完全にあちら次第なので、俺がご飯中だろうが入浴中だろうが睡眠中だろうがお構いなしだ。あまりにも体力が残っていないせいで、自家発電(ちょっと口に出しづらいアレ)も出来ない。だからそのアレの真っ最中に召喚されるという悲劇からは免れているというのが唯一の救いだ。いや、救いか?
これだけの事がありながら、麻衣とは疎遠になっていないのが不思議だった。それだけ俺に対する愛が深いということなのだろう。デート中に突然意識を失う(召喚される)ような男、しかも何のとりえもない不細工な俺のそばにいてくれるのだ。天使としか思えない。しかも二人っきりになった時に時折チラッと見せる小悪魔の雰囲気。俺はもうめろめろだった。
召喚された先の美少女パーティなんかどうでもいい。どうせ俺の攻撃が終わったらソッコーで帰されるから、喋る事も触る事もできない。まぁ目の保養にはなるけどね。
召喚された時に使う俺の技はバリエーションが増えていった。あの地獄の【万・烈・拳!】と、【斬・鉄・剣!】の他に、なぜか大量の銃器、爆弾、ミサイルを装備してその全てを敵に叩き込む【全・開・砲!】、俺の歌声で敵の鼓膜と精神を破壊する【超・音・覇!】など。いつどの技が出るか俺にはわからなかったから、落ちていく間はもう恐怖でしかない。
【斬・鉄・剣!】と【全・開・砲!】が出た時はかなりラッキーだ。いや、しんどいにはしんどいんだけど、【万・烈・拳!】が出た時の「あぁ、これで俺、死ぬんだなぁ」と覚悟するレベルの絶望感と比べれば相当マシだった。【超・音・覇!】は体力的には一番楽だったが、あとで精神的に相当へこむ。
俺を呼び出すパーティもだいぶ増えてきて、それに伴って召喚される頻度は飛躍的に増えた。
幼女ばっかりのお子ちゃまパーティ、イケメンと美女の二人パーティ、全員が巨乳の美女軍団、華奢な美人をごついおっさん4人が守っているパーティ、かわいい系の男子勇者を4人の女子が囲っているようなパーティもあった。気をつけろ、その勇者、確信犯で可愛い系を装っているだけだぞ。
慣れとは恐ろしいもんで、これだけしょっちゅう呼び出されても、完全に動けなくなることはほとんどなくなった。運悪く【万・烈・拳!】が出た時はさすがに動けなくなってしまうが、これはもうね、慣れろと言うほうがおかしい。
パーティによって俺の使い方もだいぶ違う。俺の中でもだいぶ好き嫌いが出てきた。
幼女ばっかりのパーティは、実は全員が召喚士という異色パーティで、一度呼ばれ出すと連発されるからかなりしんどい。
イケメン美女のカップルはなんとなくむかつく。こいつらに呼び出されて【万・烈・拳!】が出た時は最悪で、こいつらに向かってテヘペロをした後はほんとにもう死にたくなる。
巨乳美女軍団はね、悪くない。うん。テンション上がる。
華奢な美人は……、あれだけおっさん達が守って戦ってくれるんだから、俺呼び出さなくてもよくね?
あざといクソ男子を女子が囲っているパーティは、俺が一番やる気をなくすパーティだ。もうね、完全に適当。敵の上に【ミス!】という表示が連発されるから自覚症状もありだ。どうやら俺の肉体的疲労の蓄積だけでなく、モチベーションによっても命中率が変化するらしい。
見た感じが一番いいのは、最初の美少女パーティなのだが、ここに呼び出されると何故か【万・烈・拳!】ばっかり出るので、既に恐怖の対象となっている。
いつの間にかあの初【斬・鉄・剣!】の時のおっさん達からは呼ばれなくなった。転職でもしたのだろうか。
こんな、荒行としか言いようのない日々を過ごしていたある日、ぱったりと召喚されなくなった。
全てのパーティがラスボスを倒したのか、または飽きてやめちゃったのか。
召喚されることがなくなり、やっと普通の生活に戻った俺は疲労も回復し、元気を取り戻した。召喚獣だった日々は、俺に二つの変化をもたらしていた。
ひとつは俺の身体。いつの間にか筋力や体力が鍛えられていて、スポーツ万能になっていたのだ。それぞれのスポーツの技術が鍛えられたわけではないのだが、一秒間に70発のパンチを繰り出すスピードをもってすれば、大抵の事は出来る。
そしてもうひとつは、精神的なものだ。俺、カラオケに行けなくなっちゃったのだ。これはもう明らかに【超・音・覇!】のトラウマである。
召喚される事を気にせず暮らすことが出来るようになり、安心してデートもできるようになったのに、俺は麻衣とは疎遠になってしまった。
どうやら麻衣は「何のとりえもなかった俺」や「突然意識を失ったり動けなくなったりする俺」に興味があっただけのようで、普通に戻り、とりえも出来た俺からは興味が失せたらしい。正式に付き合っていたわけでもないし、俺に文句を言う筋合いはなかった。
なんだかんだ言って、結局「彼女いない暦」を絶賛更新中の俺は、「どこかの世界で、あのゲームの続編が発売されないかなぁ」と心の片隅で願っている。
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