いざ街へ①
更新遅くなり申し訳ありません。
途中でデータが消えるというハプニングがあり……
お待たせしてしまいましたが、続きをどうぞ!
女性達の目には、何も見えなかった。
見えたのは武器を手に入れた二人が、ゴブリンキングに駆け出した所まで。
それから先は、何が起きたのか。
血飛沫をあげて倒れるゴブリンキングを見ても、彼女達の理解は追い付かない。
「今、何が起きたの……?え……倒したの?」
「私達、助かったの……?」
ゴブリンに捕まった時点で、助かるなんて想像もしなかった。
これからはゴブリンの慰み者として生き、飽きたら殺される。
洞窟の中に打ち捨てられた裸の女性の残骸を見て、そういう人生を送るのだと諦めている者が殆どだった。
そもそもここに連れてこられた者は、家族が生きているかさえ分からない。
恐怖と絶望が全てだった。
「勇者様だわ」
「そうよ、きっと勇者様なんだわ!」
突然湧いた希望。
それを崇めるのは当然の心理。
女性達は洞窟の岩場を駆け下り、ハルとスミレに駆け寄った。
「勇者様、勇者様!助けて頂いてありがとうございます!」
「へ?え?」
「勇者様!このご恩は絶対にお返し致します!」
「勇者様!」
「勇者様!」
「ちょっ、まッ、勇者!?」
女性達に囲まれ困惑するハルを見ていたスミレは、笑顔で間に割って入る。
「ごめんなさい、勇者だと称えるのなら少し落ち着いて貰えるかしら」
スミレの一言でさっきまでの興奮がなかったかのように静かになっていく。
上品でふわりとした笑顔の裏に、黒い何かを全員が感じていた。
「あ~、すまないね。皆ゴブリンの慰み者にならずに済んで、ちょっと浮かれてるんだよ」
「……事情はなんとなく察しがつきますわ」
「助けてくれて感謝してるよ。私はエレナ。この子達を代表して礼をさせて欲しい」
長身で赤茶色の髪の女性、エレナは女性達の姉御のような存在だった。女性達だけではない。彼女に逆らえる者は街に一人も居ない、そういう人だった。
「お礼ですか、それなら一つお願いしたいのですが……」
「おぅ、なんでも言ってくれ。出来るだけの事はするさ」
「私達を街まで連れて行ってくれませんか?」
右も左も分からない、迷子のハルとスミレにとっては最も重要で必要な事だった。
けれど、エレナとしては当然肩透かしを食らった気分で。
「え?そんなことじゃ礼にならないだろ!もっと他にないのかい?」
「ん~、今のところは……、あ!あの、この位の大きさの荷物入れを見かけませんでしたか!?とても大事なモノが入ってるんです」
「あぁ、ゴブリンに盗まれたんだからここにあるかもね」
まだ中身をきちんと確認していなかったハルに対し、スミレは切実だった。
リュックには着替えや応急キットが入っていた。
痛みを顔に出さないし、大丈夫だと言い張るハルだが、応急処置くらいはしておきたかったし、替えの下着はどうしても欲しかった。
「ん?それって、アレかい?」
「アレって……、あ!アレだよ!母さん、見つかったね!」
エレナは洞窟の入口に置いてあるリュックを指差す。
それに従って視線を向けたハルとスミレは、喜びに手を握りあっていた。
「母さん、ちょっと取ってくるから待っーー
「馬鹿言わないで。私が行ってくるわ」
肋骨の折れた脇腹をわざと触って、黒い笑みを浮かべるスミレに、ハルは素直に従うしかなかった。
軽い動きで岩場を駆け上がるスミレに、エレナは感嘆の声を漏らした。
「勇者様のお母さんは何者なんだい?戦いの時も思ったけど、動きが舞ってるみたいで……あんな戦い方初めて見たよ」
「ん~、武術も舞踊も師範としてやってたからかな?私には武術しか教えてくれなかったけど」
