表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

ユグドルド領①

評価、ブクマありがとうございます。

なんとか更新間に合いました。


少しソフィアの口調を訂正します


 街の人達の感動の再会の時間も終わり、それぞれ帰路につく。

 少し前に目を覚ましたフローラは、一人馬車に乗せられて領主の屋敷に向かっていた。

 どうやらフローラの母親は病弱で、知らせを聞いて倒れたという。それ故ユグドルド伯爵は、フローラだけでも先に帰し、母親の心配を取り除いてやりたかった。


「それで、本当にあの宿でいいのか?私の屋敷に泊まってくれても構わないんだぞ?」

「いえ、気を使って逆に疲れてしまいますから。気楽な宿が一番良いです」

「そうか、なら、まぁ仕方ないが」


 ユグドルド伯爵が気にしているには訳があった。

 街に戻り、解散したあとで4人と護衛はまず宿屋に向かった。

 ユグドルド領で最も綺麗で高級にで、要するに貴族が泊まる宿屋だ。貴族が街に来ることはあまりないため、常日頃がら空きに近い。

 だがここで大きな誤算が起きた。

 ゴブリンに襲われたのは、何も平民だけではない。貴族だからとゴブリンは優遇などしてはくれないのだ。

 そしてユグドルド伯爵は、救助隊として出掛ける際にこう言い残していた。

「今日から暫く領内全ての宿屋は空き室を避難所として部屋を提供してくれ。金は私が支払おう!家を失った者達を一丸となって支えて欲しい!」と。


「すまない。まさか宿屋が全滅とは思わなかった」

「別に伯爵は悪くないですよ。それに一軒だけ残っていたじゃないですか」

「だが、あそこは……」

「そんなにボロいの?」

「いや、見た目も内装も新しくなったばかりなのだが、その……」


 言い淀むユグドルド伯爵に何かを感じたハルは、パチンと指を鳴らしてみせた。


「幽霊がでるんですね!?」

「幽霊?いや、幽霊は出ない……と思う。多分」


 曰く付きを否定されて、あれ?と首を傾げるハルを、スミレは呆れたような目でみている。


「おい、エドのせいで変な場所だと思われたろうが」

「すまん、だが、女性二人を泊めていい場所ではないだろう?」

「男性専用なのですか?」

「そうじゃないが、冒険者専用ってやつだよ。金のある奴は他の宿に行くから、泊まるのはなりたての新人か、他の宿にお断りされてる札付きの悪党だけだがね」


 あぁ、なるほどとハルとスミレは苦笑いで返す。

 そういう人にはあまり縁はなかった。だから怖いという感覚もあまりない。ゴブリンキングよりは弱いだろうと、人が聞いたらドン引きしそうな理由で受け入れた。


「ギルドにすぐ行けるなら有り難いくらいです」

「冒険者ギルドの隣だしな。あぁ、丁度見えて来たよ。あの人集りが出来てるとこなんだが、エド、ありゃ何の騒ぎだい?」


 エレナは冒険者ギルドの前に出来た行列を見て不思議そうにエドワード・ユグドルド伯爵に視線を移す。

 

「炊き出しだよ。ソフィー君がエレナの居ない穴は自分が埋めると意気込んでいてね」

「ふ~ん、あいつも成長してんだねぇ」


 しみじみと、嬉しそうに行列を見ていたエレナだったが、その中の一人の少女と目が合うとすぐに呆れ顔になった。

 少女は満面の笑みを浮かべ、一目散に走り寄ってくる。

 ショートヘアで小柄な可愛い女の子だが、師匠と叫び始めてからは泣き顔に変わっていく。

 その勢いのまま、少女はエレナの胸にダイブした。


「師匠、師匠、師匠!!!絶対無事だと信じてましたぁぁぁ!!師匠ぉぉぉ!!!」

「うるさい!耳元で大声出してんじゃないよ!!」

「だってぇ、うわぁぁ~~~ん!!!師しょンン、ん~~~!!!」


 泣き喚き始めた少女の口を、問答無用で手で塞ぐ。それでもジタバタ暴れる少女の耳元にエレナは顔を近づけて、少女にとっては恐ろしい一言を放つ。


「師匠に迷惑かけるなら、弟子、辞めるか?」

「……(フルフル)」

「よし、手を離すが騒ぐなよ?」

「……(コクコク)」


 エレナが口を塞いでいた手を外すと、少しムスっとした顔でエレナを見上げた。

 なんだ、とエレナが尋ねても、ふぃと視線を外すだけ。

 エドには見慣れた光景なのか、くすくす笑いながらみている。


「なんなんだい、全く。はぁ、二人に紹介するよ。これはソフィー、私の弟子、もとい使いっパシリをしてるから、今後二人を呼びに行く時はソフィーを遣わすよ。ほら、挨拶しな!」


