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ディフェレンター  作者: 論です
2章 キマイラ編
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90話 キマイラ戦 1

あんまり、期間は、開けないように。

「遅いんだよ。カエデ」

「遅くなって悪い。エルモア」


揶揄うように言うエルモアと目を合わせる余裕なく、カエデは相槌と共に目の前の巨大な怪物に舌打ちした。


「お前の舌打ち迫力あるな」


十字架の蒼焔は確かにキマイラに直撃した。

吹き飛ばした。と言えば聞こえはいいが、それはたかだか数メートル。エルモアが逃げるだけの余裕を作る程度しかキマイラを動かせていない。


「いや、その数メートルで俺は助かったんだからいいだろ別に」

「その別には、俺が動かさなくても避けられたことじゃないのか?」

「それ言ったらお前傷つくだろ。それに、お前らが来たってわかる丁度いい目印になったわけだし」


エルモアは慰めるようにカエデの肩を叩いた。


「それにしても、随分と遅かったな......」


話題を変えようとカエデの来た方へ視線を移す。


「どうやらなんやら。何かあったようで」


遅れて歩いてきたヒュウガとアキハ、そしてその後ろでミアを背負うアルトを見て状況を察する。


(ヴァイズが倒れるって相当だったのか? アルトもあっちのアルトだし、なんかあったんだろうけど......)


「重かった」と文句を垂れながらミアを降ろすアルトと「あなた疲れないんでしょう!」だとか「というかそれ本人の前で言ったら殺しますからね」だとか言ってアルトに突っかかるアキハを見て、「まあ、無事ならなんでもいいか」とエルモアは落胆的に結論付けた。


「エルモア、お前一人か?」


馬鹿のやり取りを遮るようにヒュウガは前に立っては状況を聞き、エルモアは短く端的に答える。


「カザミとハヤテが資料探し中。時間稼ぎするだけなら俺一人の方が良いからな」

「俺らが来るまでにどのくらい経った?」

「三十分程度だと思う」


「そうか」唸りながら前方にいるキマイラを見て

どこか安心したような表情を浮かべた。

その顔をがどこか気持ち悪くて、似合わない等を理由にエルモアはヒュウガを煽る。


「負傷者出した上に来るまでに三十分掛かるとか何やってたんだよ。生徒長に遅刻癖治せって言われただろ」

「三十分あって傷一つ付けられてない役立たずに言われるたくはねぇよ」


いつもの無駄にキレのある口の悪さが戻りエルモアは少し安心した。


「さて、やるか」


そう言ってヒュウガは背後のアルトとミアを囲うように氷を作り出し、自身は睨むようにキマイラの方へ向き直る。


「もう一人のは雑魚と絶殺が目を覚ますまでそこで待機。アキハは二人を守っててくれ。カエデとエルモアはあの怪物を削れ。あいつの攻撃は俺が受けてやる」


ヒュウガが全員に役割と指示を出す中、エルモアが手を挙げで意義を立てる。


「削るのはいいけど、あいつかなり硬いぞ? 俺の『黒雷』カエデの『十文字』でも無傷なんだ。ただ削るだけじゃ体力の無駄だろ」

「バカが。だから起きるのを待つんだろ」

「あ?」


エルモアの意見にヒュウガはアルト達とキマイラ。それぞれを交互に見ながら答える。


「あいつの硬さが種のある硬さなのか、それとも純粋に硬いのか。お前らの攻撃が効かなった時点で恐らく後者だろうが、削ること自体は無意味じゃねぇはずだ。なら実際後者だった時、有効打になるあの二人が起きるまで俺らは前者の可能性信じて削る。それが一番効率がいいだろ」

