91話 キマイラ戦 2
ヒュウガ対キマイラに丸々一話使いたいから前の回付け足ししたっていう
「見ていろ」
それはヒュウガが拾段と戦った時に言った言葉と同じものだった。加えてあの時は「足りないものを見て探せ」とも。
「ヒュウガは何かを伝えようとしてるんだな」
「言葉ではなく、行動で」
カエデとエルモアも言葉の意味を理解したらしく、指示に従ってその場に留まった。
「人間風情ガ。一人デヤル気か?」
「雑魚が。一人で十分だっつってんだよ」
「タダ逃ゲ回ルダケナラ、十分ダロウナ」
「安心しろ。ちゃんと叩きのめしてや」
言い終わるよりも早く、キマイラはヒュウガを殴りつける。しかしそこの拳はヒュウガの目の前で軌道がズレ地面を叩く。
「そんな急かすなよ気持ち悪い。ちゃんと叩き潰してやるって言ってんだろ? 雑魚風情が」
刃を向け、ヒュウガは嘲笑うように言った。
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エルモアの時同様、キマイラは高速且つ高威力多段の打撃を放つ。
がその全て受け流される。一撃一撃が致命傷になりうるキマイラ打撃を、全て、ヒュウガは刀一本で受け流している。
二本の腕に一本の刀で対応する反応速度も凄いが、それ以上にやはり「受け流す」技術が異常だ。
氷の異能力で刀を纏い強化してるとはいえ、その刀は刃こぼれしないどころか、纏っている氷が欠けることすらない。
「俺の知り合いのクソガキは俺よりもっと受け流すの上手いんだよ」
「お前より上手いのいんのかよ」
「上には上がいるもんだ。けどな、そいつにコツ聞いても「君は何故川の水は流れるかなんて疑問を抱くのか?」なんて訳の分からないこと言ってくんだよ。結局、見様見真似で覚える羽目になったんだ」
例えはよく分からないが、ヒュウガの知り合いが凄いことは伝わる。同時にこのレベルの技を見様見真似で覚えるヒュウガもまた異常だということも。
「確カニ、ソノ技術ハ凄イ。ダガ、ヤッテルコトハ、逃ゲ回ルノト変ワラナイダロ」
「まあ、そうだな。だから!」
ヒュウガはキマイラの打撃を最小の動きで避け、叩きつけられたその拳を蹴り飛ばす。それだけでキマイラは体制を崩した。
「ッ?!」
百九十あるとはいえキマイラと比べれば何倍も小さいヒュウガのどこにそんなパワーがあるのか。
何が起きた分からず戸惑うキマイラをヒュウガはもう一度蹴って壁へと叩きつける。
さらに間髪入れず、ヒュウガは刀を振り上げる。
「待ッ」
「無限月華・氷刃!!」
そして、倒れたキマイラの頸に無限の氷の斬撃を降り注ぐ。
斬撃の流星群が終わると同時にその怪物は吠えるように声を上げて姿を現す。
あれを喰らって生きていたのか、疑問に思って見てみればキマイラの右手がない。
あの斬撃を受ける時に咄嗟に頸を庇ったのだろう。その結果、頸は落とせなかったが右手を破壊した。
今まで何もをしてもほぼ無傷だったキマイラに、明確なダメージを与えた瞬間だった。
「ヨクモ、ヤリヤガッタナ!!!」
喜びたいところだがキマイラはまだ倒せてない。それどころか怒りを露わにして唸っている。
「だっせぇな、怪物」
その姿をヒュウガは鼻で笑う。
「ナンダト!」
「そりゃそうだろ。こんなちっさい人間に蹴り飛ばされて、殺されかけて、手ェ抜かれて......みっともねぇな」
「人間如キガ! 我ヲ笑ウナ!!」
キマイラは怒りに任せるように残った左腕でヒュウガを殴る。
振り下ろされる拳を前にヒュウガは、俺達の様子を確認するように振り返る。その眼は何かを言いたげで。視線を戻すと同時にヒュウガは一瞬で、キマイラの腕を肘の辺りまで粉々に斬り裂いた。だけじゃない。
ほぼ同時か、キマイラの両脚も斬り落としていた。
キマイラが足が無くなったことに気づいた頃には、ヒュウガはキマイラの真上まで飛んでいた。
「デカブツが、頭が高ぇんだよ」
そして、そのデカい頭に踵落としを喰らわせる。
キマイラの頭よりも速く地面に足を付けたヒュウガは落ちてくるその顔面を叩くように斬り、三度キマイラを吹き飛ばす。また吹き飛ばすと同時に放った氷の斬撃がキマイラの視界を潰す。
サイズやスペックが人の何倍もある怪物がまるで子供扱い。
強いとか弱いとか、遠いとか近いとか、そんな測れるようなレベルではない。
異能力も技も身体能力も経験も、全てが、圧倒的に「格」が違う。
それをこの場にいる全員が思い知った。
「いつまで休憩してるんだ」
声も出ずに固まる俺達にヒュウガがいつもと変わらない様子で声をかける。
「俺が倒しちゃ意味ねぇだろ」
そう言ってこちらに向ける視線は「さっさと頸を斬れ」と言っているようだった。
気づけば身体はそれなりに動けるくらいまで回復していた。
そうとわかれば。
俺は一歩目を踏み込む。今度は倒れない。
しっかりと走ってキマイラとの距離を詰める。
気配で気づいたのか、キマイラは無い腕を無闇に振り回す。だがそれをヒュウガが氷で止め、さらに俺が頸に届くようにと足場も形成した。丁寧に頸が動かないよう凍らせて。
余計なお世話と言いたいが、今はありがとう。
一歩目を踏み込み、俺は一瞬でキマイラの頸まで辿り着き、刀を振るう。
ただ普通にやっても俺の力じゃ頸は斬れない。だから影を斬る。
「影斬り!」
本人が気付かぬ程の静寂と共に、キマイラの頸は斬り落ちた。
誰も歓喜の声をあげない。俺自身も未だ頸を斬った自覚がない。なんなら、本当に斬れたか不安で振り返ることが出来ない。
それでも振り返らなければならない。振り返って勝利を確信し、カエデ達を安心させなければいけない。
乱れる息を整え、振り返ろうとしたその時だった。
何か、自分の体よりも大きい何かが、迫っていた。
気づいたと同時には俺の体は宙を舞い、目の前で、ヒュウガが吹き飛ばされていた。
本当はもう少し早く出すつもりだったけど、色々忙しく......




