82話 氷対拾壱
夏休みなので割りと更新できそう。
受験は何とかなるので大丈夫です(多分)
「誰の妹に手ぇ出してやがる......!」
目を開き、視界に映るのは刀一本でロレイの拳を受け止めるヒュウガの姿だった。
「お兄ちゃん......」
「ああ、お兄ちゃんが助けに来たぞ」
「あっ......」
咄嗟にお兄ちゃん口に出たという単語にヒュウガが嬉しそうに答えると、アキハは顔を赤くし、誤魔化すように「ヒュウガ!」と言い直した。
「別に、お兄ちゃんのままでもいいんだよ?」
「呼んでませんよ! 空耳です! 忘れて下さい!」
「あのさぁ、今状況わかってんの? 今この状況でそれやるって舐めてんの?」
戦っていることを忘れたように兄妹喧嘩を始めるヒュウガとアキハにロレイが怒りを露わにする。それは動きにも出ており、受け止められているヒュウガの刀を無理やり押している。
「今の状況? てめぇこそ、さっきまで自分が何してたかわかってんの......かっ!」
押され気味だったヒュウガはロレイの拳の勢いをそのまま利用し、刀を滑らせて軌道をずらし、肩の付け根から左腕を斬り落とす。しかし、ロレイの勢いは腕をなくしても尚、収まっていなかった。腕の再生に合わせてアキハに殴ろうとしていた。
ところがロレイの拳はすぐには再生せず、アキハを殴ることが出来なかった。その原因は斬られた肩の付け根が氷漬けにされていたからだ。
「だから、誰の妹に手ぇ出そうとしてんだって言ってんだよ......!」
ヒュウガはスケートリンクのように地面を凍らせ、滑るように回転しながら再びロレイの正面に回る。その際の回転の勢いで残っていた右腕を素早く斬り落とし、同時に断面から再び凍らせ再生を封じる。完全に無防備となったロレイに正面から巨大な氷を放つ。
「......さすがにか」
放った巨大な氷を見つめながらヒュウガは小さく漏らす。すると次の瞬間、巨大な氷は内側から砕け散り、そこから五体満足のロレイが現れる。
「斬った断面から凍らせるて即時再生を阻止だけでなく、冷気を出し空気の温度を下げ氷の生成を加速、さらには、ギリギリ分かるか分からないかレベルでこっちの動きを鈍くする。腕を切断したあとも背後からでなくわざわざ正面に回ったのは生成した氷の余波でさりげなくアキハを引き離すため......」
「氷を食らう寸前で凍った腕ごと破壊し、即座に再生。異能力を使って自分の周囲に動けるだけの空間を作り、氷を中から砕く......」
「「お前、強いな......」」
一連の動きを分析し、互いが互いの実力を把握する。
「.......」
二人は見つめあったまま静かに沈黙する。
次の瞬間、ロレイとヒュウガが同時に飛び出す。
ロレイが拳を放てばヒュウガはそれを受け流し、ヒュウガ刀で斬り掛かればロレイがそれを弾き防ぐ。
目にも止まらぬほどの速さで彼らの得物は幾度もぶつかり合う。
互いの強烈な一撃がぶつかりその衝撃に彼らは吹き飛ばされたのように距離ができる。
「あんた、ヒュウガ・サキリだろ? ヴァイズの次、学園二位のヒュウガ先輩。初めまして、俺はロレイ・グラード。よろしく」
「よろしかねぇよ。俺のいない間に現れて知らねぇうちに死んだ雑魚が何言ってやがる」
距離の出来たことをきっかけにロレイはが軽快にそれでいて煽るように話しかける。対してヒュウガはいつもの不機嫌な様子でロレイを睨む。
「にしてもあんた強いなぁ、俺が人間だったら四回は死んでた」
「俺は二回くらいしか本気でお前を殺しに行ってないが、その倍死にかけたのならその程度ということだな」
「二度も本気で殺しに行って殺せてないってことは先輩もその程度ってことじゃないですか?」
「あぁ?」
