53話 陰の境地
夜更かしはやめられない!
人間を強くするのは心の覚悟だ。
うちの自意識過剰馬鹿はユキナの質問を自分へのものだと捉えた。けれど、あれは違う。真実を見抜く目ってのは恐らくオレの存在を見抜いて、オレに質問した。
...オレも自意識過剰か?まあいいだろ。
あいつはユキナの質問に答えられなかったのは既に決まっていたからだ。既に決まっている覚悟を変える必要は無いからな。
あの日改めて決めたような顔してたけど、そんなことは無い。元々決まってた覚悟を再確認しただけの事だ。
じゃあオレは?オレの覚悟は?
以前のオレは覚悟なんてなくただ戦ってるだけで戦ってることに意味を...理由を求めていなかった。
結果、戦うことを諦めた。肉体的にも精神的にもオレは負けた。
だから影の世界に引き篭った。全てあいつに任せてオレは逃げた。
だが、あいつはどんなに打ちのめされても、どんなに傷ついても、諦めず立ち上がった。
オレよりも弱いはずのあいつがオレよりも前に立っている。
きっかけを与えたのはオレだが、それだけだ。
あいつはあいつの覚悟で境地に至った。
オレも同じように、オレ自身の覚悟を決めて、あいつと同じ立場に立って、戦うんだ。
あいつの生きるために戦うと。そう覚悟を決めていた。
オレの覚悟は...オレの戦う理由は...
「オレは、アルトの大切に思うものを守るために戦う!それがオレの覚悟だ!」
オレは境地に至った。
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「悪いな遅くなって...だが安心しろ。これでオレもお前も対等の立場だ。また一緒に戦えるぜ」
『お前...遅せぇよ。いつまで待たせてんだ馬鹿』
「うるせぇ。お前だって人のことよく待たせんだ文句言うな」
互いに互いを罵り合いながらオレはロレイに向き直る。
「さっきから何一人でブツブツ言ってやがる...というか、お前一体何をした?お前は何者だ?」
動揺からなのか、ロレイの発言には殺意が篭っていた。
先程まで余裕こいていたロレイはそこにはおらず、いるのはただ殺意を向けて立つ拾壱段のロレイだった。
立場が変わった。
オレは見下すように答えた。
「別に?ただのアルトだが?ああ...ただのアルトだ」
ロレイの表情から怒りが露となる。
馬鹿にされたのが余程気に触ったか...いや、アルトに馬鹿にされてるから腹が立つのだろう。
だからオレはさらに火に油を注ぐ。
「オレは絶殺のパートナーのアルトだ。お前と違って殺されることのない、強いパートナーだ」
そこまで煽るとロレイは無言で殴りかかってきた。
動きは速いがわざわざ見えてる攻撃に動じる必要もないので、オレは平然と腕を斬り落とす。
だがロレイもこの程度では引かず、体を回転させ蹴りを放つ。
(こいつ...焦ってんな...)
表情からその様子は読み取れた。
オレは蹴りを刀で受止め、そのまま足を伝いロレイのもう片方の腕を斬り落とし、お返しの蹴りを入れ突き放した。
一息着くかのようにロレイは動きを止め斬られた腕を再生させる。
優しいオレはロレイが傷を治すまで待つことにした。もちろん煽りの意味で。
「あっそうそう。戦う前にちゃんと決め台詞は言っとかないとな」
調子に乗り出したオレはついでにあの決め台詞を口にした。
「さあ、覚悟は決めろよ!」
『おい、それを俺の台詞なんだが!勝手に取るな!言う時くらい俺と代われ!』
すかさずあいつのツッコミが入る。
(うるせぇ...)
オレはあいつの文句を適当に流し、傷を治し終えたロレイに刀を向ける。
「おい馬鹿、今のオレなら一人でも勝てるかも知んねぇけど今は確実性が欲しい。お前の力ちゃんと借りるかんな。準備しとけよ」
『元引き籠もりが偉そうに...お前こそタイミング間違えんなよ!』
掛け声と共にオレはあいつと入れ替わり、縮地で距離を詰め、再びオレに入れ替わり刀を振るう。
反応の遅れたロレイは右腕を犠牲に距離を取る。
オレはすかさず入れ替わり、あいつは空いた距離を縮地で詰める。
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うまく体勢を整えられていないロレイに俺は自身の持つ最速の技を放つ。
「影陰乱舞如月...影突!!」
「ちっ!」
ロレイは刃が首に触れる寸前、もう片方の腕で刀を弾き防いだ。
その後ロレイは刀に重力を掛け、動きの止まった俺に体を回転させながら蹴りを放つ。
俺は小さく呼吸をし、合図を送る。
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(相変わらず悪い状況で入れ替えやがる)
再び入れ替わったオレはロレイの足が直前まで来ていたので一瞬だけ刀を離し、回し蹴りを避ける。がロレイの狙いはオレではなく刀の方だったらしく、回し蹴りの威力を落とさないままその足は刀へと向かっていった。
「せけぇな...けど、それは無駄だ!」
オレは足を伸ばし刀を蹴った。
勢いで重力の重りが外れ、刀はロレイの方へ飛んでいく。
だが、ロレイもその動きには反応出来たようで迎え撃つように足を止めない。
けれど、一瞬にしてロレイの澄ました表情が焦りへと変わった。
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「影の技境地...影斬り!!」
ロレイが刀ばかりに気を取られ、視界から俺の姿が外した瞬間、俺とアイツはまた入れ替わり縮地で刀まで距離を詰め、握ると同時にそのまま勢いに任せ技を放ったのだ。
その結果俺は見事ロレイの足を斬り落とした。
片足だけになったロレイは一度距離を取り離れる。
変に追撃するとカウンター喰らいそうだったので追うことはしない。
そしてロレイは一瞬の瞬きのうちに斬られた手と足を再生させた。
ただかなり不思議に思う。ここまで何度もロレイを斬っているというのに再生は一瞬。
普通傷を負えば負うほど再生能力は低下するはずなのにロレイは一切低下した様子を見せない。拾壱段だからだろうか。
...いや、明らかに異常だ。ヒュウガが拾段と戦った時は拾段の再生速度はここまで早くなかったし、再生能力も低下してた。だけどこいつは...
