93話 キマイラ戦 4
エルモアがキマイラと戦い始めた頃。
「さて、私達も始めましょうか」
「そうだね。エルモアの犠牲を無駄にしないためにも」
「犠牲とか言うのやめなさい。縁起悪いわよ......」
ハヤテ達は当初の予定通り、隠し部屋での情報集めを始めた。
「と言っても、本当にキマイラに関する情報なんてあるの? ハヤテ、あなた以前ここに来てるのよね? その時に調べたんじゃなくて?」
「確かに調べたよ。けど全部を調べられる程じゃなかったし、この部屋以外調べてない」
「調べて不足があるのは別に良いのよ。ただ、情報があるのかどうかってのが不安なのよ。根拠とかあったりするの?」
カザミの話を聞きながらハヤテは本棚に並べられた本の頁をパラパラと捲る。
「......根拠。まあ、ない事はないよ。根拠と言えるほど確実なものでもけど」
保険をかけるようにハヤテは言葉を濁らせて答える。
「一つは、単純にキマイラの資料を見つけてないから」
「どういう事?」
「僕らが前回の依頼で見つけたのは『キメラ』についての資料。『キマイラ』についての資料は見つけてないんだ」
「だからあると思うの? まあ、否定はしないけど、ハヤテにしては安直な考えじゃない?」
「そうかな......?」
そこで一度会話が途切れ、二人は書類や書籍に目を通す作業に集中した。
「ヒュウガさんが......」
何分か経った頃、ハヤテが再び口を開く。
「ヒュウガさんが、ここに『キメラ』だけじゃなくて『キマイラ』が居ることを知ってたらしい」
先の話の続きだと気づいたカザミはハヤテの方に耳を傾ける。
「もちろん、ヒュウガさんが知ってたからって資料があるとは限らない。でも、ヒュウガさんはキマイラについて詳しいことを話してない」
言葉を紡ぐごとにハヤテの表情が曇っていく。
「キマイラについて知ってたなら僕らに依頼に行かせる必要はなかったんだ。キメラやキマイラの情報はあの人が持ってるんだから」
「でも、ヒュウガはそれを話せないから調べに行かせたんじゃなくって?」
「そこも引っかかる。けどそうじゃなくて、ヒュウガさんは僕らに依頼する時『トンネルに居る怪物について調べて来てくれ』って頼んだんだ」
「それが何か問題でも?」
ハヤテの懸念が何を指しているかイマイチ理解していないカザミが首を傾げる。
「怪物、キメラについては確かに聞いてた。でも、僕らは最初ヒュウガさんに『幽閉されて実験に使われてる動物達を助けてやりたい』って協力を頼まれたんだ。最初と依頼の時で言動がズレてるんだ」
「確かに。言われてみればそう......ね......」
ハヤテの話が何が深い部分に触れてるのではないか、そんな考えが頭を過ぎるとカザミは「鳥肌が立ったわ」と腕を摩った。
「続けた方がいい?」
ハヤテが話を区切って心配するとカザミは書類に目を移して「続けて」と頼む。
「......これは完全に僕の憶測なんだけど......」
ハヤテは恐る恐る自らの考えを口にした。
「ヒュウガさんは幽閉されてる動物やキマイラの詳細。この二つにどんな繋がりがあるか知った上で僕らに調べさせたんだと思う。いや、もっと言えば、自分が調べていない事実が欲しかったのかも」
「どういう事かしら?」
「それは......ッ?!」
答えようとした時、ハヤテは何かに気づいたように振り返る。
「どうしたの?」
「何かいる」
「え......」
「多分、人じゃない」
「え............」
「それも一つや二つじゃない。結構いる」
「え............」
ハヤテは『何か』が聞こえたらしい本棚の方を調べ始める。
「あの、ハヤテ? 一応言っとくのだけど、私一応怪異とかお化けとかは、その、あまり得意じゃないというか」
「カザミさん、この本棚破壊してもらえる? 退かそうにも固定されてて動かせないんだ。本はなんか情報あるかもしれないから抜く、そしたら壊して」
他人の話は聞かず。ハヤテは急いで本を取りだした。
せめて話だけでも、と思う気持ちもよそにカザミは指示通り本棚を破壊した。
「風の技境地......鎌鼬」
本棚を破壊するとその裏には扉があった。
「地下みたいだね」
扉を開け、地下に続く階段を見つける。そして何も言わずハヤテはその階段を降り、カザミも身体を震わせながらその後に続いた。
懐中電灯で足元を照らして階段を降りること数分、降りきった先にはまた扉があった。
「この先からだ」
そう言ってハヤテは迷わず扉を開けた。
「やっぱり、君達だったか」
その部屋には例の幽閉された動物達が居た。
獅子、山羊、熊、馬、狼。他にも鳥や昆虫まで数え切れない程多くの動物が閉じ込められていた。
「ハヤテ、わかってたの?」
「僕の異能力は、動物の声が聞こえるからね」
「わかってたなら早く言いなさい。あんな話の後ですもの、流石に怖かったですわ」
「流石に僕でも幽霊とかの声は聞こえないから。多分」
「聞こえたくないですわね」
「逆に言えば、居るか居ないか僕にはわからないってことだよ」
「え..................」
ハヤテの余計な一言にカザミは石のように固まった。
「冗談だよ」
「怖いからやめなさい」
「あはは、ごめんね。でも、一番恐い思いをしたのはこの子達だろうね......」
目の前の牢屋に閉じ込められた動物達を見て、ハヤテはその前に膝を着き自己紹介と共にその中に手を伸ばす。
「初めまして、僕はハヤテ・フェザント。君達を助けに来たんだ」
ハヤテの手が動物達に触れようとした瞬間、カザミが声を掛けたことでその手を引いた。
「これキマイラについての書類じゃないかしら?」
「どれどれ、僕に見せてくれるかな?」
「どうぞ。私には少し難しくてなんて書いてあるか分からないのだけど、ハヤテならわかるかし......ら?」
ハヤテ・フェザントは温厚な性格である。
生徒教師問わずそれは学園中で知られており、彼を知る人物なら誰もが「この男はこんな言葉は言わない」と口を揃えて言うだろう台詞を、今、ハヤテは鬼のような形相で言った。
「......糞屑野郎が」
それを間近で聞いていたカザミは手に持っていた鎌を落とし、表情を青ざめ、思わず二歩引いた。
ギャップに対する驚きもあるがそれ以上に、カザミはハヤテに対してただの怒りではない、得体の知れない何かを感じ恐怖した。
(なにいまの? ただ怖かっただけじゃない......多分もっと大きな何かがハヤテの内側に秘められてる? それがハヤテの感情に反応するように一瞬だけ膨れ上がった?)
