62話 影陰対氷
花粉よ...滅せよ...
「これより、アルト・シャドウ対ヒュウガ・サキリの決戦を行います!」
歓声が消え会場は一気に静まり返る。
緊張感の滞る中、秘書の人が高らかに声を挙げる。
「では...始め!!」
その瞬間、俺とヒュウガの戦いは始まった。
------------------------
先手必勝。
毎度の事ながら俺の初手の動きはこれだ。
これしかないと言われればそうなのだが、それでも俺はこの動きを強いと信じてる。
だから一歩踏み込む。が、
「ッ影斬り!!」
俺は前に出ることなく刀を引き抜いた。
そして俺は目の前にやってきた巨大な氷を斬り落とす。
「さすがに反応するか...まあ今のでやられるくらいならここに立つ資格はねぇよな」
俺の縮地よりも早くヒュウガは先制をした。
その後もヒュウガの氷による猛攻は続く。
何度も斬り落としてはいるが防戦一方だ。
対してヒュウガは清々しい顔で最初の位置から一歩も動ず、刀すら抜かずに氷を作り出している。
それもただひたすらに出しているのではない。
俺が前に一歩出ようとすれば氷は足を狙って飛んでくる。
横に飛べば飛んだ先に氷を作くり出す。
完全に俺の動きを封じるように出している。
非常に戦いにくい。
それだけじゃない。作り出される氷も固い。
今は影を斬ることで何とかなっているが、逆に言えば影を斬ってなければそれだけでやられていた可能性もあるということだ。
一瞬も気を抜けない。
甘く見ていた訳じゃないが対面してみて改めて痛感させられる。
能力的にも戦略的にも格上だと。
「やっぱ強いなお前...」
「そりゃどうも」
「でも、強いからって負ける気はねぇよ!」
俺は刀を納め走り出す。飛んでくる氷を最小の動きで避ける。
流石に全てとは行かず擦ることもあるが俺が足を止めることはない。
流血すら気にとめず走り続ける。
そうして行くうちに俺とヒュウガの距離は五メートルくらいになった。
そこで俺は縮地を使ってさらに距離を詰め、間合いに入った瞬間刀を抜く。
「影斬り!!」
しかし俺の刀はヒュウガまで届くことはなかった。
ヒュウガは俺との少ない距離の間に氷を生み出し攻撃を逸らしたのだ。
「折角近づいたのに、残念だったな...」
さらに氷を斬った先には俺に狙いを定める三本の氷柱があった。恐らくさっきの氷の後ろに隠しておいたのだろう。俺が斬ったと同時に攻撃するために。そしてその氷は案の定俺に向かって飛んできた。
刀は振り切っており、避けることも斬ることも出来ない。文字通り絶体絶命。だからこそ俺はアイツと入れ替わった。
動きをリセットするために。
『陰斬り!!』
------------------------
氷柱は斬り落としたオレは力強く一歩を踏み込みヒュウガの頭上から刀を振り下ろすが、ヒュウガは氷柱に反応したことも、そこから攻撃してきたことにも驚いておらず落ち着いた様子で刀を抜き受け止めた。
「それが入れ替わりか...おもしれえじゃん!」
ヒュウガに押し返され折角詰めた距離が開いてしまう。
だがそんなことよりもオレは余裕ぶるヒュウガに言ってやった。
「刀、抜かせたぜ...」
「は?」
ヒュウガはオレの発言に間の抜けた反応をし、そして自分の手にある刀をみて楽しそうに笑った。
「あはは、確かに、抜かないとは言ってないが抜くつもりもなかった。まさか抜かされるとはな...謝罪するぜ。お前のこと見くびってた」
だろうな。見てる側でも遊ばれてるとわかった。
「癪だがお前の強さを認める。編入したてとは比べ物にならないくらい強くなったな。だから俺も...」
ヒュウガの雰囲気が変わった。空気が揺れるのを感じる。
「本気で行かせてもらうぜ」
そう言った次の瞬間ヒュウガの姿は消えた...と思えば、いつの間にか目の前に居て刀を振り下ろしていた。
咄嗟に後ろに飛んで避けるもヒュウガは刀を振り下ろしたと同時に氷の柱を作り出しこちらへ飛ばす。
氷の柱を斬り体勢を立て直す。
正面を向いて刀を構えるがそこにヒュウガの姿はない。
辺りを見回そうと後ろを向いた時ヒュウガが既に刀を突き出していた。
「っぶな!」
勢いよく刀を振ったことでなんとかヒュウガの刀を弾くことが出来たが、またすぐに刀を切り返してきた。
勢いよく振ったせいでこの攻撃を防げない。普通なら...