「なるほど」


事前に情報があったとはいえ、数十分のエルモアとの戦闘からここまで考えがまとめ、判断するヒュウガにアルト達は思わず目を見開く。そして同時に理解する。

このヒュウガの判断能力の高さは彼の経験から来ているものだと。

東洋に居なかった期間も含めて約十年間、その長い時間積み重ねた経験が技術や知識以上に、彼を引き立たせる彼の()()()()であると。


「最後にお前ら、これだけは守れ」


アルト達を見渡し、真剣な表情でヒュウガは言った。


「無理はするな」


アルト達は近くにいる仲間と目を見合せ、再びヒュウガの方を向き、


「何を今更」

「怪我人を動かしてる奴が何を言う」

「無理するなとか言うなら、無理しないくらいもう少し人集めてきてくださいよ!」


愚痴を漏らした。


「えぇい! うるせぇ!! 指示は出したんださっさと動け雑魚共!!!」


それを聞けば今度はヒュウガが逆ギレし、刀をキマイラに向けて「動け!」と怒鳴った。


------------------------


改めてヒュウガの凄さに息を飲む。

カエデとエルモア。二人の火力や速力、攻撃へのテンポやタイミングは当然ながら異なる。言わばそれぞれで動く歯車だ。

その二人の動きが、異なる二つの歯車が噛み合い回るようにヒュウガが動きを合わせている。

それが可能にしているのはまた、ヒュウガの経験からだろう。


「クソ人間ガ!!」


三人の猛攻に鬱陶しさを感じたのか、キマイラが暴れるように動き出す。

するとヒュウガはカエデやエルモアに向かう攻撃を全て氷で防ぎ、同時にキマイラの周囲を凍らせ動きそのものを制限した。


『すげぇな......』


どこからか聞こえた声はいつにも増した阿呆声だった。


「起きたのか」

『阿呆とか言うな馬鹿』

「同レベだな」


()()で言い合うアルトを「こいつヤバい奴だ」とでも言いたげた目で見るアキハ。

その視線に気づいた()()()は「馬鹿が起きた」とだけ伝え、瞳の色と共にアルトと入れ替わる。


「おはようアキハ。色々助かった」


短く。それだけを言ってアルトは立ち上がり氷から身を乗り出す。


「ちょ、ちょっとアルト」

「大丈夫だ。状況は理解してる」

「いやそういうことじゃなくて」

「ヒュウガ、今起きた。俺も入る」

「いや、だから!」

「ミアを頼む」


ミアを理由にアキハの制止を振り払う。


「俺が、やらなきゃいけんないだろ」


低く唸るように言い放ってアルトは構えた。


(多分ヒュウガは俺の動きに合わせる。だから最初っから縮地で行くのはダメだ。それに縮地先で殴られたら元も子もない)


考えがまとまれば後は行動あるのみ。

走り出そうと一歩目を踏み出したその時、アルトは崩れるように倒れた。


「は?」


理解にも及ばない程の間の抜けた声がトンネル内に響く......よりも速く、キマイラが目の前に現れた死にかけの獲物を潰そうと拳を放った。

学園最速のエルモアが、そのエルモアよりも早く気づいたカエデが、この二人よりも近くに居たアキハが、

全員が、間に合わない。と一瞬で悟る。


ただ一人を除いて。


「言ったよな? 無理するなって」


ヒュウガ・サキリは、その場にいた誰よりも、速く、アルトの元へ辿り着き守った。


------------------------


「言ったよな? 無理するなって」


片手間程度にキマイラの拳を弾き、ヒュウガはわかりやすいほど苛立った目でこちらを睨む。


「いや、無理したつもりは......ただ思ったより体が動かなくて......」


言い訳にしかならない言葉を必死に吐き出す。

無理したつもりがない。その無理のラインを理解出来てなかったアルトでヒュウガは何も間違ってない。だからこそ、今苛立っているヒュウガと目を合わせるのが怖い。


「......そういう事か」


けれどヒュウガの怒りは何故か、鎮まったようだった。


「そういう事なら、俺が悪いな。俺の認識が甘かった」


勝手に理解し勝手に納得して、さっきの怒りはどこへ行ったのかと思う程ヒュウガの表情は変わっていた。

再び向けられた視線は多少ながらも申し訳なさが含まれたものだった。


「どういう事だ?」


ヒュウガがアルトを守ったことで生まれた隙にカエデとエルモアが合流する。

そして何を納得したのかとヒュウガに問う。

少し考えた後、ヒュウガは指を鳴らしては背後にいるキマイラを凍結させ「これくらいなら話してもいいか」と口を開く。


「俺は表と裏(おまえら)の入れ替わりは精神だけで肉体の痛みや体力は共有してないもんだと思ってた。実際、絶殺との決戦でお前が大怪我をしても()()()のお前は怪我を気にせず動いてたからな」

「確かに、人の体の具合とか関係なく動いてたな」

『うるせ』

「だから俺の中で、お前の体の問題はもう一人には共有されず、()()()()()()()()()()()()ものだと認識していた」

「それで合ってるんじゃないか? 俺らもそう認識してるし」

「それで合ってないから倒れたんだろ?」

「うっ、確かにそうだが......」


その事実に言葉を詰まらせる。

そんなアルトを無視してヒュウガは改めるべき認識を語る。


「とはいえ、その認識全てが間違ってる訳じゃない。『体の問題はあっちのお前には共有されない』というこの部分は正しい。そうだろ?」

『そうだ。俺がこいつの体を使ったところで疲れはしない。異能力使えば精神的には疲れるがな』


ヒュウガの問いにもう一人アルトが一瞬だけ入れ替わり答える。するとヒュウガは()()()回答に「それだ」と指を鳴らす。


「どういう意味だ?」

「精神を入れ替えたところで裏側のお前が肉体的消耗をすることは無い。いや()()()()()()()()

「わからん。もう少し詳しく教えてくれ」


いまいちヒュウガの言ってることが分からずアルトは首を傾げる。

ヒュウガは表情で溜息をつき、めんどくさいとでも言いたげな表情で「要するに」と説明した。


「お前らの精神が疲れを感じてなくても肉体には疲労が溜まってたってことだ」

「分かりやすい」

「俺はそれを知らず、あっちのお前に無理をさせた。悪かったな」

「いや別にいいけど......」


ほんとに、珍しくもヒュウガは申し訳なさそうに謝罪をする。

別に無理させたのはいいんだけど、でもその説明だと......。


「アルトが自分の体の疲れに気づいてなかったのは何故だ?」

「疲れても頑張ります。じゃなくて、疲れてることにすら気づかないなんてことあるか?」


アルトがよりも早くカエデとエルモアがその疑問を口にする。

それについても考えがあるのか話出そうとしたその時、キマイラを凍らせた氷像にヒビが入る。


「これ以上長話は出来そうにないな。悪いが、続きはあいつを倒した後だ」


そう言ってヒュウガは再び刀を握る。がその表情はどこか思い詰めた様子で。


「ちょうどいい。カエデ、エルモアお前ら二人も休んでろ」


何を思ったのかカエデとエルモアにも休むよう支持を出した。


「何故だ?」

「アルトと違って自分の体力は把握してる。まだまだ行けるぞ」

「黙れエルモア」


抗議する二人とアルトにヒュウガはただ一言だけを残した。


「そこで、見ていろ」

ちょっと付け足し

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