『余計な事は考えるな馬鹿』
頭を捻っているとアイツが止めに入った。
俺はそこで一度切り替える。
(そうだ。今は戦闘中だ。考えるのは後でもいい)
俺は準備万端となったロレイに刀を構え直す。
数秒の沈黙...そして、
ロレイが飛び、こちらに向かってくる。
俺も応戦するように縮地で距離を詰める。
互いが間合いに入った瞬間俺の刀とロレイの拳が激しくぶつかり合う。
ロレイが重力を掛けようとすれば俺はその腕と影を斬り技を封じる。
俺が刀を振るえばロレイは紙一重で回避する。
その攻防が続く中、ロレイの動きの変化に気づいた。
(こっちの入れ替わりに慣れてきた...か)
ロレイの動きが微妙なレベルではあるが俺とアイツの時とで違う。
完全にとは言わないが大体の俺とアイツの役割とタイミング理解したのだろう。
それに対応する動きをしてるのだろう。
なら、教えてやらなきゃな、それは勘違いだって事を。
一瞬の事だった。
俺が刀を横に振るとロレイはそれを体を逸らして避ける。
両手で刀を握り振ったため、俺の動きに大きな隙が生じた。ロレイはそれを見逃さず俺の腹部に拳を打ち込もうとする。
その瞬間、俺はアイツと入れ替わる。
普通ならばここで入れ替わるのは無意味と誰もが捉えるだろう。
恐らくロレイは俺とアイツの入れ替わりは、互いに足りないものを互いの特化したもので補い合うものだと思っている。実際間違いではないから否定はしない。
けれど、俺とアイツの入れ替わりにはそれだけではない。この入れ替わりにはもうひとつの理由がある。それは...
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入れ替わったオレは勢いに任せ振った腕を、踵を返すかのようにロレイの放とうとしている拳へ斬りかかった。
「ッ!?」
ロレイは予想外の動きに反応が遅れ、腕を斬られながら一度後退した。
ロレイは一連の動きが終わり離れた後でも驚いた様子で斬られた腕とオレを何度も交互に見ている。
それはそうだろう。何故なら普通じゃありえない動きをされたんだからな。
「お前...何をした...何故そこから動けた...」
隠しきれない動揺に言葉が途切れ途切れになっている。
正直ここまで驚かれるとは思ってなかったの今の状況がすごく面白い。実に愉快だ。
オレは小刻みに震え笑いを堪えるのが辛かった。
優しくないオレはネタをバラしてやらない。
未だ動揺しているロレイにオレは容赦なく刀を向ける。
そして一瞬だけ入れ替わり縮地で距離を詰め、刀を振るう。
ロレイは間一髪のところで避け、カウンターを放とうと腕を引く。
今のオレは刀を勢いよく振り下ろし足も浮いた状態で無防備だ。
だからオレは、ここでアイツと入れ替わる。
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入れ替わった俺は浮いた足を地面に踏み込み、振り下ろした刀の刃の向きを変え下から上へと引き上げた。
「影陰乱舞皐月...影翔流転!!」
刀はロレイの腕を斬り落とし、刃の先が片目を斬り裂いた。
咄嗟にロレイは地面を蹴って再び距離を取る。
「はぁはぁ...何が起きてんだ...」
ロレイは来るはずのない所と速度からの攻撃に先程以上に動揺している。
アイツが愉快と言っていたが、確かに愉快だ。面白い。
優しく戦略的な俺は敵に塩を送りたくないので言わない事にした。元より言うつもりもないが。
(俺達性格悪ぃな。まあ、いいか。どうせ俺達だし)
傷が治ったロレイに俺は縮地で距離を詰める。
逃げようと一歩下がるロレイの右脚をまず刀で斬る。
そして、足が再生するよりも速く入れ替わり、ありえない所からの動きでもう片方の左脚を斬る。
さらに入れ替わり、抵抗する手段を奪うために両腕を斬り落とす。
四肢が無くなり銅だけになったロレイを見て、アイツは俺に語り掛ける。
(とどめは俺が刺す。殺らせてくれ)
俺はそれを快く受け入れ替わった。
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入れ替わったオレは刀を構えながら陰から見ていたあの戦い...ヒュウガ対拾段の戦いを思い出していた。
(ヒュウガはあの戦い、オレ達に見せたいものがあって、学ばせたいものがあって敢えて時間を掛けて戦った)
事実、その戦いを見てオレはヒュウガの圧倒的な強さを前に感服した。
そして、その技も。
(ヒュウガがオレ達に学ばせないとものが何か全部をわかった訳じゃないが、オレなりに学んだものはある)
刀にありったけの影を纏わせを高く持ち上げる。
(オレはヒュウガの戦いから学んだ。この技で、オレの覚悟を持ってこいつを倒す!)
刃に纏う影がオレの意志と共にさらに多く大きくなる。
そして刀を勢いよく振り下ろし放つ。オレの技を!
「陰の技境地...無限月華・陰刃!!」
前と同じく後書き書く余裕ないんでなしで。
二回連続で申し訳ない次はちゃんと書きます。