皮肉をぶつけ合う彼らの間には見てわかるほど火花が飛び散っていた。
傍から見ていたアキハが思わず引いていたほど。
「でも残念だなぁ」
「残念?」
「確かにあんたは強い。でもここは一対一の闘技場じゃない。命を取り合う戦場だ。命を取るのが俺だけとは限らないし、取られる命もあんただけとは限らない......」
ロレイの小さな動作に周りにいた死徒達が一斉に動き出す。その先にはヒュウガの戦闘に目が行き、完全に油断していたアキハがいた。
咄嗟に銃を構えるも既に死徒達は目の前まで迫っており、とても発射まで間に合わない。しかし、その光景を横目にヒュウガは落ち着いた様子で呟いた。
「確かにここは命を取り合う戦場だ。誰の命がいつ誰に取られてもおかしくねぇ。だがな、誰かの命を守るのも俺だけとは限らねぇよ」
刹那、アキハの目前で蒼い炎が死徒達を焼き尽くした。
「悪い、遅くなった」
------------------------
東洋異能力学園特製のマントをなびかせて、左手から放つ蒼い炎で死徒達を焼き払いながら黒髪の少年はパートナーの少女を守るように前に立つ。
「悪い、遅くなった」
謝罪の言葉を述べる少年に少女は恐怖や焦りからうしなわれていたいつもの調子で、笑顔で答える。
「ほんと遅いですよ! カエデ!!」
声色から背中越しにでも伝わるその喜びはカエデの頬を緩ませ「無事でよかった」と安堵の言葉が自然と漏れる。
「はい、カエデも無事で......」
「何良い雰囲気作ってんだおい」
周りから見ても踏み込めないだろう感動の再会の空気をヒュウガが見事にぶち壊した。
「おいカエデ、俺はてめぇのことある程度は認めてるがそこまで許した覚えはねぇぞ」
「何がだ? 俺はただアキハの無事を喜んでいるだけだ」
「じゃあこの雰囲気はなんだよ! たかが数分会わなかっただけで感動の再会みてぇな雰囲気作ってんじゃねぇよ」
「ここに来るまでに何人も死んでたんだ。無事に再会できたことを喜んで何が悪い」
「正論言ってんじゃねぇよ。俺の許可無くアキハと距離を詰めるな。いいか、アキハはな......」
「もういいですから! ヒュウガはも喋んないでください! 私とカエデはただのパートナーです! それ以上でも以下でもありません!!」
「じゃあなんで俺の時よりカエデの時の方が感動が大きいのかな?」
「当たり前じゃないですか! カエデはパートナー、ヒュウガはウザイあ......先輩! カエデの方が大切に決まってるじゃないですか!!」
「よしカエデ、てめぇ表出ろ。立場ってもんを教えてやる」
「表も何もここは外だが?」
アキハとの仲の良いやり取りに怒りを覚えたヒュウガがカエデに食ってかかる。対して何を怒っているのかイマイチ理解出来てないカエデは真顔で正論を言い返す。
「正論言ってんじゃねぇよ。大体、てめぇは遅れてきた癖に生意気なんだよ」
「遅れてきたことは悪いと思っている。だが、お前が速すぎる......というのも......」
ヒュウガの手にあるそれらを見てカエデは思わず息を飲み、言葉を失う。
それまでのやり取りを呆れながら遠巻きに見ていたロレイすらカエデと同じ事に気づいた途端、驚いた様子で指さし聞く。
「おいヒュウガ先輩、あんたその二人をいつ回収した?」
「あぁ?」
手に持つそれらへの質問にヒュウガは呆れた様子で答える。
「さっきだよ」
彼の左手には気絶したままのアルトとミアがいた。
短いようで三千文字近くあるこの一話。
終わり方も個人的には微妙ですし、タイトルの氷対拾壱もめちゃくちゃってほど戦った訳じゃないのでどうかと思いますが、これ以上長くするのも嫌なのでここまでです。
次回、バトルかなぁ?




