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2 ピキーン!

 目の前には機械仕掛けの鋼鉄ゴーレム軍団。マジか。こんなの殴ったら確実に手がイカれる。

 振り返るとドワーフと人間のおっさん5人のヒゲ面パーティー。マジか。あの美少女達はどうした。

 もう絶望しかない。


 無情にも鋼鉄ゴーレム軍団にターゲットマークが現れた。その数、10体。俺の頭の上には【たなか よしお】。もうどうにでもなれ。


 テキストボックスの表示が変わり【斬・鉄・剣!】になった。同時に俺の腰に一本の日本刀が。

 あれよあれよと言う間に俺の身体はゴーレム軍団の間を風のように疾走り、抜刀一閃、その全てをまっぷたつに両断した。

 静かに刀を鞘におさめると、ゴーレム軍団は爆発し、消滅した。


 俺はおっさん達の熱い視線を浴びながら、上空に吸い上げられていった。





「よしお!」

「田中くん!」

「よしお!」

「田中くん!」


 母親と麻衣の声が交互に聞こえていた。


 意識を取り戻すと、俺はベッドの脇に突っ伏していた。まだ筋肉痛はひどいが、ギリギリなんとか動くことはできる。

 泣きそうになるくらいの筋肉痛を堪えてなんとか起き上がった。


「那須野さん、母さん、心配かけてごめん。もう大丈夫」


 がくがく震える膝をなんとかだましだましベッドに腰掛けた。これだけでも大仕事だ。


「田中くん、今日学校休んだでしょ。私、心配で……。お家までお邪魔しちゃってごめんね?」


「こーんなきれいな子に心配してもらえるなんてすごいじゃない、よしお~」


 母親が俺をからかう。おい母親。そういうとこ、あかんとこやで!

 俺が睨んでいるのを察知して、母親は肩をすくめた。


「おー怖い怖い。そんなに邪魔者扱いしなくったっていいでしょー。

 じゃあ、麻衣ちゃん、だっけ? お茶入れてきますからね。邪魔者はとっとと退散しまーす」


 だから! そういうとこやで!


「あ、すみません、お構いなく」


 それに引き換え、麻衣の応対は100点満点だ。

 麻衣は母親を見送ると、俺のPCデスクの椅子に腰掛けた。まぁさすがに隣に座ってくれるとは思わなかったが、ちょっと残念だ。


「気さくな人だね、田中くんのお母さん」


「無神経なだけだよ。全く」


 俺達は当たり障りのない会話を始めた。そりゃそうだ。いつ母親がお茶を持って侵入してくるかわからない状態なのだ。

 てゆうか、既にドアの外で聞き耳を立てている可能性すらある。


「母さん、いるんだろ?」


 俺が突然声をかけると、ドアががたっと音を立てた。案の定だ。


「はいはい、わかってますよ」


 ぶつくさ言いながら母親が入ってきて、テーブルの上にケーキと紅茶を出した。ケーキが出てくるとは、随分と手回しがいいな。


「じゃあね、麻衣ちゃん、ごゆっくり」


 いやもう早く出てってくれ。身体が動かせれば追い出せるのに、もどかしいな、もう。

 なんとか居座ろうとぐずぐずした上で、母親は明らかに後ろ髪を引かれながらやっと出て行った。


「あ、那須野さん、遠慮しないで食べて」


 俺は麻衣にそう言って、ケーキに手を伸ばそうとした。前かがみになろうとしただけで激痛が全身を駆け巡った。そして、ピキーン! と腕がつった。


「~~~~~~~~!!」


 俺は声にならない声をあげ、しかも激痛のためにのたうち回ることすら出来ず、ひたすら苦悶するしかなかった。


「大丈夫? 田中くん!」


 麻衣は俺の横に移動して、俺の身体を支えてくれた。いい匂いがした。


「だ……大丈夫。ありがとう、那須野さん」


 俺はやっとの事で声を絞り出した。


「これじゃあ田中くん、ケーキ食べられないね……。あ、そうだ!」


 麻衣はケーキとフォークを取って、一口分切り分けた。これは、まさか……。


「こうすれば食べられるよ。あーんして?」


 なんという夢展開。俺は素直にうなづいて、あーんと口を開けた。

 その瞬間、俺の身体は支点を失い、果てしなく落下して行った。マジか。ついさっき戻ってきたばっかだぞ……!





 目の前にはスライムが一匹。あれ? それだけ?

 振り返ると、昨日の美少女パーティだった。おお、やっぱりこっちの方がいい!

 スライムにターゲットマーク、俺には【たなか よしお】。俺の身体の回りにオーラが立ちのぼった。

 え、ちょ、こんなスライム一匹にそんな大技? 俺も限界超えてるんですけ……。


 【万・烈・拳!】


 やめてぇぇえええええええ!


 頭がおかしくなりそうな激痛の中で、俺は哀れなスライムに9998発のパンチを叩き込んだ上に地を走る衝撃波をぶつけた。オーバーキルにも程がある。いや、俺自身も既にオーバーキルされている。


 最後に自分の頭をこつんと叩いてテヘペロすると、俺はまた上空に吸い上げられていった。

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