77話 アルトの質問
『おい、ヒュウガ! ヒュウガはいるか!』
鬼の形相でヒュウガの名を叫びながら向かったのは俺、ではなく俺と入れ替わったあいつだった。
「うるせぇな、なんだよ。雑魚が帰ってきてかと思えば、中身は雑魚じゃないもう一人の方で、いやそれはどうでもいいか、で、何をキレてやがる? 」
優雅に紅茶を啜っていたヒュウガは俺達を見て状況を理解するはいつもの不機嫌そうな口調で聞いた。それに対し、あいつはいつもの何倍もイラついた様子で怒鳴るように答えた。
『お前、あの怪物はなんだ! お前はあれのことを知っててオレらに行かせたのか! お前は一体、どこまで知ってやがる!!』
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俺がキメラの倒したのとほぼ同時かミアとハヤテが部屋から出てきたのは。
「よ、丁度だったな」
「丁度って......えっ、もしかしてアルト、キメラ倒したの?」
俺と、俺の後ろで倒れるキメラの死体を見てハヤテが驚いた顔で言った。その様子に俺は少々不満げに聞く。
「なんだよ、俺が倒しちゃおかしいか?」
「いや、純粋にすごいなって思って......時間稼ぎって話だったのに......さすが、ミアさんの認めたパートナーだね」
「まあ、な......」
素直に褒められたことにこそばゆさを感じながら俺はミアの方に視線を向け軽く笑って見せた。それに気づいたミアが返すように「お疲れ様」と微笑んだ。
「さてと、一応僕らの依頼はこれで最低限は終わったことになるけど、どうする?」
「どうするとは?」
手に持つ資料の束を見せながらハヤテが俺とミアを交互に見て提案する。すると突然、隣にいたミアが険しい表情を浮かべ、少し強ばった口調で言った。
「今すぐ帰った方がいい。このまま居たら、多分危ない」
「危ないって何がだ?」
「どうかしたんですか?」
ミアの言葉の意味がわからず俺とハヤテが頭に首を傾げているとミアが真っ暗なトンネルの奥を指した。
ミアの指先を追うようにトンネルの奥を見るが微妙に見えない。暗すぎるのか、それともミアの感じているものが遠いのかあるいはどちらもか、見えにくいからと少し近づいて見ると、ミアが俺の手を掴み止めた。
「駄目。あれに近づくのは、良くない」
「と言われても、この距離で確認出来ないんだからそんな心配することでもないんじゃないか?」
「いや、やめた方がいいね。あれは、危険すぎる」
俺がミアの手を優しく離しながら言うと今度はハヤテが俺の手首を掴んで止めた。
どうやらハヤテも確認できたらしい。なら尚更俺も確認ぐらいはしておきたい。あいつではないが俺だけ知らないというのはやはり気に入らない。
俺はハヤテの手を振り払い、トンネルの奥をもう一度目を凝らして見る。だがやはり見えない。しょうがないからと一歩前へ出た時、何かが、俺の足を止めた。同時に俺は視認する。二人が危険と言っていた存在を確認する。
「あれはさすがに無理だな、二人とも、帰ろう」
そう提案したのは俺以上にあいつがあれの危険性を強く感じていたからだ。
気づかれる前に帰ろう。と言いハヤテはポチを呼び寄せた。
「何もしてこないね」
「おいやめろ、それフラグってやつだ」
そんなあからさま過ぎる台詞を吐いたのは、ポチが俺達を乗せ飛ぼうとした時だった。直後、トンネルの奥から何かがかなりの速度でこちらに向かって飛んできた。
「フラグ回収早えぇよ!!」
「僕のせいにしないでくれるかな?!」
上で掴み合い騒ぐ俺らを気にせずポチは風を切って飛んでくる何かを躱しながら出口へ進む。主人と違ってよく出来た鳥だ。
「あれはキメラの死体......死体?」
自分達の通ってきた道、またはトンネルの奥を確認するように目を向けたハヤテが何か気づいたようだった。
「どうかしたのか?」
「......奥にいるあれが投げてきてるのがキメラの死体ってことしかわからない」
「それだけ分かれば十分だと思うんだが?」
「僕と君とじゃ考えつくことが違うみたいだね」
「喧嘩売ってるなら買うぞ?」
静かになったと思えばまた騒ぎ出す。そんな俺らにミアがやれやれとため息を吐いてるのを横目で捉えながらハヤテの掴み合っていると、いつの間にか外へと出ていた。
「ポチ早っ! 優秀かよ」
「優秀だよ。僕のポチは」
「お前のポチわな」
「......喧嘩売ってるなら買うけど?」
「二人とも、そろそろやめて」
また掴み合い出した俺らをミアが呆れた様子で静止した。睨むような視線には少し恐怖と罪悪感を感じた。すみません。
それと同時に外へ出た時から投擲が止んでることにも気づいた。確認するようにトンネルへと視線を向けるが当たり前のようにその姿は見えなくなっていた。
奥のあれにとってはあくまでも俺らを外へ逃がさないための妨害と言うだけで、逃げたら逃げた出来にすることでもない。その程度の事だったのだろう。俺としても逃げきれたのならそれで良いので深くは考えない。
それから数分飛び続けていると最初に俺達を連れてきた馬車と合流し、依頼は終了。いくつかの情報と多くの疑問を残して東洋へと帰還した。
