76話 怒りと恐怖
またこっちで更新。やっぱ続き書くの楽しいですね。
ハヤテの怒りに思わず黙り込んでしまった俺は覚えた恐怖を飲み込み、いつものように話し出す。
「......それで、動物の命を弄ぶ実験? って結局なんなんだよ」
平成を装ったつもりだったがまだ恐怖は飲み切れておらず言葉の端々が震えていた。それを見たハヤテが「ごめんね」と笑いながら謝る。
情けない。
未だ恐怖を拭えない事も、ハヤテに気を遣わせた事も、あまりの自分の情けなさに腹が立つほど。
「いや、大丈夫」
何が「大丈夫」なのか自分でもわからないが、俺は苛立ちを隠すように「大丈夫」を貫いた。ハヤテもそれ以上追求することはなく、俺の質問に答えるためかパソコンへと視線を戻す。
その様子を追うように見ていると、隣に立つミアが服の袖を掴み不満そうな顔を向けていた。
「アルト......それは......」
「キャアアアア!!」
ミアが何か言おうとした時、外で待機しているポチが声を上げた。
何事かと声のした方へ振り返るとそこには既に走り出していたハヤテの姿があった。ミアも少し遅れて走り出す。状況が掴めず取り残された俺は「何かあった」とそれだけを把握し二人を追いかけた。
入口まであまり距離がなかったおかげですぐに追いつくことが出来た。到着した俺を見て呆れるような、それでいて確かに苛立ちを含んだ声で言った。
「説明する手間が省けたよ。アルト、あれがキメラだ」
ハヤテがトンネルの奥を指し、俺はそこへ視線を合わせる。そして認識する。そこにいる異様な姿のそれを。
「なんだ、あれ」
熊の顔をしながら体はゴリラのようにも見える。肩や腕には亀の甲羅のようなものが付いている。
その姿をみてようやく、ハヤテの怒りの理由を理解する。
動物の命を弄ぶ糞実験。その結果があれならば普段温厚なハヤテが怒るのも頷ける。何より俺自身も怒りで気が狂いそうだった。歯止めがなければすぐに斬りかかっていただろう。
そう歯止めがいなければ。
「ハヤテ、この部屋の資料で持って行ける重要な資料とかある?」
ミアが唐突に呟いた。驚いて振り返るとミアはポチを宥めるように優しく撫でている。
「二人の怒りは音でよくわかる。その気持ちを私は否定しない。尊重したいと思う」
ミアは優しげな声で微笑むように話す。
「でも、その怒りをぶつけるのは今じゃない。私達は依頼で今ここに来てる。怒りをぶつけるのは、悲しみを救うのは次ここに来る時すること」
だから今は今必要なことをしろとミアはそう言って俺らの怒りを沈めた。いや、怒り自体はまだある。ただ冷静になれたのは確かでミアのおかげだ。
ハヤテも少し気が楽になったのかミアに「ありがとう」といつもの穏やかな声で言った。
「あの部屋にある資料だけど、全部を運び出すのは多分無理だね。何よりパソコンに関してはそもそもコードがどこに繋がってるか分からないし、データを移行するハードディスクも今は持ってないからここに置いていくしかないね」
「じゃあパソコンに書かれた内容をどっかの紙に書き写して持ってくか?」
「そうだね。ただわざわざ全文は書かなくていいよ。重要な、それこそキメラに関する情報だけでいい。他はその都度必要なのを言うよ」
「了解。じゃあ、俺はお前らが終わるまで時間稼ぎしてるよ」
いつからかは知らないが、ポチが声をあげた時点でだろうか、キメラは既にこちらのことを視認しており、ハヤテが指示をしている間もゆっくりと近づいてきていた。それに気づいた俺は時間稼ぎを買ってでた。
まあ、それをいえば当然、
「時間稼ぎなら私がやる。アルトはハヤテと一緒に資料を回収して」
表情も口調も普段とさほど変わらない。ただそれでもミアか焦っているのがわかった。その事に思わず笑いがこぼれる。
「何笑ってるの?」
ミアが不思議そうに首を傾げている。俺は笑いを堪えるようにして答える。
「いやごめんごめん。なんっていうか、わかりやすいなって思って」
「わかりやすい? 私が?」
「うん、ミアが」
パートナーになって様々なことに直面にして、それなりにミアが今何を考えてるかわかるようになってきだと思う。今も、ミアがどれだけ俺の事を心配してるのかなんとなくわかる。その事が面白くて、嬉しかった。
「大丈夫だよミア」
だから何より、俺はミアを安心させたかった。
「心配されるほど俺は弱いままじゃねぇよ」
仲間として、パートナーとして任せて欲しかった。頼って欲しかった。
俺は俺の気持ちをミアへと伝える。
「まあ、ついでに言えばただのストレス発散なんだけどな」
ちょっぴりの強がりも込めて。
「......」
少しの沈黙を得て、ミアは納得したかのように口を開く。
「わかった。アルト、任せるね」
「おう、任せとけ」
俺はその言葉が聞きたかったと短く相槌を打ち、軽く手を振って、キメラの方へと向き直る。ミアも同じように隣のハヤテに「行こう」と声をかけ背中を向けた。
「頑張れ」
不意に掛けられた言葉に俺は思わず振り返った。
その一言に対する嬉しさと共に込み上げてくる感情に俺は顔を覆う。
(折角カッコつけたのに......はぁ......)
