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ディフェレンター  作者: 論です
1章 東洋編
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60話 ただのミア

緊張する。

普段はこういう緊張はないけれど、今回だけは緊張する。

理由はわかってる。

少しでも答え方を間違えれば私の居場所が無くなるからだ。

私の...絶殺としての居場所が...


「絶殺の私...」


今の私はなんなんだろう...今の私は...


------------------------


扉を叩き中へ入るとそこには、険しい表情でこちらを見つめる学園長がいた。

雰囲気と学園長から聞こえる音でいつになく不機嫌なのがわかる。


「おはようミア君」

「おはようございます学園長」


このやり取りですら空気が重い。それに声のトーンもいつもより低い。

顔色一つ変えずにただ低い声で話す学園長は少し怖く感じた。


「まずは依頼ご苦労。無事帰ってきた事はありがたいがアルト君(パートナー)が心配とはいえ報告が遅れるのは良くない。ましてや教員や生徒長の命令を無視してまでとは...」

「ごめんなさい」


学園長が言い終える前に私は頭を下げて謝罪した。

学園長はその様子にほんの少しだけ驚いた表情をして聞いた。


「何か訳があるのだろう?聞くとしよう」

「...私はアルトがなかなか目覚めなくて周りが見えなくなっていました。だから先生達の指示を無視して看病をし続けました。けど、これを言い訳にはしません」

「何故だい?」

「都合のいい言い訳にするために看病してた訳じゃないからです」


悪いことと自覚した上でそれを選んだのは私の意思だから...後悔はしていない。


「そうか...それなら構わない。ただし次からは一言言ってもらいたい。報告は他の人からも伝えられるが私は本人から聞いて安心したいからね」


学園長は優しく言った。その優しさはいつもと変わらなくて、いつもと変わらない温かさを感じた。

けれど学園長はすぐに表情を険しく戻し、次の話題へと移った。


「それはそうと、私は君が依頼に行く前になんと言ったかな?」

「アルト・シャドウ達との関わりが君の絶殺としての価値を下げるようなら、君がここに立つ理由はなくなる。と仰っていました」


学園長の質問に隣に立っていた秘書の人がすぐに答えた。

それを聞いた学園長は少し引き気味に「ありがとう...」と礼を言った。

秘書の人の反応の速さと記憶力には私も少しだけ引いた。

学園長は自分を落ち着かせるように手元のコーヒーを飲み、改めて話し出した。


「そうだ。私は君に学園の模範としての自覚が持てないようなら居場所はないと言った。理解のいい君なら私の期待に応えてくれると思っていた」

「はい」

「だが報告書によれば、異死徒拾伍段相手とはいえ遅れを取った。しかも、その尻拭いをアルト君がした」

「はい」


言われてみれば今回の依頼は自分一人では何も出来ていない。

アルトに迷惑をかけて、アルトに助けられて終わっている。


模範(絶殺)であるはずの君が他の者に一度の依頼で二度も助けられるとはあってはならない事だ」

「はい」

「...ミア君、君は少し緩みすぎてるようだね...」

「ッ!そんなつもりは...」

()()でない君に居場所はない」


学園長は睨むような鋭い視線を向けキッパリと言った。

私の居場所は無くなった。

いや私の居場所なんて最初からなかった。それを学園長が与えてくれただけ。

だから私の居場所は...