 背中を強く叩かれて、不審そうに二人を一瞥して頭を下げる。


「ソフィーです。エレナ師匠の一番弟子、かつ右腕をしています。よろしくです」


 ソフィーはエレナの紹介に修正を加え挨拶をする。

 

「ハルだよ、よろしくね」

「私はスミレと言います。私達母娘は森で迷子のところをエレナさん達に助けてもらいました」

「さすが師匠!」


 事実ではあるが、大事な真実を省いて伝えるスミレに、何バカ言ってんだ、と視線を送るエレナだが、スミレは笑顔で受け流す。


「ソフィー、炊き出しは良いのかい?」

「もう殆ど終わってるから大丈夫です。あ、師匠達は食べましたか?手伝ってくれた人の分にあと鍋1つとってあるんで、食べます?」


 行列はどんどん減っていて、あと10人ほどで終わる。

 空の大鍋がギルドの入口に大量に置いてあるが、まだ手付かずがあと1つ取ってある。

 

「私の部屋に持って来てくれ。三人分な」

「おい、私の分を省くな!ソフィー君、四人分頼む。あと、護衛達にも食べさせてやってくれ」

「了解しました」


 決して嫌がらせではなく、貴族が炊き出しを集るなよとエレナはため息を漏らす。

 エレナの考えにソフィーも気付き苦笑が漏れるが、ツッコんだら怒られるので、元気に敬礼して走って行った。

 ギルド内に入ると、外の喧騒が嘘のようにシーンと静まり返っている。

 

「誰も居ないんですね」

「ギルドの連中は外で炊き出ししてたからねぇ」

「冒険者は外壁が修復されるまでの警備と、街の復旧作業を依頼しましたから」

「だから誰も居ないんですね」


 三人が話をしている間、ハルは目を輝かせて掲示板を見ていた。

 掲示板には様々な魔物の絵が書かれている。それはゲームなどで見る依頼書とよく似たもの。

 

「(ん?この絵……エルフ?魔族?)」


 ハルが目を留めたのは女性の横顔の絵が書かれた依頼書。耳が尖っていて目つきの鋭い女性。

 何故か心を奪われたように、その絵を見つめていた。そっと手を伸ばしたところで、スミレの声にびくりと跳ねる。

 