深くため息を吐くが、今の気分を乱さないよう余計な事は考えず、ただ答えるように一言だけを残して走り出した。
「行ってくる」
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「ここから先は通さねぇよ」
キメラの元に到着した俺はすぐさま抜刀の構えをとる。決して威嚇していたという訳ではないが、見えていない訳でもないはずだ。しかしキメラは俺が目の前で構えたにも関わらず歩みを止めず進み続ける。
平然と間合いに入ってくるものだから「知性がないのか?」と疑うがそれも一瞬。俺は構わず刀を抜いた。
「影斬り!!」
縮地を用いた最速の抜刀。しかしそれはキメラに届くことなく、ギリギリのところで避けられた。
「さすがに知性はあるか、じゃあ、舐められてるってことか?」
勝手に解釈し、少し苛立ちを覚えるがそれも今に始まったことじゃないと技を重ねる。
「影陰乱舞、葉月、巻き陰」
キメラとの空いた距離を影を巻き取り詰め、
「如月、影突!」
最速の突きをキメラの中心に打ち込む。がしかし、俺の刀はキメラの体を貫通することなく防がれた。
自分の体と接触する刀を見て初めて自分が攻撃されてることに気づいたのか、キメラは刀を折ろうと横から腕を振る。俺はそれを避けるとついでに顎に向かって振り上げた。
「皐月、影翔流転!」
手を抜いてるつもりはない。だとしてもこれはどういうことだろうか。
勢いよく振り上げた俺の刀はキメラの顔を弾くだけで明確なダメージにはなっていなかった。キメラも少し後ずさるだけでケロッとしている。
「影陰乱舞、長月、二重の影!」
再び斬りかかるがキメラは避けることを一切せず、ただ受け続けては当たり前のように佇む。
火力不足を感じた俺はリセットせず普通にアイツと入れ替わる。
『陰斬り!!』
入れ替わって早々アイツはキメラの頸に斬りかかるがこれも膝を少し曲げる程度であまり効いてない様子だった。
「異常な硬さ、か」
何度も斬り続けて感じた違和感はまさにそれだった。
死徒の肉体はある程度硬い。個人差はあれ、異死徒拾伍段レベルであれば単なる刃物では傷一つつかない。ここまで硬いのは異常だ。だがこの硬さがキメラの実験結果の一つだとしたら、
「これを倒せなきゃ俺は戦力外ってか、上等だっつーの!」
アイツと入れ替わり俺は再び斬りかかる。
だが普通に斬りかかったところで傷が付かないことはわかっている。じゃあ普通じゃなければいいのか、俺は試すように刀を振るう。
「影斬り!」
「!?」
試した甲斐があった。というか俺にはこれしかないので試すのは当然なのだが、その過程やら理由やらは今はどうでもいいだろう。大事なのは効いたかどうかだ。そして最初にも言った通り試した甲斐があった。
腕の影を斬られたキメラは切断とまではいかなかったが、傷が付き血を吹き出したことに呻き声をあげる。
今ので危機感を覚えたのか、今度ははっきりと殺意を持って反撃してきた。
拳を振りかざし、思いっきり俺へ向けて叩きつける。俺はそれを最小の動きで避け、同時に脚の影を斬る。体制を崩したところでさらに「長月、二重の影」で追い打ちをかける。
ダメージを受けすぎたのかキメラはわかりやすく後ずさった。
明らかな優勢。アイツがいるとはいえ俺だけの力でキメラをここまで追い詰められているのは我ながらすごいと思う。だが、喜んでばかりもいられない。確かに影を斬れば傷をつけることが出来るが切断まではいかない。それは決定打がない、ということだ。
「さて、どうするか」
俺は構えを崩さず傷の再生をするキメラを見据えながら考える。
ただ時間を稼ぐだけなら決定打の必要性はあまりないだろう。だがそれでは意味がない。時間稼ぎは確かに目的だがさっきも口にしたように、ここにもう一度来た時、キメラ一体倒せない状況では戦力にはならない。
俺とアイツが俺一人でキメラを倒さなければならない。これは時間を稼ぐ以上に重要なことだ。
「どうするか......」
改めて俺は今の状況にため息を吐く。
(答えは出てる。ただ、なぁ......)
