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ディフェレンター  作者: 論です
2章 キマイラ編
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95話 キマイラ戦 6

「ミア!!」

「おはよう、アルト」


名を呼べば彼女は微笑んだ。その様子に涙が出そうになるのを何とか堪える。

確か、最後に見たのは苦しみ悶えてる表情だったか。

助けた相手が無事目を覚して、微笑む姿が見れたなら死を覚悟した甲斐もあったものだろうか。


「良かった......本当に、目が覚めてよかった」

「うん、アルトのおかげだよ」


ミアの元へ駆け寄り、良かったと心から安堵する。

また、ミアの後ろや周りで座り込んだり寝転がったりしているカエデ達も見つける。


「お前らも無事だったのか」

「ヴァイズ・レットに助けられた」

「下手したら死んでたかもしれなかったもの。ありがとねミア」

「死んでた。は大袈裟かもだけど、助けられたのは本当。マジありがとなヴァイズ・レット」

「ほんと、急に起きてめっちゃイケボで「伏せて」って言われた時はキュン死するかと思いました。ほんと、助けてくれてありがとうございますミア」


助けられたカエデ達がミアにそれぞれ感謝を述べる。

(アキハだけテンションが違うような気もするが感謝自体はしているから、まあいいか)

一斉に感謝されたせいか、顔を赤くして恥ずかしそうに目を伏せた。と思えば、足元がふらついたのかミアが体勢を崩す。


「ミア?!」

「大丈夫ですか!」


ちょうど俺の方へ倒れてきたので支えることが出来たが、ミアの様子が少しおかしい。

息が上がり、汗を流している。体力がないのはわかるがカエデ達を助けたのはほんの一瞬だろう。そこまで疲れるものではないはずだ。

赤い頬を見て、まさか、と額に触れる。


「......熱い」


嫌な予感は当たった。ミアは熱を出していた。

俺の一言にカエデ達は目を見開いて驚く。

アキハは熱を冷まさせられないかとカエデやカザミに相談するも、二人の力では意味がないとすぐに結論が出る。アキハも自らの異能力で何かできないかと模索するが結局何も出来なかった。


(でもなんでだ、なんでミアが熱を出したんだ?)


彼らが解決策を探す横で俺は一人ミアが熱を出した理由を考えていた。しかし必死に頭を回すも所詮は俺の頭。答えは出てこない。


不安は積み重なり、連鎖する。

こういう時だ。こういう時に限って、嫌なことは続くんだ。


「危ない!」


不意に、ハヤテの叫び声が背後から聞こえた。振り返ろうと視線を上げれると、キマイラがすぐそこまで近づいており、気づいた時には拳を放っていた。

意識がミアの方へ行っていたせいで、反応が遅れる。

俺だけじゃない。エルモアですら動くことが出来なかった。声の遠さからハヤテも間に合わないだろう。


キマイラの拳が当たりそうになったその時、視界の端で二つの影を捉える。と次の瞬間にはキマイラの巨体は白く染まり、迫っていた拳が直前に停止する。

そのコンマ数字秒後、月明かりに導かれるようにキマイラの頭に()()が衝突し、頸の一つ、獅子の顔が落下し砕け散った。


「誰かが来るとは聞いてたが、てめぇが来たのか......仮面の裁定者」

「その呼び方は好きではない。普通に名前で呼べ、ヒュウガ・サキリ」


二つの影となる人物が背中越しに話し合う。

目の前の影はキマイラに吹き飛ばされ死んだと思っていたヒュウガだった。

その奥にいる『仮面の裁定者』と呼ばれた人は、白い狐の仮面を付け白いマントを羽織り、手には槍のような武器を持っている。

二人は知り合いのように話しており、その様子に一瞬気遅れするが、目の前のヒュウガの存在を改めてはっきりと認識して声をあげる。


「ヒュウガ! 無事だったのか! というかその人知ってるのか?」

「......やっと、起きたか絶殺」

「......ヒュウガさん? おはようございます......」

「そんな時間じゃねぇよ」


俺の事を無視し、寄りかかるミアに声をかけた。ミアもゆっくりと起きがってヒュウガに言葉を返す。

無視されたことに不服そうにしているとヒュウガは視線をずらし、こちらを睨んだ。


「何やってんだ雑魚」

「は? 何が?」

「何やってんだって聞いてんだよ」

「いやだから、何が......ッ?!」


言い終えるよりも早く、頬に痛みが走る。

威力と勢い身体が負け、尻もちを着き、殴られたのだと理解する。

口の中に広がる鉄の味と痛む頬を抑え、殴った相手を見上げる。

ヒュウガは何故か辛そうに息をあげているも、大して気にした様子を見せず、それどころか俺の胸ぐらを掴みもう一度言った。


「お前、何やってんだ!」


------------------------


「おい、()()()()

