81話 水対拾壱
擬似認識影・世界は視界に映るもの全てを影として認識し、干渉する技。だと思っていた。ヒュウガは俺に、まだこの眼を、使いこなせていない。と言った。
この技にこれ以上の使い方があるのか、まだ出来ることがあるのか、そもそも、この技自体、俺自身で影のない状況だとほぼ無力に近いという弱点を解消するための技だ。それ以上の使い方なんてわかるか。
でも、どうしてか、ミアを助けようと思った時、この技なら助けられる気がした。
「影斬り」
影を斬った。ただなんの影かはわからない。見えなかったから、見えない影を斬った。
(そういう事かよ......折角わかったのに......でもまあ、ミアが無事なら充分か......)
朧気ながらも倒れるミアを支え、自然と漏れる「良かった」の言葉を残し俺の意識は闇へと消えた。
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重なり倒れるアルトとミアをアキハが滑り込み支える。
「大丈夫ですか」と声をかけようとしたがその容態に思わず息を詰まらせる。ミアの方はほとんど無傷だが、アルトの方は全身を大きく切り裂かれ、血が溢れ出ている。
「無理しすぎですよ」
アキハは少し呆れたように呟き、二人を仰向けで寝かせる。
そしてアルトに銃口を向け、引き金を引く。
銃口から放たれた水弾はアルトの傷を覆うように形を変える。応急処置になるかどうかレベルの手当だがないよりはマシだろう。
「興醒めだ」
その様子を少し遠くから眺めていたロレイが吐き捨てるように言った。
「全く興醒めだ。わざわざ先輩連れ出して、最悪の悲劇を再現して、あわよくば全滅出来れば......とか思ってたのによ、つまんない結果になったな。本当に興醒めだ」
「興醒めなら回れ右して、先に帰った先輩の尻でも追いかけたらどうですか?」
「そうはいかないんだよ。上がうるさくてさ、最低限仕事はしろって」
「ブラックですね。ちなみにその仕事とは?」
「言わなくてもわかるだろ」
周りの惨状、特に後ろで倒れる二人を見れば嫌でも察しがつく。
アキハは「ブラックですね......」と溜め息混じりに呟いた。
「まあ、そういうことだ」
ロレイが合図を出し、控えていた死徒達がアキハに襲いかかる。
アキハは二丁ある銃うちの一つを死徒にもう一丁を背後にいるアルト達に向けて撃つ。
「守りますよ。ちゃんと」
水弾は目の前で破裂し、死徒達を吹き飛ばす。ダメージはないが牽制になる一撃。そしてもう一つの水弾はアルトとミアを守るように膜の形に変化した。
「来るならどうぞお手柔らかに。この二人には指一本触れさせませんから」
そう言ってアキハは銃を構える。そこに死徒達を退かしてロレイが自ら近づく。
その様子は苛立ちとどこか戸惑いを含んでいて「わかんねぇなぁ」と呟き、拳を構える。
ロレイが動き出すと同時にアキハは引き金を引いた。
水弾は今までとは比較にならないほど速く、拳が伸びきる前にロレイへと辿り着く......はずだった。
水弾がロレイに当たる直前、押し潰されるように破裂した。
ロレイが左手で異能力を行使し、水弾を防いだのだ。
放った水弾は無くなり、ロレイの拳が自身に迫る中、アキハは冷静にもう一丁の銃の引き金を引く。
ギリギリまで引き付け放った水弾はロレイが異能力を使うよりも速くロレイの拳に触れ、破裂した。
先程の死徒達を牽制するための水弾とは違い、明らかに破壊力を持った水弾はロレイの腕を吹き飛ばした。
「......!」
ロレイがほんの少し目を見開く。それは威力に対してか、アキハの狙いに対してか。どちらであれ、そのロレイの表情と一瞬の隙をアキハは見逃すことなく、射線をあげ、再び水弾を放つ。それも連射。確実に仕留めるつもりの連射だ。
「チッ!」
無数の水弾は触れる度に破裂し、ロレイの肉体を破壊していく。辛うじて頸は守っているが、状況は見てわかるほどの防戦一方。
あのロレイがアキハに追い込まれている。
(ここまでやって動かないってことは、周りの死徒はロレイの指示でしか動けないようですね)
呆然としている死徒を傍目で確認しながらアキハは水弾を撃ち続ける。妙な違和感を抱いて。
(変......ですね......)
既に水弾は何百発以上も着弾し、破裂している。にも関わらずロレイは倒れないどころか距離すら開かない。
アキハの違和感は徐々に不安に変わり、距離を取ろうと片足を上げた時、破裂する水弾の中から空を切るを勢いで拳が飛んできた。
「ちょっ......くっ......!」
咄嗟に膜の水弾を放ったことで威力は緩和されたが勢いまでは止められず、アキハの身体は吹き飛ばされ背後の樹木に直撃する。
「なんなんですか一体......」
頭を抑えながらアキハはゆっくりと立ち上がり殴られた方向を見る。そこにはほぼ無傷のロレイが立っていた。
「なんで無傷なんですか......」
「そりゃ死徒だから再生したんだよ」
「再生した?」
「いやぁ、焦った焦った。ほんとに死ぬかと思ったぜ......最初はな」
「最初は? ちょっと意味がわからないので説明してもらっていいですか?」
「単純な話だ。触れた瞬間爆発する水の弾丸、確かに強力だが威力はない。だから防御と再生に徹してればやられることはない」
「火力不足とことですか」
「そういうことだ。あとは、そうだな。一度見た技は二度も通用しないんだよ」
敗因とでも言いたげに得意げに語るロレイは再び拳を向ける。アキハも銃を構えるが動きは鈍く、引き金を引くよりも速くロレイは懐へ飛び込み、アキハの腹部に張り手を放つ。
咄嗟に銃を盾にするが、勢いは止まらず再び吹き飛ばされ地面に転がる。
「痛っ......ほんと、女子に暴力振るうなんて酷いですね!」
愚痴を言いながらも起き上がり間際に水弾を放つ。だが、ロレイは異能力で防ぐだけで特に気にする様子もない。
「命を奪い合い場で男も女も関係ないだろ」
「......確かにその通りですね」
正論を口にしながら近づくロレイにアキハは逃げるように後ずさる。
「ついでなんだが、あの水解いてくれないか? 解いてくれると無駄にお前を痛み付けずに済むからよ。なんなら、解いてから逃げるのも別にいいぜ? その二人さえ手に入れば十分だからな。お前は見逃してや......話は最後まで聞けよ」
「聞いて意味ある話なら聞きますけど、それは聞いて意味無い話ですので」
ロレイの提案を遮りアキハは水弾を放つ。
アキハに、アルトとミアを見捨てる選択肢はなかった。
「死んでも解きませんよ。その二人は絶対に守りますから」
「......その覚悟だけは認めてやるよ」
悪足掻きにすら見えるアキハの姿をロレイは拍手を送り、その上で、と拳を構える。
アキハも構えようと立ち上がるが足に力が入らず倒れてしまう。
「ここまでですか......」
「安心しろ。お前の力は優秀だからな、死徒して貰えるよう交渉しといてやるよ!!」
「ッ!」
恐怖から思わず目を瞑るアキハにロレイは容赦なく拳を振るう。しかし、その拳はアキハに当たることはなかった。ただ代わりに、冷たい空気が顔を撫でた。
恐る恐る目を開くとそこには、一人の男が刀でロレイの拳を受け止めていた。
「てめぇ、誰の妹に手ぇ出してやがる......!」