『ミアは俺のパートナーだから、ミアの居場所は俺の隣にある!』


以前、アルトに言われた言葉が頭をよぎった。

あの日聞いた時は慰めの言葉だと思ってた。でもアルトの()()()は慰めなんかじゃなく、ただ正直なアルトの思いを示してた。

あの時の優しいアルトの言葉は、今の私を勇気づけてくれる。


「うん...そうだね...」


私はこの場にいない彼に応えるように呟いた。

そして、顔を上げて、学園長に私の、()としての答えを口にする。


「私は...絶殺です。でも、絶殺である以前にアルトのパートナーです。みんなの仲間です」


アルトは言ってくれた。私の居場所になってくれる人はいるって。だから、


「私の居場所はもうあります。絶殺でも模範でもない...()()()ミア・ヴァイズ・レットの居場所はもうあります...」


最後口にした言葉は少し懐かしくて、その暖かさに口元を緩ませて言った。


「私はもう寂しくないです...()()()()...」


私は去るように部屋を出た。


------------------------


少し歩いた先で壁に寄りかかるカエデがいた。


「話は終わったのか?」


私はゆっくりと頷いた。

するとカエデは壁から背を離し、鋭い視線で聞いた。


「じゃあ聞くがヴァイズ・レット、今のお前はなんだ?」


それはあの日カエデが聞こうとしていたことと同じなんだろう。

けどあの日カエデは私の顔を見て「()()()()()か」と落胆していた。

あの時わからなかったカエデの考えも今ならわかる気がする。アルト()が答えをくれたから。


「私はただのミア...絶殺である以前の...()()()()()...」

「そうか...」


私の答えにカエデは納得したように頷いて横を通り過ぎた。


------------------------


去り際にカエデが「アルトなら食堂にいる」と言い残したので向かうとアルトだけでなくアキハやいつものみんながいた。


「あっミア!遅いじゃないですかー!何してたんですかー?」


アキハが私を見つけると不服そうに頬を膨らませる。


「ごめんアキハ...でもそんな遅くなってないと思う...」

「いえ遅いですよ!だってこんなにも勉強しちゃってたんですから!」


アキハが六割以上白いノートを誇ったように見せてくる。


「何言ってるの!アキハ、あなたまだ二問しか解いてないわよ!それも両方間違ってるし!」


そんなアキハにカザミが母親みたいに叱っている。


「そうだそうだ!もっと真面目にやれー!」

「アルトも人の事言えないよ。まだ四問しか解いてないんだから」


隣でアルトがここぞとばかりにアキハを罵しり、そのアルトに呆れたように諭すハヤテ。

そんな光景を見ていて思わず笑みが零れる。


(ああ...こんなにも優しい場所に私は居ていいんだ...)


「何やら吹っ切れたようで」

「エルモア...」


私が浸っているとエルモアがトレーを持ってやって来た。


「アルトも心配してたからどうかと思ったけど良かったよ。じゃあほれ、これ飲んでこのバカ共に勉強教えてやってくれ」


そう言ってエルモアはカップを置き座るよう促した。


「ありがと...んッ...」

カップを一口飲むとコーヒーとは思えない苦味が口の中に広がった。


(忘れてた...エルモアコーヒー入れるの下手だった...)


私の様子に気がついたのかカザミが「別のを淹れて来るわね」と席を立った。

勉強に飽きたのかアキハも伸びをしてカザミについて行った。

それを見てハヤテが「外の空気吸って来るよ」とエルモアと一緒に食堂を出た。

取り残された私はノートと睨み睨めっこするアルトの向かいに座った。


「ここはこうだよ...」

「おっ、おお!解けた!すげぇ!!」


私が教えるとアルトはすぐに問題を解き、嬉しそうに喜んでいる。

それから少し問題を解いていると区切りが着いたのかアルトが一度手を止めて短く呟いた。


「...大丈夫だったのか?」

「なにが...?」


咄嗟のことでなんの事かわからず聞き返してしまった。


「学園長と話したんだろ?依頼行く前の不機嫌そうだったのって学園長と話してからだったから...今回は大丈夫かなって」


アルトが心配そうな表情でこちらを見つめる。

先程まではなかった不安が顔に出ている。余程心配してくれてたらしい。

私はアルトを慰めるように答えた。


「大丈夫だったよ...学園長はどうかわからないけど...私は自分で納得いくこと言えたから...」

「そうか...ん?それってダメじゃね?」


アルトが疑問符を浮かべて自問自答している。

でも、アルトから不安の様子が消えていたので私はそれだけで良かった。


「アルト...ありがとう...」


私は微笑んで言った。


「おう...って何が?」


アルトは応えたのち間抜けそうに首を傾げた。


(アキハがアルトのことを鈍感と言っていたけど、もしかしたらこの事かもしれない...)


そんなアルトにもわかるように私は別の言い方をした。


「アルト...これからも、よろしくね...」


何かわかったのかアルトは笑顔で答えた。


「ああ、よろしく。ミア」


------------------------


「あの娘、学園長に対してふざけたことを...!」


ミアが退室した後の学園長室で秘書は怒りを露わにしていた。


「落ち着きたまえファスタ君」


秘書を静めるように学園長は口を開く。


「ですが!」

「構わないさ。彼女が成長するのも想定のうちさそれに...」

「それに?」

()の成長を見れるのは悪いものではない」


学園長はそれこそ、娘を見守る父親のような表情を浮かべていた。

それに不満を抱いたのか秘書は少し強い口調で言う。


「それは構いませんが学園長。あまり情を移しすぎるのはよろしくないかと...」


学園長は緩んだ表情を一瞬で引き締める。


「わかっているさ。それより計画の方は?」

「順調に進んでおります。あの男からも駒は動いたと...」

「そうか。ありがとう」

「いえ...」


秘書は学園長に感謝された事の嬉しさを少し頬を緩ませている。

この人も存外人のことを言えない。

そんな秘書を無視して学園長は背もたれに身を預ける。


「これで私の願いはようやく叶う...」


どこか、遥か先のどこかを見つめるよう学園長-ロード・ラスタ・エリックは呟いた。

これにて一章終わりです。次回から二章入ります!

一章最後くらい長く話したかったですがすみません。これで終わります。


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