カザミは感じたものを分析する。が、それに触れる恐怖から考えるのをやめ鎌を拾った。
「ごめん、ビビらせて。大丈夫だよ」
笑顔で謝るハヤテにカザミも笑顔で「それなら良かったわ」と返すがまだ手の震えは治まっていたなかった。
再びハヤテは書類に目を通し、書かれた内容を口に出していく。
「どうやらキマイラは全ての動物の細胞を利用して造った死徒らしいよ」
「全ての種類の動物? それがあの動物達ってこと?」
「正確には同胞だろうね」
「でも、どうしてそんなことを?」
「ここで研究してた人はとある死徒を造ろうとしていたみたい。そしてキマイラはそれの失敗作」
「失敗作? あれが? その人達は一体何を造ろうとしていたって言うのよ」
「人工死徒」
「人工死徒?」
「人を越え、死徒の弱点を克服した唯一無二の最強の死徒だって」
「色んな意味で何を言ってるかわからないわ」
何を言っているんだと、カザミは呆れたように頭を抑える。
「僕もわからないよ。ここにある書類だけじゃ情報が少ない。というか得た情報に対して増えた謎が多すぎる。でも一つ、わかったこともある」
読み終えたハヤテは書類をカザミに渡し、再び牢屋の前に膝を着く。そして溢れそうな怒りを握り締めて牢屋の動物達へ手を伸ばした。
「理由は知らないけど、人間が、死徒を造っていて、その実験のために命が奪われている」
差し伸べられた手が動物達に触れようとした瞬間、牢屋の獅子が口を大きく開き、その手を噛んだ。
「ッ!!!」
「ハヤテ!!」
「大丈夫......だよ」
獅子の鋭い牙に手を噛み砕かれようとも、ハヤテは言葉を掛ける。
「君達が人に対して恐怖や怒りを抱くのはわかる。|僕ら人間が君達を傷付けたんだ。君達から信頼を奪い、恐怖を与えたんだ」
肉がちぎれ骨が砕かれ右手の感覚が無くなっていようとも、ハヤテは気にせず言葉を掛け続ける。
「君達は何も悪くない。悪いのは僕ら醜い人間の方だ。何を言っているかわからない。言葉が通じない。それだけで君達の思いや命を踏みにじった僕らが悪い......」
そして、ハヤテは頭を下げた。
「本当に、すみませんでした」
獅子に手を噛まれ自らが傷つけられている立場だというのにも関わらず、自分が実際にした訳でもその実験に関わった訳でもなく、ただ自分と同じ『人間』が犯した。
それだけを理由でハヤテは動物達に頭を下げて謝罪をした。
「許されると思ってない。僕が君達の立場でも多分許さない。だから許さなくていい。けど、それでも、もう一度だけ人間を信じて欲しい」
ハヤテは顔を上げ、真っ直ぐな瞳で動物達を見つめて言った。
「僕を、信じて欲しい」
動物達は理解出来なかった。
どうしてここまでするのか、どうしてここまでされても手を引かないのか、どうしてここまで、自分達を信じてくれるのか。
獅子は噛むのを辞め、ボロボロになったハヤテの右手に自分の頭を擦り付ける。
ハヤテは右腕を強引に動かして獅子の頭を撫で返した。
「カザミさん、お願いします」
「わかったわ」
その一言で理解したカザミは何も聞かず、言われた通り牢屋を破壊した。
牢屋が破壊された瞬間、動物達が一斉にハヤテに寄り添う。
「ありがとう」
ハヤテは動物達に包むように手を回す。
ハヤテは彼らと種の垣根を越えて分かり合い、命を結ぶ信頼を作りあげた。
当然ながら動物達が付けられた傷が癒えることも、人間が犯した罪が許されることも無い。
けれど、信用出来る人間がいることを理解させた。
ハヤテ・フェザントは人と動物が再び繋がる架け橋となったのだ。
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「さて、感動場面はここで一区切りよ」
「そうだね、僕らにはまだやるべき事が残ってる。待ってる仲間がいる」
動物達との和解を果たし、ハヤテとカザミはアルト達の元へ向かう。
「頼ってごめん。図々しいかもしれないけど、君達の力が必要なんだ。僕達に力を貸してほしい」
ハヤテは再び頭を下げ動物達に協力を乞う。その思いに答えるように動物達はハヤテとカザミを連れて階段を駆け上がった。
「ありがとう」
動物達の声を聞き、ハヤテは友として感謝を口にした。
全ての種類の動物と言ってますがあくまで陸上生物だけです。魚とかの海中生物は使われていません。
カザミはハヤテに得体の知れない何かを感じたとありますが、前回の依頼でアルトも同じものを感じています。ただアルトは自身が疎いのもあって「ただビビった」としか感じれてないです。




