58話 擬似認識・影世界
(何が起こっている?何が起きた?
全く反応出来なかった。というより、攻撃された事すらわからなかった。
確かにアルトは刀を振るったがそれは決して届くような距離じゃなかったし、実際にどこにも当たらず空振りだった。
でも、斬られた。腕を。知らぬ間に)
他に仲間...ヴァイズがいるのでは?と当たりを見渡すがそんな気配はない。
(じゃあ何が起きて...)
刀を振り下ろしたアルトが顔を上げる。その時の奴の瞳に俺は驚きを隠せなかった。
「アルト...お前、それ...なんだ?」
その瞳は金色でも紅色でもない。
ただ黒かった。
角膜はもちろん、結膜すら、まるで、影に覆われたかのように真っ黒に染まっている。
「一体何が起きている...」
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(本当に何が起きてんだろうね...いや、俺がやったことなんだけど)
俺自身、出来るのでは?と思ってやって見たが半分くらいは出来るって思ってなかった。
けど、出来た。出来てしまった。
そしてこの事に、ロレイも顔は見えないがアイツも驚いてるだろう。
ここはカッコつけるべきだと思った俺は声を低くし、それでも聞こえる音量で言った。
「影の技境地...擬似認識 ・影世界!!」
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俺の異能力は影を斬る事で効果を発揮する...正確には影に触れ、その影を通して影の元である本体に干渉する異能力だ。
逆を取れば、ロレイの言った通り条件が厳しい諸刃の剣だ。
影が無ければなんの意味もないし、俺自身影は作り出せず、ただ周囲の影を集めることくらいしか操作出来ない。
ポンコツもいいところだ。
けどそれは、見えるもの全てが影なら関係ない。
以前にも似たような事があった。
あの時は片目だけだったが、確かに周囲は全て影として見え、干渉できた。技を使えた。
そして、俺のこれに近い事を俺の目の前で、ヒュウガはやって見せた。
擬似認識・氷世界。
見るもの全てを氷として認識する能力。
俺が今やったのはそれオリジナル。あの時の完成版。
見るもの全てを影として認識する能力。
パクリと言われると人聞きの悪いので、応用と言わせてもらう。
アイツも同じことしたし、なんならアイツの方がパクリっぽいし。
ともかく、これにより俺は当たらない攻撃を当てられるようになったが、
「っ!」
俺は眼を抑えながら膝を着く。
この力はチート地味た能力をしているが、その分負担が大きい。
俺がやっているのは、普通に見える景色、光景を頭の中で影として置き換えている。誤認しているその上で影に干渉している。
ノーリスクなはずがない。
(長くは持たないな...)
制限時間付きの能力に緊張が走る。
「おいオレ、俺がぶっ倒れたあとは任せるぞ。最悪ミアに助け求めていいからな。まあそうならないよう頑張るんだけどっ!」
とりあえず最低限、自分の命が助かりそうな保障を掛けて俺は走り出す。
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俺が刀を振るえばロレイは当然避ける。が、どんなに距離を取っても、どんなに身を守ろうとも、空振りになろうとも影を通して攻撃は絶対に当たる。
やがてロレイは避ける事も身を守る事もやめ、傷を治す事と俺を攻撃する事だけに力を注ぐようになった。
そのためか、俺とロレイの攻防は次第に速度を増して行く。
同時に俺に掛かる負担も無視出来ない程にに強くなっていく。
眼と脳味噌のどちらもが焼けるような痛みに襲われる。
いつ倒れてもおかしくない。だから今は一秒...いや、瞬きをする一瞬すら惜しい。
一刻も早くこの戦いにケリをつけたい。
「何故、そこまでする?」
戦いの最中、ロレイは俺の攻撃を捌きながら口を開いた。
まだ余裕があるのだろうか。と思ったが奴の額にはかなりの量の汗が流れており、若干呼吸も荒い事から辛うじて話せてるレベルだろう。
「これ以上行けば取り返しのつかない事になる。ここで引けば互いに助かる。それはお前もわかってるはずだ!なのに、どうして戦う!どうしてそこまで身を削る。何がお前を!」
本当に辛うじてレベルかよと思いたくなる程の熱説。
それに俺はただ落ち着いて返した。
別に焦って返すとこっちが押されてる感あって気に食わないとかじゃないから。
「意地だよ」
「は?」
「お前に勝ちたいっていう意地が俺の体を動かすんだよ。ただ、取り返しのつかない事になるところまでやる気はない。俺には帰る場所がある。帰りを待ってるパートナーがいる」
「なら!」
「だから、俺は!お前を倒して帰りを待つミアの元に帰る!そのための欲張りな意地なんだよ!」
啖呵切っといてあれだが、正直に言えば楽したい。休みたい。アイツと入れ替わって後を任せたい。
けどアイツと入れ替われば多分この擬似認識・影世界は解除され、次の発動には時間が掛かると思う。
その時間さえあれば、ロレイは俺を殺す事も逃げ切る事も出来るだろう。
だから、引けない。引くわけにはいかない。
今ここで俺が奴を倒す!