手段としては答えは出ている。あれに頼るのも別にいいだろう。だが俺としてはあれには極力頼らずいきたい。慣れたとはいえデメリットはデカいし、ロレイやヒュウガのような格上相手じゃなきゃ本領は発揮されない。それこそ体力の無駄遣いだ。だから
「眼は使わない。代わりにお前の力を借りるぞアルト」
呟くと同時に俺は斬りかかる。動き出した俺を見てキメラも反応するように拳を突き出した。俺はそれを刀を使って受け流し腹部の影を斬る。
血を吐きながら後ずさるキメラに追い打ちをかけるべく俺は一歩踏み込む。すると俺の動きと全く同じタイミングでキメラも踏み込み拳を振りかざした。それも偶然ではなく狙ったような、一瞬だけ見えたが腹の傷も既に無くなっていた。さっきの動作も演技ということだろうか。
(なるほど、こいつ学習するのか)
キメラの動きから一つ、至極当たり前なことを理解する。見た目から、その在り方から、一番に否定した可能性が今更になって否定出来ない事実として俺の裏をかき、この状況を作り出した。
「だからなんだよ」
拳が当たる直前で俺は小さく息を吐く、よりも早く、アイツは俺と入れ替わり、ありえない状態から足を止め、体を回して刀をぶつけてキメラの右腕を弾いた。
その力強さはまるでさっきの俺の呟きに応えるように見えた。それはさすがに自意識過剰な気のせいか。
『無限月華・陰刃』
キメラの右腕を弾いたアイツは流れるように横腹に強烈な一撃を叩き込んだ。かと思えば俺とのチェンジを利用し右脚、左肩、右肩、そして胴体に『無限月華・陰刃』を連続で叩き込んだ。文字通り無限月華か。
これには思わずかキメラも膝を折る。
それを見てアイツは「あとは任せる」と俺と入れ替わった。
俺は一度刀を鞘に納め、抜刀の構えを取る。キメラの前でこんなにも大胆なことが出来るのはアイツがキメラが動けなくなるほどダメージを与えてくれたお陰だ。それでも殺しきれないタフさにも感心するが。
「お前らがどんなにすげぇ学習能力を持っていようと関係ない。俺らにはお前らの学習能力を上回る知識と技術とその他諸々があるんだ。お前らがどういう意図で作られたか知らないけどよ、人間舐めんよ......」
言い終えると同時に俺は一歩踏み込み、刀を抜く。そして、
「影の技、境地、影斬り!!」
一瞬を超える速さでキメラの頸を斬り落とした。
どうも、動物の鳴き声をどう書こうかで一週間くらい悩んだ論です。
前回ポチが登場した時は鳴き声書かずに済んだんですが今回はそうも行かず、どう書けば良いか色んな人の作品を読んで参考にしたのですが、なかなか納得いくものがなく、妥協策としてあれにしました。良さげなの考えられたらそっちに変えます。
それはそうと、今回キメラの話が本格的に出てきましたが、実は過去にも一回キメラが出てきてるんですよ。名称はキメラではありませんが見た目とか似た表現をしているので探せばすぐ分かると思います。
では今回はここら辺で、ありがとうございました。また次回お会いしましょう。