「ハル?行くわよ?」

「うん、今行く!」


 カウンターの横の扉からスミレが顔を出している。置いて行かれていた事にハルは漸く気が付いた。

 慌てて三人に追いつき、ごめんと苦笑いで返す。


「気になった依頼でもあったのかな?」

「あ~、はい。エルフの絵が有ったので」

「?その位どこにでもあるだろ?エルフの討伐は魔物より厄介だから、受ける人はなかなかいないがね」

「エルフの……討伐?」


 不穏な言葉にハルは足を止め、恐る恐る聞き返す。スミレも足を止めてハルの手を握り、少しだけハルの前に出た。


「どうしてエルフが討伐対象に?」

「どうしてって……どういう事だい?」

「エド、その話は中でするよ」


 もうギルマスの部屋は目の前だった。

 エレナは扉を開けて三人に中に入るよう促す。エドはすぐに中に入るが、スミレとハルは戸惑っていた。

 エルフが人間を憎んでいるのは昔からだが、エルフは好戦的ではなく、人間と敵対したことはない。

 たまたま凶悪な事をしたエルフが居たのならいいが、エルフというだけで狙っているのなら、スミレはハルを連れて街から逃げる必要がある。


「……事情は知らんが、二人は恩人だ。悪い結果にはしないと誓うよ」


 エレナは真っ直ぐにスミレを見て告げる。その力強い瞳にスミレは肩の力を抜いた。


「エレナさんを信じます」


 ハルの手を引いて部屋に入ると、異変に気付いていないエドが不思議そうに見ていた。


「何か問題か?」

「……お前は気楽でいいな」

「な、なんだよ。どういう事か説明しろ」

「はぁ、二人とも適当に座ってくれ」


 エレナは呆れてため息を漏らし、面倒そうな視線をエドに向けた。とりあえず無視する事に決め、デスクに向かうと水晶でできた薄い板を持って戻ってくる。


「あの、もしかして……エレナさんはギルドマスターですか?」

「あぁ、言ってなかったっけ?忙しくて忘れてたよ。ふふ、信用度は増したかい?」

「あ~、そうですね。ギルドマスターが味方なら心強いです」

「ふ、ふはは、そりゃ何よりだ」


 エレナは豪快に笑うと、二人の向かいのソファーに座った。


「改めて、ギルドマスターのエレナ・クラークだ。まずは、二人のギルドカードを見せて貰って構わないかい?」

「ギルドカードですか。実は私達、ギルドカードを持っていないんです」

「……そうかい。ならこの板に手を置いてくれ」


 お尋ね者で身分証が出せない可能性を考え、エレナは透明の水晶板を取り出して二人の前に置いた。

 悪事を企んでいるなら、水晶板が危険信号を表示する。更に、個人情報も解る優れものだ。

 スミレは躊躇いなく水晶板に手を乗せる。水晶板が赤く輝きを放つと、スミレは手を離した。


「なんだいこりゃ……ん?……これは……」

「なんだ、何か出たのか?」


 水晶板の盤面にはびっしりと文字が浮かぶ。

 エドが横から覗こうとするが、エレナは素早く盤面を隠してしまった。

 個人情報の全てを確認出来る水晶板には、《エルフの眷属》と記されている。


「おい、私にも見る権限はあるだろ!」

「それは終わってから考えるよ。とりあえずスミレのギルドカードを作るから」


 水晶板の横にカードを差し込む。再び水晶板が光るとカードが飛び出して来た。

 何も書かれていなかった白いカードには、文字が書かれている。

 ハルは感嘆の声を漏らしながら、その様子を見ている。


「次、ハルも」

「……うん、えっと……(母さん!これ置くだけでいいの?)」


 ハルは言われるまま水晶板に手を乗せながら、スミレの裾を引いて小声で尋ねる。


「(えぇ、置くだけでいいわよ)」

「……あれ?光らないよ!?」

「……これは人間の魔力を読み取る物でね。反応しない事はないんだけどね」

「壊れたのか?」


 エレナはやっぱりなぁと小さな呟きを漏らす。

 魔力とはDNAのようなもの。それを水晶板に流すと、魔力をデータ化し、その者の生まれた日や年齢、魔力の使用履歴や魂の契約等が解る。

 魔力は生まれた時から備わっているもので、魔法とは全く別物であり、流そうと意識せずとも、溢れているというのが正しい。

 つまり、水晶板が反応しない事は基本的に有り得ない。

 基本的に。つまり、例外がある。


「……あ~、とりあえずギルドカードだけ作っておいたらどうだ?直接記入しても作れただろ?」

「いや、多分こっちを使えば大丈夫だよ」


 私の勘が正しけりゃね、と壁に設置された棚から古い箱を取り出した。

 箱から取り出された水晶板は黄緑色の水晶が使われている。


「なんだそれは?随分と年代物だな」

「ババァの私物だよ。ほら、ハル手を乗せろ」

「うん……」


 言われるままに手を乗せる。

 黄緑色の水晶板は赤い光を放ち、文字が浮かび上がった。


「やっぱりそういうことかい」


 水晶板の盤面には《種族;ハーフエルフ》と書かれている。この水晶板はエルフ、魔族などを人間以外の者を計る為の物。通常の水晶板は人間専用。

 母親であるスミレがエルフの眷属なら、ハルはハーフエルフの可能性が高いとエレナは思ったのだ。


「これはスミレの、こっちはハルのギルドカードだよ」


 ギルドカードを二枚、自分の前に置く。

 

「いいかい?私はアンタ達の人柄を信じた。裏切ったら承知しないからね」

「よくわからないけど、エレナさんを失望させることはしないと誓います」


 澄んだ真っ直ぐな瞳で誓われ、エレナは参ったねと笑ってカードを差し出した。

 ギルドカードは身分証だ。それを発行するギルドは身元保証人と同じ意味を持つ。善悪問わず責任を問われる立場となる。

 エレナはギルドカードをキラキラした目で見ているハルとスミレを見て、ギュッと拳を握り決心を固めた。


「(何だろうね、この胸の高鳴りは。こいつらなら私達を救ってくれる気がする。託してみようか、この国の運命を)」




次は月曜か火曜になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