「何か?」

「クソガキを説教する。それまで時間稼げ」

「倒しても?」

「俺らが倒したら意味ねぇだろ」

「......了解」


今の会話がなんだったのかわからなかったが、直後に仮面の人が動き出し、キマイラを一人で圧倒していた。

思わず魅入るような戦闘から意識を強制的に移すように、ヒュウガは胸ぐらを掴んでこちらを睨んだ。


「お前、何やってんだ」


何度目か、しかし何度聞いても質問の意味がわからず首を傾げるだけになる。俺の返答が気に入らないのかヒュウガは再び殴った。


「痛ってぇなぁ......何すんだよ!」

「何もわかってねぇからだクソガキ!」

「何がだよ。わかるように言えよ!」


俺は身体を起こし、ヒュウガを睨み返す。すると今度はヒュウガは呆れたようにため息をつき、舌打ちをした。そして聞く。


「お前、俺がぶっ飛ばさらた後、何してた?」

「それは......俺のせいでお前がやられたから、お前の代わりをしようと......」

「それは、俺がやれって言った事か?」

「いや、俺が自分で考えて」

「お前の考えて出た行動は、俺の代わりをすることなのかよ」

「そりゃ、俺のせいでお前がやられた訳だし」


何も間違っていないはずだ。俺のせいでヒュウガが危険な目にあったならその代わりを取るのが俺の責任だろう。

けれどヒュウガは、その考え方を気に入らないようでまた舌打ちをする。


「お前、さっきレールガン撃っただろ」

「?! なんでそれを?」

「状況見ればわかる......いやそこじゃねぇよ。お前、レールガン撃つ時、何を考えてやがった?」

「外さないように......」

「それだけか?」

「ハヤテに言われた。周りに撃てる奴が居ない、みんな自分のやることにいっぱいいっぱいだ。これを撃つのが俺の役割だって」

「それで?」

「それで......本来撃つはずだったミアの代わりになるように。代わりになれるようにと思った。外したけど」

「外したことはいい。次当てればチャラだ。だがそんなことはどうでもいい」


ヒュウガは俺から手を離し、呆れたように睨みながら聞いた。


「お前はなんで、誰かの代わりになろうとしてんだよ」

「なんで? なんでと言われても、それは......」

「そいつ、昔から変なところでネガティブなんだよ」


俺が答えに迷っていると、エルモアが間に入って呟いた。続くようにカエデも話す。


「アルトは、他人は自分の事のように信用するが、自分の力は他人の事のように信用していない」

「なんですかそれ。他人を信用して自分は信用してない?」

「要するに、自分に自信がないってこと? いえ、それでも他人しか信じられないってのは変よね......どうしてかしら?」

「原因は母親の件だろう。学園に来て自らの成長共に薄れて行った考えかと思ったが」

「まあ、()()に化け物がいれば自信無くすのもわからなくはないか」


やれやれと言うようにカエデとエルモアが肩を竦める。

この二人に隠し事は出来ない。元々隠し事が上手い質でもないし、幼馴染故か隠そうとしても見抜いてくる。事実、俺の心の内を二人は見抜き、ヒュウガ達に話してしまうくらいだ。今日ほど、二人の存在が邪魔らしく思ったことは無いだろう。

恨めしげに二人を睨んでいると、ヒュウガがその視線を遮るように立ち、苦痛に表情を歪めながらも胸ぐらを掴んで言った。


「自惚れんなよ。雑魚が」

「......は?」


自惚れ。ヒュウガは確かにそう言った。言ったは言ったが、意味が全く分からない。何を言いたいんだヒュウガは。


「お前、弱い事を自覚してんだろ? 自分の力に自信持てねぇんだろ? そんな雑魚に、他人の代わりが務まるかよ」

「......務まるとか、そんなんじゃない。代役が俺の役目だから、俺のやるべき事だから、出来る出来ない関係なくやるだけだ」

「それが自惚れてんだよ。雑魚が!」


ヒュウガが血を吐いて叫ぶ。

キマイラを殴り飛ばされた時に怪我をしたのだろう。

けれど、その痛みを気にすることはない。


「いいか、俺はお前に、誰かの代わりになってもらうために頼ったんじゃねぇ」


ヒュウガは、真っ直ぐこちらを見つめて言う。


「お前の()()()()()()()()()()()()が必要だから頼ったんだ。俺は()()()()()()()を頼ったんだ」


アルト・シャドウの力。


「アルト、あなたは私に言った。私は絶殺である以前に、あなたのパートナーだって。ただのミア・ヴァイズ・レットだって。なら、アルトも同じ」


ミアがヒュウガの手を剥がし、こちらの両肩を掴む。

そしてヒュウガと同じように真っ直ぐな瞳を向けて言った。


「アルトは、誰かの代役じゃなく、私のパートナーのアルト・シャドウだよ」


代役じゃない、パートナーのアルト・シャドウ。


彼女らがの望むアルト・シャドウとはなんだ。


『おい、バカ』


今まで静かだったあいつの声が頭の中で響く。

その声で()()()は、たった一言。短く聞いた。


『お前は、誰だ?』


俺は......誰なのだろうか。

誰かの代わりなのだろうか。誰の代わりだろうか。


いや違う。


俺は、俺は、俺は......!


「ミア、ありがとう。ほんとに、いつも助けられてばっかりだな」


肩に置かれたミアの手を握り、感謝を伝える。

情けなさで笑えてきそうだ。


「ヒュウガ悪かった。変に考えすぎてた。でも多分、今すぐこの考え方が変わる訳じゃないと思う」

「あぁ?」

「俺は弱いから、役に立とうってまた誰かの代わりを演じるかもしれない」


膝を支えに立ち上がり、ヒュウガを見つめ返して答える。


「それでも、 お前が望むなら、弱くてもいいなら、アルト・シャドウとして、力を貸すよ」

「......死ぬなよ」

「ああ! もちろん!」


吐き捨てるように言ってヒュウガはキマイラの方を向く。

その後を追うように、俺はミアの手を引いて立ち上がり、ヒュウガの隣に立った。

アルトって精神面の成長が割と少ないのでこのキマイラ編でぶち込みました。

先に予告しますが、アルトにはもう少し絶望してもらいます。


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