死にかけの魔族と人間のハーフは大魔王に拾われる
私は魔族と人間のハーフだ。
幼い頃魔族の母が死に、その後人間の父は同じ村の奴らに殺された。今まで母が居たから何もされなかっただけで、あいつ等は私達を、恐怖の対象だとしか捉えていなかった。父の死後、私はすぐ村から逃げ出した。
辺り一面は銀世界、吹雪の中を彷徨う。……どれくらい歩いたのか、時間も分からなくなった。
ふと、足が止まった。いや、動かなくなってしまった。体が重力に従って倒れる。もう駄目だと思った。
しかし、それを受け止める誰かがいた。
体は男性で、顔は仮面で覆われており分からなかったが、人間じゃないことは分かった。その事実に私は安心してしまい、そのまま気を失った。
気がつくと、私はお城にいたらしい。古びてはいるが、100人は住めそうなお城だ。
その後、彼は私に食事を与え、知識・教養を与えた。
何故そこまでしてくれるのか、聞いた事がある。すると、彼はこう答えてくれた。
「昔の私と似ていたからだ」
それが、私のヒーロー。
周りがどう言おうとも、私のヒーローだ。
「とどめだ!!」
ほら、今彼が頑張っている。
約束したんだ。絶対勝つって。
人間なんかに負けないって。
勇者なんか返り討ちにしてやるって。
「大魔王を倒したぞ!」
それなのに、これはあんまりではないか。
目の前で、血溜まりの中倒れているのは誰なんだ約束したではないか。ああ、私のヒーロー。
私は目の前の光景にショックを覚え、気絶した。
目を覚ますと何処かの宿屋のようだ。
「君、大丈夫?」
私のヒーローを殺した人間が、私に話しかけてくる。
「もう安心だ。悪の大魔王は倒したから!」
それだけ言うと部屋から人間は出ていった。
……悪だと?誰の事を言っているんだ。悪は貴様ら人間ではないか……! 私の唯一を奪ったのは貴様らではないか!!
私の心の中に、憎しみが溢れてくる。
「私にとっての正義のヒーローはいつだって彼だった……!! 絶対に、私は勇者を許さない。この世界の奴らも、全員!!」
あんな偽物達を、私はヒーローだと認めない。
その夜、何処かの宿屋の主人が殺された。
大魔王の元人質を預けていた宿屋だったが、もぬけの殻だった。
王道ですが、
「誰かにとっての悪は、誰かにとっての正義」
というやつを書きたかった。