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異界の門

スマホ水没事件がおこり、ネカフェからの投稿になります。新しいスマホが買える迄、更新不定期です。ごめんなさい。

とりあえず、あと一話、数時間以内に投稿予定です。


 気持ち良い朝の微睡みの中で、何かが体を揺すってくる。出来るなら後二、三時間は眠っていたい。

 すごく鬱陶しい。

 エレナは布団を頭から被りながら、体を揺する手を掴んだ。

 

「あと、五時間……」

「長いですから!もう、起きて下さい、師匠!」


 エレナは朝が弱い。放って置くと夕方まで起きてこない。

 それを理解しているソフィアは、エレナを叩き起こすのが日課だった。

 だが今日は起こし始めてまだ5分しか経っていない。

 普段なら優しく起こす程度の時間だが、ソフィアは最初から全力でエレナを起こそうとしていた。


「師匠、今日は会議に参加するようにと、領主様の使いが今朝早くにいらっしゃいました!」

「……え~……やだ……めんどぅ……」

「面倒じゃありません!もう!出掛ける前にハル達の事情を話してくれるんじゃないんですか!時間なくなっちゃいます!」

「あ~……そうだった」

 

 むくりと起き上がったエレナは、ぼぅっとソフィアを見上げて腰に抱き付く。

 毎朝の事で慣れているソフィアは、はいはいと頭を撫でてあげながら、エレナの意識が覚醒するのを待った。


「おはよ、ソフィア。今何時?」

「……もうすぐ9時です」


 この世界の朝は8時頃。

 寝坊という程遅くはない時間に、エレナはもう少し寝ていたかったとソフィアから手を離して抗議の視線を送る。


「ゴブリン襲撃の街の復興にギルマスが居ないと何も始まらないじゃないですか」

「ほぅ、よくもまぁスラスラと嘘が出てくるな」


 普段なら10時迄は起こさないソフィア。それは前回魔物に襲撃された時も同様。

 今回は単純にエルフや異世界の事を早く知りたいという好奇心に負けただけだった。

 それを理解しているエレナは、ベッドから降りるとソフィアが用意していた服を着始めた。


「すぐ下に行くから、コーヒーは濃いめでお願いするよ」

「はい!」


 元気に部屋を出ていくソフィアに苦笑し、着替えを済ませて朝の身支度をする。


しばらくして二階から降りて来たエレナは、ギルドの食堂に出来た人集りに顔をしかめた。


「朝っぱらから何騒いでるんだい、鬱陶しい」

「エレナ様!」

「な、なんでこの時間にギルマスが……!?」


食堂にはハルとスミレが居て、住民や冒険者に取り囲まれている。

エレナの登場に、街の住民は喜びの声を漏らすが、冒険者達は青ざめながら後退り一目散に逃げていった。

周りの反応を無視するように、ハルとスミレの向かいの椅子に腰を下ろす。


「おはようございます、エレナさん」

「ん、おはよう。この騒ぎは一体なんだい?」

「それは……」

「エレナ様!私たちは家族を救って下さった勇者様に何かお礼がしたいのです」


 口を揃えて『お礼がしたい』と主張する住民。

 それを強く追い払うことの出来ないハルとスミレは困惑していた。朝、食堂に降りてくるや否やずっとこのやり取りが続いている。


「お礼ねぇ。迷惑掛けてるのが分からないのかい?」

「……ですが」

「お礼の機会は後で用意する。それまで騒ぐな。いいな?」

「ですが、エレナ様!」

「騒ぐなと言ったのが、聞こえなかったのか?あ??」

「……申し訳ありません」


 ガン!

 エレナがテーブルの脚を蹴る。

 エレナの登場に喜んでいた住民達はエレナの怒りに気付き、数分もしないうちにギルドの食堂にはハル達四人以外誰もいなくなっていた。


「コーヒーは静かなのが一番だね」


 コーヒーを飲みながら、静かになった食堂に満足しているエレナ。

 食堂の奥では、客も全員居なくなった事を嘆く店員がいるが、誰も文句は言えなかった。


「エレナさんって凄いんだね」

「師匠に逆らえるのなんて、領主様の奥様とお嬢様くらいだからね」

「領主様の奥様?」

「うん、領主様と師匠は従兄弟でね。奥様とは幼馴染みらしいんだけど、まるで師匠が服じゅーー

「ソフィア。異世界の話はもう聞かなくて良くなったのかい??」


 余計なことを言うなという圧に、ソフィアは慌てて両手で口を抑えて見せた。

 全く、と呆れながらもエレナはすぐにソフィアを許してしまう。

 用意された朝食を食べながら、エレナはソフィアとハルにスミレと話して解った情報を簡潔に話し始めた。


「まずはスミレに関してだが、こいつは異界の門を三回も通っている」

「はい?え?いやいや、あり得ませんよ。異界の門は滅多に開かないし、場所もランダム。無理ですよ、そんなの」

「そう思うよな、普通。ソフィア、ボードもってきな。書いた方が整理しやすい」


 ボードを取りにソフィアはギルドの待合室に走っていく。依頼を確認にきた冒険者達を押し退けて、壁際の大きいボードを一枚、退いて退いてと声を掛けながら持ってきた。

 緑がかったソレはどう見ても黒板。

 

「細かい事を言うと長くなるから口を挟むなよ」


 日本の物より大きなゴツゴツした形のチョークを受け取ったエレナは、次々と黒板に二人の情報を書き込んでいく。

 

