73話 ハヤテの過去
ハヤテが少し嬉しそうな表情で語り出す。
「自慢じゃないけど、僕は自分はそれなりに裕福な家庭にいたと思ってる」
「お前、それを自慢と言わないでなんていうんだよ」
「茶々入れないで聞いてくれるかな?」
舐め腐ったことを言うハヤテにツッコミを入れると本人は不愉快そうな顔でこちらを睨み、それからまた話し出した。
「僕のお父さんは学者でお母さんもとても優しい人だった。夫婦仲睦まじく、その子供の僕もそれなりに裕福で幸せな暮らしをしていたと思うよ」
「いつまで自慢話してんだよ。メインの内容話せよ」
「話には順序ってもんがあるんだよ?」
ハヤテがより不愉快そうに言った。
「そんなある日、僕が十二歳の時だね。偶然、お父さんが知らないおじさんと街を出ていくのを見掛けたんだ。当時は別に何も思わなかったんだけど、日が経つにつれて街を出る回数は増え、帰りも遅くなった。帰らない日もあった。お母さんも段々心配しだして、気になった僕はお父さんの後を付けたんだ。そしてたら......」
「そしたら? どうしたんだ?」
ハヤテの表情が一気に暗くなった。
まるで、どうにもならない最悪に打ちのめされた時の絶望ような。
「僕のお父さんともう一人の知らないおじさんがあの廃道でいくつもの動物達を切って、繋げて......殺してた」
いや違う。今のハヤテの表情は、信頼してた奴に裏切られた時の絶望だ。
「お父さんもお母さんのように優しい人だった。笑顔が柔らかくて、三人でいる時は特に楽しそうだった。研究熱心で、僕にとって尊敬出来る立派な人だった。けど、あの時のそんな姿を微塵も感じさせない。殺戮を楽しむ、まるで悪魔のようだった」
話を聞けば聞くほどハヤテの感じた絶望がよくわかる。「辛い」などの簡単な言葉で済ましていいものじゃないと。
「お父さんと目が合った僕は恐怖でその場から逃げ出した。そこから森の中を訳も分からず走り回って、疲れた僕は足を止めて、目から離れないあの光景に嘆いたよ。その嘆きが誰に届くこともなかったけど」
ハヤテは呆れたように苦笑する。お世辞にも笑えるものじゃないが。
「散々泣き喚いた僕は日が沈むのを見て、あれは夢だ。幻だ。何かの間違いだ。って自分に言いつけて街に帰った。街に帰ればいつもの幸せな時間が戻ってくると思った」
ハヤテがこちらを、憐れむような瞳で。
「でもねアルト、最悪の絶望ってのはとことん人の心を追い詰めるものなんだよ」
涙を流し、呟いた。
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「街に戻った時には既に遅くて、お父さんの仕業か、それとも偶然か街は無数の死徒に襲われてた。遠くから見て一瞬でわかったよ。この街はもう助からないって騎士の人や他の異能力者が抵抗してたけどそれは間に合ってなくて、僕の家を含めた多くの家が死徒によって潰されていて、お母さんも力なく死徒に殺されてた」
家を壊され、父親にも裏切られ、果てには母親も殺された。それはつまり。
「帰る場所が無くなったのか」
「うんそうだね。その日、その瞬間から僕の帰る場所は無くなった」
帰る場所が無くなった。それがどんなに辛いことか嫌なほどわかる。
......だからオレは。
「それから何を考えたか僕はお父さんのいた廃道に行った。お父さんはいなかったけど、代わりに弱り切った巨大な鳥がいたんだ。それが」
「ポチか」
「うんそうなんだけど、そうなんだけど、今の台詞は取らないで欲しかったなぁ」
ハヤテが恨めしそうにオレを睨んだ。お前この話だけで何回こいつを睨むんだよ。
『いや今のはお前が悪い』
ハヤテの肩を持つように話を聞いてたらしいアイツが言った。
実際聞こえていないが。
ハヤテは気にせず話を続ける。
「ついでに自分の異能力がなんなのかわかったのもその時なんだよね」