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いくらこの眼で確実に攻撃が当たるとは言え、一度使った技のほとんどは見切られてる。
なら、奴の前で使った事のない技を使えばいい。
「影陰乱舞...神無月...後影傷!!」
俺の振るった刀は影を通して奴の腕を斬り裂く。
さらに、そのコンマ数秒遅れて俺が斬りつけた場所から新たな影の斬撃がロレイを襲う。
その斬撃により一撃目で切り離せなかったロレイの腕を落とすことが出来た。けれど、ロレイは一切の焦りを見せず一瞬で傷を治した。
(まだ、まだ足りない!)
俺はさらに踏み込み奴の懐へ入り腹部、太もも、二の腕を切り落とさない程度に斬りつける。
「影陰乱舞...霜月...結影!!」
次の瞬間斬りつけた部分を影が覆い固まり、ロレイの動きを鈍らせる。
「ちっ!」
これにはさすがのロレイも顔を歪ませる。
影で固められている以上いつもの俊敏で奇怪な動きは取れない。当然、俺もこの隙を見逃すつもりはない。
「影陰乱舞...長月...二重の影!!」
俺の振るう刀が影とともに二重の斬撃としてロレイの腹部を斬り裂く。
「ちっ!痛ってぇなぁ!」
ロレイが痛みに耐えきれず怒声をあげる。けれど傷はすぐに再生し、本当にダメージが入っているのか不安になる。自分だけ体力削ってるんじゃないかと思ってしまう。
それでも、俺の頑張りが無駄じゃないと言える瞬間はしっかりやってきた。
俺がこの眼を持って戦い出してから十分くらいだっただろうか、ロレイの腕を斬り落としたその時、少しだけ腕の再生が遅くなったように見えた。
限界が来たのだろう。
よく見れば動きも鈍くなっている。先程までのキレがない。
ただそれは俺も同じようで、
「あっ...ぶねっ!」
ロレイに攻撃をしようとした時、足から力が抜け倒れそうになった。なんとか刀を杖代わりにして持ち堪える。
幸いロレイとは少し距離をあったので追撃をされることがなかったが、いや今のロレイじゃ追撃する余裕もないのだろう。同じくらい限界が来てるのだから。
ゆっくりと体を起こすとロレイが腕を再生ながら話し出す。
「なぁ、ここらで終わりにしないか?お互いここで引いて...」
「ああそうだな。次でこの戦いも最後にするか」
ここで引く?寝言は寝て言えってんだ。
俺はロレイの持ちかけた交渉を最後まで聞くことなく断ち切る。
ロレイは俺の返事を聞いて「そうかよ」と呆れたように言った。
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ゆっくり深呼吸をする。
上がった息と焦り急いだ感情を落ち着かせる。
同時に集中力が高まったからか、眼に纏う影も濃くなったのを感じる。
「次で最後」
その言葉の重さを胸に抱え、俺は刀を構える。
そして、前回言えなかったあの台詞を口にする。
「さぁ、覚悟を決めな!」
言い終えると同時に俺は縮地で距離を詰め刀を振るう。
俺がこの場面で単純な動き取るのは俺に影を見る眼があっても変わらない。それはロレイもわかっていたらしく、タイミングを見計らって拳を突き出す。
よく見れば、もう片方の腕も構えている。
俺が避けたタイミングでもう片方の腕もつきだすつもりだ。
(本当に奴の化け物さには驚かされる)
俺は勢いを落とすことなく、けれど頸は狙わず迫り来る腕を斬り落とした。
同時にロレイのもう片方の腕がすぐそこまで来ていた。
ここから身を引いて避ける事は出来ない。だから俺は、影を踏んだ。
影とは明かりに照らされ、写し出された...言わば自分その者である。
本人が動けば影も動く。本人が傷を負えば影も同じ傷を負う。
逆も同じ。影が傷着けば本人も傷つく。影が踏まれれば...
「ぐっ!!」
本人も踏まれたような感覚に襲われる。そして、それは足場としても活用され、俺の体はロレイの拳を避けながら、跨ぐように飛び越えた。
やはり奴はバケモノだ。改めて、そして、今まで以上そう感じた。
俺がここまでやったのにも関わらず、ロレイは焦りひとつ見せず、俺の動きを追い掛けるように振り返り、拳を放つ。
空中では身動きを取れないからこの攻撃こそ避ける事は出来ない。
だから俺は、腕を先に斬ったのだ。
「ッ!?」
ロレイの拳を含めた四肢全ては俺に届く寸前で斬り落とされた。
ロレイは何をされたか理解出来ず目を見開く。
この時、初めてロレイは完全に無防備となった。俺はその頸を目掛けて刀を振るう。
「影の技境地...影斬り!!」
アルト覚醒!!




