赤ずきん~Red Hood~
昔、あるところに、かわいい小さな女の子がいた。誰でもその子を見ると可愛がったが、特におばあさんが一番で、子供にあげないものは何もないほどの可愛がりようだった。女の子が7歳の誕生日を迎えた日、おばあさんは誕生日プレゼントとして赤いビロードの頭巾をあげた。その頭巾は子供にとてもよく似合ったので、子供は他のものをかぶろうとしなくなり、それでいつも赤ずきんと呼ばれた。
ある日、継母が赤ずきんに言った。
「おいで、赤ずきん、ここに木苺のショートケーキが一つと白ワインが一本あるわ。おばあさんのところへ持って行ってちょうだい。おばあさんは病気で弱っているの。これを食べると体にいいのよ。蒸し暑くならないうちにでかけなさい。行くとき、ちゃんと静かに歩いて、道をそれないのよ。そうしないと転んでビンを割って、おばあさんは何ももらえなくなるからね。部屋に入ったら、お早うございます、と言うのを忘れちゃだめよ。ご挨拶の前にあちこち覗き込んだりしないでね」
「よく気をつけるわ」
と赤ずきんは継母に言って、約束の握手をした。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
おばあさんは村から1キロメートル離れた森に住んでいて、赤ずきんが森に入ったちょうどそのとき、狼に会った。赤ずきんは狼が悪いけものだと知らなくて、まったく怖がる様子すら見せなかった。狼は言った。
「こんにちは、赤ずきんちゃん」
「ご親切にありがとう、狼さん」
「こんなに早くどこへ行くんだい、赤ずきんちゃん?」
「おばあさんのところよ」
「どこから来たの?」
「近くの村からよ」
「エプロンには何が入っているの?」
「木苺のショートケーキと白ワインよ。昨日が焼いた日よ。可哀そうな病気のおばあさんにおいしいものを食べてもらって丈夫になってもらうのよ」
「赤ずきんちゃん、おばあさんはどこに住んでいるの?」
「森をあとたっぷり700メートルいったところ。おばあさんのお家は3本の大きな桜の木の下にあるの。はしばみの木がすぐ下にあるから、きっとわかるわ」
と赤ずきんは答えた。
狼は、
「なんて柔らかそうで若いんだ。なんておいしそうに太っているんだろう。ばあさんよりうまそうだ。おれはうまくやって両方つかまえなくちゃならん」
と心の中で考えた。それで狼はしばらく赤ずきんのそばを歩いて、それから言った。
「赤ずきんちゃん、見てごらん、このあたりの花はなんて綺麗だろうね。周りを見回してごらん。小鳥たちもとても綺麗にさえずっているのに君はきいてないみたいじゃないか。君は学校へ行くみたいに真面目くさって歩いているんだね。森の中のここではほかは何でも楽しいのに」
その時、赤ずきんは目をあげた。太陽の光が木の間からあちこちに踊っていて、綺麗な花が一面に生えているのを見ると、赤ずきんは、
「おばあさんに摘んだばかりの花束を持って行けば、それも喜んでくれるわ。まだ早いからちゃんとそこに着くわ」
と考えた。それで花を探しに道から森の中へ走って行く。一本摘むと、もっと向こうにもっときれいな花を花があるように見えてそのあとを追いかけ、だんだん森の奥へ入って行った。
その間に狼はまっすぐおばあさんの家へ走って行き、戸をこんこんと叩いた。
「そこにいるのは誰?」
「赤ずきんよ」
と狼は答えた。
「木苺のショートケーキと白いワインをもってきているの。戸を開けて。」
「掛け金をあげて。私は弱って起きられないから」
とおばあさんは叫んだ。掛け金を上げると戸はパッと開き、狼は一言も言わないでまっすぐおばあさんのベッドに行くとおばあさんを食べてしまった。それから狼はおばあさんの服を着て、帽子をかぶり、ベッドに寝てカーテンをひいた。
ところが、赤ずきんは花を摘んで走り回っていた。
「たんぽぽとシロツメクサだけにしておこう」
たくさん集めてもう持てなくなるとおばあさんのことを思い出し、道を進んだ。赤ずきんは家の戸が開いたままになっているのに驚き、部屋に入ると、とても変な気分になったので、
「まあ、今日はとても不安な気持ちだわ。いつもだとおばあさんといるのが好きなのに」
と思った。
「お早うございます」
と叫んだが返事がなかった。それで赤ずきんはベッドに行き、カーテンを開けた。そこに顔まで深々と帽子をかぶったおばあさんがいて、とても奇妙に見えた。
「まあ、おばあさん、とても耳が大きいわ」
と赤ずきんは言った。
「お前の声がよく聞こえるように」
と返事。
「だけど、おばあさん、とても目が大きいわ」
と赤ずきんは言った。
「お前がよく見えるように」
「だけど、おばあさん、とても手が大きいわ」
「お前をよく抱けるように」
「だけど、おばあさん、恐ろしく大きな口よ」
「お前をよく食えるように」
狼はこう言うか言わないうちに一跳びでベッドから出ると赤ずきんを飲み込んでしまった。
狼は食べ終わると、またベッドに寝て、眠りこみ、とても大きないびきをかき始めた。この国の平和を守る猟師がちょうど家をとおりがかり、
「おばあさんはなんといういびきをかいているんだ。大丈夫かちょっと見てみなくては」
と思った。
それで猟師は部屋に入り、ベッドに来てみると狼が寝ているのが見えた。
「お前をここで見つけるとは。この罰当りめ」
と猟師は言った。
「お前をずいぶん探したぞ」
それから狼を狙って撃とうとしたとき、
(狼はおばあさんを飲み込んだかもしれない、ひょっとしてまだ助かるかもしれないな)
という気がしてきた。それで撃つのをやめ、裁ち鋏をもってきて眠っている狼の腹を切り開き始めた。チョキチョキと2回切ると、赤い頭巾が輝いているのが見え、またチョキチョキ2回切った。すると小さな女の子が飛び出て、
「ああ、とても怖かったわ。狼のお腹の中の暗かったこと!」
と叫んだ。そのあと、年とったおばあさんも生きて出てきたが、息も絶え絶えだった。
「ちょっと鉱山に行ってくる!」
ところで、赤ずきんは急いで鉄の塊をとってきて、狼のお腹に詰めた。
「はっ!」
狼は目が覚めると逃げようとしたが、鉄が重すぎてすぐにくず折れ死んで倒れた。
それで三人は喜んだ。
「よかったね!」
「ありがとう!」
「どういたしまして!」
猟師は狼の皮をはぎ、家に持ち帰った。
「いただきます」
「召し上がれ」
おばあさんは赤頭巾がもってきた木苺のショートケーキを食べ、白ワインを飲んだが、赤ずきんは
(これからは、おかあさんがそうしちゃいけないって言っているとき、一人で道を出て、森へ走っていかないわ)
と思ったのであった。