オレは小さく呼吸をする。
------------------------
入れ替わった俺はもう一度刀を振り、ヒュウガの刀を受け止める。
刀と刀がぶつかり合い、会場中に甲高い音が響く。
そんな中、ゆっくりとヒュウガが口を開く。
「なるほどな。お前の入れ替わり、タイミングによってはありえないところからの反応も出来るのか...すげぇな」
「そりゃどうも...」
滅多に褒めることのないヒュウガからすげぇ。と言われたことを少し嬉しさを感じながらも無愛想に相槌を打つ。
「お前も、まさか一回見ただけでチェンジとリセットの効果を理解するとはな...」
「チェンジとリセットってまんまじゃねぇか。ははは、まあシンプルでいいか」
お互いの刀が接触し合って距離が数センチもないこの状況ですらヒュウガにとっては余裕しかないのだろうか。
「別に余裕って訳じゃねぇぜ?ただこれくらいしないとお前の気が逸れないだろ?」
「...っ!?」
気がついた時には既に遅く、俺の体は動かなくなっていた。
(くそっ!やられた!)
ヒュウガは呑気に会話していたのではなく、会話することで気を逸らし、その間に接触していた刀と俺の足を凍らせていたのだ。
(いやでも、いくら話してて気が逸れたとはいえ全く気が付かないなんてことあるか?)
自分の足と刀が凍らせれていて気が付かないはずがない。なら何故?
『おい見ろ。ヒュウガの野郎お前だけじゃなく辺り全体を凍らせてやがった。地面がスケートリンクみたいになってやがる』
アイツが床を指して言う(実際に指してるかはわからないが多分指してる)
「まさかこれのせいで気が付かなかったのか?」
『恐らくな...さらに言えば会場の空気も極限まで冷めまして温度感覚狂わせてたんだろう。そしてそれを出来たのも...』
「擬似認識・氷世界...」
いつの間にかヒュウガの眼が白く染っている。
いつからか、もしかすれば最初からか、視たものを凍らせられる眼。ヒュウガはそれを使って俺を、この会場を氷の世界で包み込んだ。
だから普通なら気づくものも気が付かなかったと...
ここまで近づいているのにも関わらず相手の動きに、考えに気がつけなかった自分がものすごく恥ずかしく悔しい。
けれど今はそれ以上にヒュウガの策に対する徹底さに感服せざるを得ない。
あの眼まで使ったんだ。徹底的だ。
「さてこの状況、俺はお前に刀を振り下ろして終わりなんだが...ここからお前はどうする?」
馬鹿にしているのか、それとも試しているのか、
ヒュウガは早くトドメを刺せばいいものを刃を見せびらかして焦らす。
「まあ何も出来なきゃそれだけだ。つまらない終わりはゴメンだから何か出来るなら何かしてみてくれ!」
意外と早く痺れを切らしたヒュウガは勢いよく刀を振り下ろした。
「氷の技、境地...無限月華・氷刃!!」
丁寧に技を掛けて。
俺の事を試しているようで詰めもしっかりしている。抜かりない奴だ。
体はほとんど動かせず、チェンジも使えないこの状況で俺はヒュウガ聞こえるようはっきりと呟いた。
「影斬り...」
敢えて微妙な終わり方。これがいい!と思いました論です。
二章始まって最初がアルト対ヒュウガってのもあれですが、あと二話くらい続きます。