「訂正があったら言いな」

「いえ、何も訂正するところはありませんよ」

「ソフィア、私はエドに用があるから、質問は二人にしな。あと、ハルに魔法関連の知識を教えてやること。いいかい?」

「……はい、了解しました」


 本当に解っているのかとエレナは呆れながらも、軽くソフィアの頭を撫でてから食堂を出て行った。


「一度目は16歳。二度目は5年後、21歳。三度目は33歳?ハルは16歳。え?スミレさん、年齢合わないですよ」

「5年後に日本に帰ったら、16歳に戻っていたの。1ヶ月程しか経ってなかったわ」


 ソフィアはスミレの話を興奮しながら聞いた。

 日本に戻ると服装も体も16歳に戻っていたこと。

 直前に負った怪我はなくなっていたこと。

 妊娠して大きくなり始めていたお腹は妊娠2週まで戻っていたこと。

 ハルを連れて帰れと夢を見て、翌日にハルに真実を話すと異世界にという経緯まで話したところで、ソフィアはエレナが自分に丸投げした理由に気付いた。


「師匠、面倒になったんですね」

「面倒?」

「異界の門は謎が多いので、研究してて楽しいんです。発生はランダム、神や精霊による門の閉め忘れというのが有力説です。しかし二人の場合は、少なくとも崖から落ちた時と今回は、確実に神か精霊が関与しています。それと、向こうでの経過時間とこちらの時間は一致していません。つまり、スミレさんが崖から落ちたのが何年前なのか、それも調べる必要があります」


 ソフィアは黒板に書きながら説明をしていたが、退屈そうなハルを見て首を傾げた。

 ハルは決して興味がない訳ではない。

 スミレの話の時には楽しそうに聞いていたのだ。


「ハル?面白くない?」

「……そうじゃないけど、文字読めないから」

「あ、ごめん。ハルがこっちの言葉スラスラ話してるから、つい失念してたよ」

「そういえば、ハルはどうしてこっちの言葉が話せるのかしら?」

「え?」


 スミレの疑問にハルは固まる。

 ハルはこの世界にきてから、街の人と話す際はずっとこの世界の言葉を話していた。

 メルクの魔法で元々話せるスミレと違い、ハルが話せる事に驚いたスミレだが、一連の騒動で確認するのをすっかり忘れていたのだ。

 しかし、ハルにはその自覚はない。そして、その事実に気付いてさえいなかった。


「え、私普通に日本語話してるよ?」 

「……こちらの言葉に聞こえるわよ?」

「あ~、それはエルフの力だと思います。エルフは精霊の言葉から悪魔の言葉まで、全ての言語を脳内で翻訳できるといいますよ」


 ハーフエルフだという実感は全くなかった。

 エルフ最大の特徴である耳は、普通の人間の丸い耳がついている。

 この世界を居心地良く感じ、息がしやすい感覚はあるが、それをエルフとしてのものとは思えなかった。

 それは怪我の治りが早いとか、言葉が解ると言われても同じ。

 便利だとはおもうがそれだけ。

 

「翻訳魔法ね。私にもメルが掛けてくれたわ。ハルには遺伝したって事なのね♪ハルは本当にあの人そっくりね」

「あ~、遺伝といえば確かにそうですね。ただ、二人がエルフの関係者なのは口外しない方がいいです。特にハルがハーフエルフなのは絶対に言わないで下さい」

「討伐依頼がある位だもんね」


 やや低いトーンの声にソフィアは答えに詰まったが、避けて通れない話題だと全てを話す覚悟を決めた。


「先程の話の続きだけど、二人が向こうの世界にいた17年は、此方では100年以上経っていると思います」

「「100年!?」」

「スミレさんは人類とエルフの戦争を知らない。そうですよね?」

「え、えぇ」

「人間は千年前から魔族軍と戦争をしていました。ドワーフや獣人はどっちつかずでしたが、そんな中エルフは一切戦争に関わって来ませんでした。けれど100年前、エルフの軍勢が押し寄せて人類に刃を向けてきました。人間の味方だった精霊もエルフ側につき、幾つもの国が潰れ、人間の国はたった一つ、このワセドナル王国だけになってしまったのです」


 沈黙が流れる。

 討伐対象になるくらいの事をエルフはしたのだろう。

 その予想は正しくもあり誤りでもあった。

 人類にとってエルフは討伐対象というよりは恐怖の対象だった。


「……人間はエルフに一切太刀打ち出来ませんでした。精霊の加護を失った人類は、そもそも魔物との戦いすら難しくなりました。なので、人間は今この世界で最弱の存在なんですよ」

「……つまり、魔女はいまこの世界にいないのかしら?」

「はい、残念ながら……。魔石魔法を使う魔導師ならいるのですが」


 精霊の加護を失った人類は精霊魔法が使えない。

 スミレの数少ないこの世界の友人は魔女だった。

 寂しそうに尋ねるスミレに、ソフィアは申し訳なさそうに答えた。


「……魔導師と魔女は違うの?」


 いまいち二人の会話についていけない。

 ハルは困惑して首を傾げながら尋ねていた。


「……はは。ん~、じゃあ場所を移動して魔法や魔族について改めて解説しましょう!」


 ハルとスミレはソフィアに連れられて食堂を出た。

 向かう先は宿の二階、エレナの部屋。

 この時のハルは、まだ魔法学が人生を左右する程重要なことだとは知らずにいた。





300pt越えました!

ありがとうございます!

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