「その時」
「傷だらけのポチが僕に訴えたんだ。死にたくない! 助けてくれ! って。実際に声が聞こえた訳じゃなくて直接頭に届いた感じだったけど、確かにポチは僕に助けを求めてた」
「じゃあお前の異能力は......」
「みんなは動物を操る異能力とか言ってるけど、それは違う。僕の異能力は動物の声を聞き、思いを共有出来る異能力なんだ」
声を聞き、思いを共有出来る。実に便利な力だと思うが、ハヤテ自身はそう思っていないらしい。
「ポチの声を聞いた僕はポチを助けることにした。まあ人じゃなくても傷ついてる誰かを見捨てることなんで出来ないよ」
「くそ優しいやつだな」
「それは褒めてるの?」
「好きなように捉えてくれ。それより、話を続けろ」
変に話を広げられても面倒なので話を続けるよう促す。
「ポチとはそれからずっと一緒でね。いろんな村や街を転々としてた。死徒にもよく襲われた。戦わないで逃げたけど。そして去年、偶然遠征に来てた学園に拾われた」
「で、今に至るか」
「うん」
ハヤテは話を終えるとどこか疲れたように落胆し、顔をうつ伏せた。
この学園にいるやつは誰しもが辛い過去を持ってるいだろう。ハヤテは特にかもしれない。
(ハヤテはオレと同じ)
「僕は愛する家族に幸せな日々を壊された。裏切られた。周りの人間全員が悪人に見えるほど疑心暗鬼になった。信じられるのはポチだけだと思ってた」
突然、ハヤテが顔を上げ、真っ直ぐな目でこちらを見つめ話し出す。
「でも、ここのみんなは違う。みんなはちゃんと僕らを信じてくれる。僕らに優しく寄り添ってくれる。みんないい人達だよ」
さっきまでの絶望していた瞳は何処へ、今のハヤテの瞳は希望に満ちている。
「君の過去に何があったかわからないけど、僕以上に人に裏切られたかもしれないけど、僕以上に絶望したかもしれないけど」
ハヤテがオレの肩を掴み必死の表情で言った。
「もう一度、他の誰かを信じて欲しい。君を信頼する彼らを信じて欲しい。君を仲間と言うヒュウガさんを信じて欲しい!」
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(ほんとに、さっきまでの絶望はどこに行ったんだか。オレを説得するための迫真の演技か。それなら一本取られたな)
内心呆れるように関心し、オレはそっとハヤテの手を退ける。
「オレはお前の苦労わかってやることは出来ない。だがある程度共感は出来る。オレも同じような絶望をあの世界で何度も味わったからな」
幸せをの壊されるとか裏切られるとかそういうレベルではないが、死にたくなるほど絶望した。けど、死にたくなかった。
......だからオレは、この世界に逃げてき|た。
「オレは、お前も、絶殺も含めて、自分以外の誰も信じてない。自分のことを何も話さず、ただ協力してくれと言うヒュウガもだ」
簡単に信じて生きていけるほど世界は甘くできないと知ってるからだ。
だがそれ以上に、
「オレ一人じゃ前に進めないことも知ってる。散々立ち止まったからな」
アイツの手を借りても、オレの体はひとつしかない。ひとつの体じゃ踏み出す一歩もたかが知れてる。
......だからオレは、一人じゃない世界に来たんだ。
「信じろ。はオレには無理だ。けど、もう一度だけ話を聞いてやる。ヒュウガの言葉に耳を傾けてやる。そこで協力するか決める。オレじゃないアイツが信じるか信じないかを決める」
オレはハヤテに向かって言い放つ。
そして振替り、学園に向かって歩き出した。
今回は予告通りハヤテの過去回です。
結構考えましたねぇ...
キャラ過去の中で特に凝ったキャラの一人ですね。
そりゃ一週間近く掛かりますよ。
一応まだ出てきませんけど一番凝ってるのはヒュウガです。ヒュウガの過去については最低でも2章終わってからですね。
では今回はこの辺で、さようなら〜




