79話 最悪の始まり
その惨状に俺は頭を抱えた。
何が起きた? 何故こうなった? 他のみんなは無事か? 拠点は大丈夫なのか?
辺りを見渡す度に俺の小さな脳みそからいくつもの不安と疑問が湧き出てくる。
ほんの、ほんの一分前までは何でもなかった。遠征が始まり、チームごとにそれぞれ調査していた。だが突然、震度の強い地震が起きたと思ったら次の瞬間には景色が一変していた。
木々は倒れ、地面は割れるなり、盛り上がるなりして明らかに地形が変わっていた。
隣にいたはずの人はそこにはおらず、代わりに別のチームの人がその地形の変化に巻き込まれ死んでいた。
俺の、せいで......。
『おいバカ、いつまで座り込んでるつもりだ。そろそろ動け。このままずっと留まってたら何が起こるかわかんねぇぞ』
「アルト......」
『馬鹿か、お前もアルトだろ。シャキッとしろ。まだ遠征は始まったばかりだろ。それとも、今のうちから変わっとくか?』
みっともない姿の俺を見兼ねたのだろう。あいつの喝に応えるようにゆっくりと立ち上がる。
『それでいい。変に気負うんじゃねぇぞ』
「ああ、助かった。ありがとな」
無惨な姿となった仲間に一瞥して歩き出す。
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歩き出したはいいもののこれからどうするか。
拠点に戻りたくてもちゃんと戻れるか不安だ。そもそもここがどこかすら分からない。
地形が変わった以上この地図もほぼ無意味だろう。
『とりあえず東を目指せよ』
頭を抱え悩んでいるとあいつがそんな提案をしてきた。何故に東?
『太陽は東から登ってくるんだ。死徒と遭遇する率も減るだろうし、生存率も上がるだろ。それに最悪誰とも合流できず、拠点に付けなかったとしても東洋の学園には戻れるはずだ』
「なるほど、確かにそうだな」
手を叩いて納得する。
空を見上げ月の傾きを確認し、提案通り俺は東へ向かって歩き出す。
歩き出して少しした時、少し先で死徒と戦う人影を見つけた。
死徒の数はかなりいる。対して戦っているのは二人だけだった。すぐに加勢しようと踏み込んだがその必要はなかった。
その影は何十体もいた死徒をあっという間に倒してしまった。その姿は思わず見入ってしまうほど。
戦い終え、ナイフをしまうその影に俺はゆっくりと近ずき「さすがだな」と声をかける。
その影も俺に気づいたらしく優しげな笑顔を向け小さく手を振る。
「無事で何よりだよ。ミア」
「アルトも無事で良かった」
ミアと合流できたことに俺は胸を撫で下ろす。
本当に無事でよかった。
「あのー、私もいるんですけどー!」
俺とミアが話す横でもうひとつの影が不満そうな声を上げる。
「お前もいたのか、アキハ」
「いたのかじゃないですよ! 最初からいましたよ! あと目の前でイチャつかないで貰えます? すっごい不愉快です。というかミアに手出したら殺すって言いましたよね?」
「なんだよ過激派。別に手は出てないだろ......って、お前まじでやめろ。その銃しまえ! 無事合流できたのに死者を出そうとするな!!」
殺意高めのアキハとも合流し、三人で行動することになった。
「そういえばアキハ、カエデや他のチームの人はどうした?」
「アルト達と同じですよ。気づいたらみんなとはぐれていてどこにいるかわかりません。でもカエデは無事だと思いますよ」
「随分と信頼してるんだな。まあ、俺も無事だと思うけど」
「それはもちろんパートナーですから。カエデの実力は認めてますし、相応の信頼はしてます」
パートナーとアキハ誇らしく言った。
「エルモアもついでにヒュウガも、無事だといいな」
「ヒュウガは別にどうでもいいですけど、エルモアもカザミも皆無事ですよ。だからきっと合流出来ます」
こんな悲惨な状況をでありながらアキハはいつもと変わらない笑顔を言う。それはきっと希望的観測とかではなく、根本からカエデたちのことを信じているのだろう。そういう明るさは周りにも伝染する。実際俺も最初の時より気が楽になった。本当にこの二人と合流出来て良かったと思う。
「ありがとな」
自然と口から漏れた言葉にアキハは驚いたように目を見開いている。