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そして今へと至る。
『お前は、あの怪物がいるのを知っててオレらに依頼したのか?』
「怪物......ってことはあれとあったのか」
『やっぱ知ってたんだな......てめぇ、一体どういうつもり......』
「ちょっといいか?」
今にも掴みかかりそうな勢いで怒鳴るあいつを止めるように俺は入れ替わる。
「ヒュウガ、いくつか聞きたいことがある答えはイエスかノー。明確な理由があるならそれで答えてもらいたい」
「ノー」
「早い早い。そうじゃない。俺が質問してからな?」
「うるせぇな、早くしろよ」
お前がふざけるからだろ。喉まで出かかった台詞を何とか飲み込み、冷静を保って質問する。
「じゃあまず」
「その前に、お前が質問して俺が答えるのはいいが、俺が嘘をつく可能性とか考えてねぇのか? せめて質問前にその対策の一つや二つ用意しろ」
「嘘つくつもりなのかよ。いやまあ、それは最初に思ったことだし、対策はさりげなくさせてもらうつもりだったけど、お前が言うならあからさまにさせてもらうわ」
そう言って俺は部屋の外にいた彼女を中へ招いた。
「嘘発見役のミアです」
「ミアさん、そこふざけるとこじゃないよ?」
「ふざけたつもりはないよ?」
「素かよ。それはそれでなんだが?」
ナチュナルにボケるミアに少し驚きながら俺は隣に引き寄せる。その様子を見てヒュウガは「なるほどな」と納得がいったように頷いた。
「絶殺の耳なら外に居ても聞こえる上、感情も読み取れる。確かに嘘発見役には最適だな。雑魚のくせによく考えたものだ」
俺の考えを代弁したヒュウガは満足したのか、「質問どうぞ」と手を前に出した。
「気を取り直してまず、お前はあのトンネルにキメラとそれ以上化け物がいるのを知ってて俺らに依頼したんだよな? 事前にそのことを話さなかった理由はあるのか?」
「......それはイエスかノーで答えればいい質問なのか?」
「理由があるかをどうかを聞きたい。出来ればその理由も答えてもらいたい」
「......お前らに混乱させないため、また内容を聞いて依頼を断られると困るからだ。困る理由は代わりを見つけるのがめんどくさい」
ヒュウガは少し悩んでから真面目に答えた。最後の方はいつものふざけた様子だったが、俺はそれを「質問次第ではある程度真面目には答えてくれる」と勝手に解釈し次の質問へと移る。
ちなみにミアの方を見て嘘をついてないか聞いたところ「多分ついてない」との事。多分かぁ......。
「二つ目の質問だ。お前が事前に知ってたキメラと化け物の情報、それはお前が話せないと一点張りしてる情報源からのものか?」
「イエス。その通りだ。俺の持つ情報源からキメラとキマイラの存在について事前に聞き、お前らに依頼した」
「キマイラ?」
「お前らが化け物だの怪物だの読んでる奴の呼称だ」
「......お前、ほんとにどこまで知ってるんだ?」
「どこまでだろうな」
化け物の呼称を知っているとなると、流石にヒュウガのことを信じ難くなる。その上情報源など大事なところは決して言わないのだから尚更。
(だから確かめる必要があるんだろ)
自分で自分に言い聞かせる。
「ちなみにミア、どう?」
「大丈夫だと思う」
「そうか」
俺はミアの方に顔を近づけ結果を聞く。ミアも俺を真似てか顔を寄せて答える。
大丈夫だと思う、か......。
俺は一度深呼吸をして三つ目の質問をする。
「次だ。ヒュウガ、お前の持つ情報の源は学園長からか?」
声が上擦ったような気がした。多分気のせいだろう。ただ、そんな気がしたと思うほど、そんなことを気にするほど自分が緊張しているのがわかった。
「どうしてそう思う?」
さっきとは一転した雰囲気でヒュウガは聞き返した。背中辺りに嫌な汗が流れるのを感じる。ヒュウガの視線が少し怖い。殺気とかそういうのじゃなく、変な期待をされてるような視線が怒ってる時とかよりも何倍も恐怖を感じる。だから俺は、俺の考えを正直に口にした。
「単純にお前が俺らに次の遠征でのことを話したあの時に、あの場に居た人物以外で色んなことを知ってそうなのが学園長だと思ったからだ」
「......そうか。質問の答えだが、どちらとも言えるだ」
俺の回答を聞いたヒュウガは少し安堵したように顔を下げ、そのまま俺の質問に曖昧な答えを出した。
「どちらとも言える? どういう意味だ?」
「悪いがそこまでは語れない。それと俺はもう行く。依頼ありがとな、報酬は今度ジャッツを通して渡す。じゃあな」
それだけを言い残し、ヒュウガはカップに入った紅茶を一気に飲み干してはどこか焦った様子で足早に部屋を出て行った。
微妙な空気と共に残された俺とミアは顔を見合せ首を傾げるしかなかった。
(あの焦り具合、何か地雷でも踏んだのか?)
疑問を晴らすための質問のはずが、結果はそれ以上の疑問を生むことになった。
そして俺達は、その疑問を抱えたまま遠征を迎えることになる。
最後の部分をちょっぴり改稿。ついでに、次回はこのまま遠征に入ります。




