プロローグ はじまり
プロローグなのでまずは短いです。
のんびり更新していきます。よろしくお願いします。
「どうしてこうなった!?」
金髪の少女は自分たちを取り囲む気味の悪い生き物を見渡しながら、どこかの主人公じみたセリフを心の底から叫んでいた。
「来るわよ!」
共に囲まれている女性は長めの真っ直ぐな枝を握り締め、襲って来る敵を次々倒していく。
その姿に負けん気を刺激されて、金髪の少女は持っていた竹刀で敵を倒していく。
醜い顔に尖った耳に鋭い牙、鋭い爪。背は100センチ程しかなく、やや膨らんだ下腹部。少し前屈みで立つその姿は、どこから見てもゲームや漫画に出てくるゴブリンそのもの。
30匹は居たであろうゴブリンの群れをなんとか撃退した頃には、二人とも息を乱して疲労困憊といった様子だった。
「……母さん、怪我してない……?」
「大丈夫よぉ、さすがに疲れたけど……。ハルは怪我してない?」
「ん、大丈夫。ただ……もう少しマシな武器が欲しくなった……」
「それには激しく同意するわぁ」
金髪の少女と母と呼ばれた女性は背中合わせに座って、それぞれの手に握っている武器を眺めた。
竹刀とただの棒。
30匹のゴブリンを退治するには些か心許ない武器だった。
せめて刃の付いた武器が欲しい。あと食糧が欲しい。
二人は目の前にあるゴブリンの死体と、広大な平原をみて、自分たちの失態を嘆きながら、ほとんど同時に大きなため息を吐いていた。
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「ふっ…ふっ!……っ!!」
広い日本庭園の奥から、短く気合いの籠もった呼吸と、ビュッという風を斬る音が聞こえている。
発しているのは胴着姿に身を包み竹刀を振る少女。金色に輝く綺麗な髪。宝石でも嵌めたようなエメラルド色の瞳。色白で目鼻立ちは整いながらも、わずかに残る幼さがより一層人を惹き付ける。
「ハル、そろそろ終わりにしなさい。もうすぐご飯よ」
「あ、はぁい!片付けたらすぐ行くね」
ハルと呼ばれた少女は、窓から顔を出している母親に笑顔で手を振りながら応え、元気に家の中に入っていった。
少女の名前はハル、柊はる。名門女子高に通う二年生、16歳。剣道部のエースで全国大会優勝経験者。そして、合気道と薙刀の道場を営む名家の孫娘。
合気道と薙刀道場でなぜ剣道?と疑問に思うだろうが、母親の強い勧めにより、ハルは幼い頃から剣道を学んでいる。ハル自身も竹刀を振るのが楽しく、一度も弱音を吐いた事はない。
自分の部屋に帰ったハルは竹刀を壁に立てかけて、胴着を脱ぐと下着姿で洗濯機のある洗面所を目指す。汗が外気に触れて一気に涼しさを感じる。
鼻歌混じりに下着を脱ぎ、洗濯機に胴着と下着を投げ込んで洗剤を入れてスタートボタンを押す。そのままシャワーを軽く浴びると、バスタオルで身体を拭きながら台所にやってきた。
決して用があったわけではない。単に匂いにつられただけだ。
「あ、唐揚げだぁ!美味しそう!」
小さめの唐揚げをつまみ上げ、パクリと口に放ったところで、上からコン!と音がし、脳天に痛みが走った。
「ハ~ル~?つまみ食いしない!!そ、れ、と、裸で歩き回るなっていつも言ってるでわよね?」
母親の指摘はごもっともである。
すらりと伸びた手足。やや控えめながらも膨らみはきちんと存在し、腰の括れは美しさを更に引き立てる。そんな美しいプロポーションを惜しげもなく晒すのは、例え母親と二人暮らしといえども間違っている。いや、そもそもプロポーションに拘わらず、女子であるのだから、裸で歩き回るのはやめた方がいいだろう。
「え~!この開放感が……。ごめんなさい、服着てきます」
反論しようとしたハルは、おたまを持って笑顔で殺気を漏らす母親に気付いて、すぐに部屋に逃げていった。
「はぁ……、どこで教育間違えたのかしら」
母親はため息を漏らし、遠い過去を思い起こす。
「あれから16年。とうとう真実を伝えるべき時がきたのかしらね…」
遠い遠い過去。
けれど、それはまるで昨日のことのように思い起こされる。
すべてが変わってしまった。
愛する者を失い、代わりに愛する娘を得た。
遠い過去の記憶。
次回更新は2日以内にしたいです。