「え、なんです? 本命が目の前にいるのに私のこと口説くんですか? 何企んでるんですか?」
「酷いなお前。別に深い意味はないよ。普通にありがたく感じてそれを口にしただけだろ。めんどくさい方に考えるな」
「何ですかめんどくさいとは! こんな可愛い女の子にめんどくさいは失礼ですよ!」
「自分で可愛いとか言うのかよ」
「それはもちろん言いますよ! アピール大事です。私可愛い! まあミアしか眼中にない男にはわからないでしょうけど!」
「お前ほんとめんどくさいな。ミア、お前からも言ってやってくれ。うるさいぞって」
面倒くささのあまり逃げるようにミアの方へ話題を振ると彼女は手を出して止まるように俺達に指示した。そして一瞬だけこちらに視線をやり、再び森へ戻すと奥を見つめながら声を潜めて呟いた。
「死徒が居る。それもすごい数。そしてその中に......」
「会いたかったぜ! アルト!」
ミアの声を遮るように視線の先にいるそいつは崖の上から高らかに声を上げた。
「ロレイ!!」
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ロレイとその周りにいる何体もの死徒。それを見てから状況の把握に時間は要らず、俺は刀に手を添えいつでも抜刀できるよう構える。
ミアとアキハもそれぞれの武器を持ち臨戦態勢に入る。
「殺る気満々だなぁ。でも少し待ってよ。殺る前にまず俺の先輩を紹介させてくれ」
「先輩?」
「死徒としての先輩だよ。先輩、どうぞ」
ロレイの合図とともに死徒の群れの中から出てきたのはバイオリンを持った髪の長い女の死徒。その死徒が何故先輩と呼ばれるのかそうだろう理由は見てすぐに理解した。
「異死徒拾伍段、第参段......!!」
手の甲に書かれたその数字は今まで出会った異死徒拾伍段の中で最も高い順位。必然と全身に緊張が走る。そしてそれはミアも同じようで、ミアは少し震え.....ながら参段を見て......いた?
「ミア? どうした?」
敵を前に警戒することも忘れ、俺はミアの元に寄り声をかける。
恐らくミアのこの震えは恐怖からだろう、ただそれが強さに対する恐怖じゃないように感じた。強さじゃない、また別の何かに対する恐怖。例えばトラウマとか。
(トラウマ? まさか......)
もう一度確認するように参段を見るとその姿は、その手に持つバイオリンは、前に一度ミアが話してた死徒とそっくり、いやほとんど同じだった。
どうやら俺と同じことに気づいたらしいアキハが目を見開いていた。
「なあアキハ、まさかあの死徒って......」
「はい。私もアルトと同じことを思ってました」
この状況でミアに聞く勇気は俺にはなく、逃げるようにアキハに聞いた。我ながら情けない。
アキハはいつもの口調で、それでも声を震わせながら答える。
「あれは多分、ミアがロレイを殺した時に会ったという死徒だと思います」
「そうよ。久しぶりね、仲間殺しの絶殺さん」
アキハに言葉に続いて参段は答えを合わせるように言った。
「そして、これは私からのプレゼントだ」
唖然とする俺達を無視して参段はバイオリンを弾く。
音のない演奏。
耳で聞き取れてる感覚はないのにその音色は確かに伝わる。その綺麗な音色は恐怖も緊張も警戒心も全てすり抜けて直接脳に届くようなだった。
「ご清聴いただきありがとうございました。では、私はこれで。ロレイ、あとは任せるよ」
演奏が終わると参段は静かに森の中へ姿を消した。
俺はそれをただ呆然と見ていた。俺の意識は空白にあった。ナイフが頬を掠めるその瞬間まで。
「ッ!!」
当たらなかったのは偶然か意図的かそんなことはどうでもいいと思えるほど最悪な状況を、意識がはっきりした今理解する。その最悪ぶりに俺は「くそっ!」と愚痴を吐き捨てる。
起こってしまった最悪。
ミアが、俺達に向けてナイフを突き立てていた。
そしてこの最悪を崖の上から見下ろすロレイが楽しそうに呟いた。
「最悪は再び起こる。さあ、今度はお前らの番だ」
去年の誕生日61話を書いて現在79話。あまりの進んでなさにびっくりした論です。
全然書いてないじゃんって思ったけどノベプラも書き始めたじゃん!と納得した論です。
本当に更新久しぶりです。お待たせしました。