スミレは日本では、合気道と薙刀は勿論、日本舞踊の師範として両親と門下生に指導をしていた。その舞のような美しさは日本でも有名だった。
「勇者様より強いんですか?」
「さぁ、五分五分かなぁ」
後ろから幼い声が聞こえ、ハルは振り返って少女を見た。そこに居たのは日本刀を投げてくれた少女。
「君はこの武器を投げてくれた子だよね?おかげで助かったよ。ありがとう」
「い、いえ、私達の為に戦わせてしまって申し訳なく思っております」
「勇者様には、フローラ様を助けて頂いた事を一番感謝してるよ」
「やめて下さい。わたくしも皆様も命は全て平等なのです。此処にいる全員が助かったことこそ、最も感謝すべきことです」
フローラの言葉にエレナ以外の女性達もたまらず感涙していた。
リュックを取って帰ってきたスミレは、涙する女性達を見て首を傾げる。
「どうしたの?」
「母さん。あぁ、こんなにいい子も居るんだなぁって話?」
「なぁにそれ?あら、貴女武器をくれた子よね?」
「はい、フローラ・ユグドルドと申します」
「フローラ様はうちの領主、ユグドルド伯爵の一人娘さね」
身分を名乗らず頭を下げるフローラを見て、後ろからエレナが付け加える。
領主の娘がゴブリンに捕まっているのにはわけがあった。
街を散策中に突然襲って来たゴブリン。近くの民衆を避難させていたフローラは、逃げ遅れた子供を見つけて、自ら囮になったのだ。
その話を聞いたハルは優しくフローラの頭を撫でていた。
「本当の勇者はフローラだね」
「で、でも私は強くなんてありませんから……」
「ん?勇者は『勇気ある者』でしょ?フローラは私よりずっと勇者に相応しい人だよ」
ハルの言葉に照れて赤くなってしまったフローラを、一同は可愛いなぁと微笑ましく見ている。
ゴブリンに捕まっていた時には想像も出来ない程に平和な時間が流れていた。
「武器も荷物も見つかったし、それじゃ街まで案内してもらえる?」
「ハル~、その前にちょっと応急手当てするわよ」
嫌そうに顔を顰める。
肋骨が折れているのは分かっていたし、痛みで深く息を吸う事さえ出来なかった。
腫れ上がって熱を帯びている。
ハルはそれをスミレに見られるのが嫌だった。
「ほら、服捲り上げてて」
既に必要な物を用意しているスミレは、有無を言わさず服を捲っていた。
想像以上に内出血が酷く、スミレは辛い気持ちになるが、それを隠して湿布を貼る。
コルセットはない。サラシを代用して巻くしかなかった。
「ん、出来たわよ」
「ありがと。よし、今度こそ出発よね」
「そうね。エレナさん、お待たせしてごめんなさい。街まで宜しくお願いします」
「あぁ、任せな」
エレナを先頭に街を目指して歩き始める。
森を抜けると、前回同様に平原が広がっている。違うのは起伏で遠くが見渡せない事。
「しばらく歩くと街道に出るんだよ。あとは道沿いに進めば迷うことはないね」
「街は北寄りだったんですね。私達は東に向かって直進していましたから」
「東?あの山の向こうはエルフの国だろ」
「エルフに知人がいるんです」
スミレの言葉にエレナは怪訝そうな表情を浮かべたが、周りの女性達の視線を感じて口を噤んだ。
「街に着いたら領主の所に案内してやるよ。エルフに関してはそれまで口に出すんじゃないよ」
「え?それはどういう……」
「街に着いてからって言ってんだろ。さ、出発するよ!」
エレナは話を打ち切り歩き始める。
不思議に思いながらも、ハルとスミレはエレナ達の後をついて街へと向かっていった。
ブクマ、感想本当にありがとうございます!
正月も過ぎましたし、最低でも週二話投稿していけたらと思っております
今後とも応援宜しくお願いします。