52話 影対拾壱
バイトのシフトが増えたこの頃。
疲れるかわりに稼げるからいいや。
「ミア大丈夫か?」
木に寄りかかるミアに俺は静かに声を掛ける。
「うん...大丈夫...」
ミアは弱りきった声で返した。
どう見ても大丈夫ではない。と言ってもこの様子は単に疲れてるだけと見ていい。
あいつと遭遇する前に四十体近くの死徒を倒し、その上で何キロもの重力を掛けられた。誰だってそこまでされれば疲れる。
ましてやミアの場合はそれだけじゃなかったようだし。
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縮地で距離を詰め影斬りで腕を斬る。
シンプルな動きだが幾度も練習した技なだけあって、異死徒拾伍段相手ですら面と向かっていながらも初見殺しの不意打ちとしてミアを助け出すことが出来る完成度だ。
まあ、動揺からか死徒の動きが一瞬鈍くなったからというのもある。
その後、俺は死徒が腕の痛みに悶えながら再生をしているうちにミアを抱え逃げ出し今に至る。
(けど、これで終わりじゃない...)
俺は取り残された死徒の方へ視線を向け立ち上がる。
腕を斬り落としたところで死徒は健在。放っておけばまた村を襲うかもしれない。
ミアに戦える余力はない。村への撤退はありえない。つまり俺一人で戦うことになる。
対面してた先程までにはなかった緊張感が今になって全身をめぐり出す。
(拾壱段を俺一人で...)
不安はある。けれど、俺は戦うことを選ぶ。
俺の抱える不安を口に出して一番困るのはミアだ。俺の不安一つでミアが今よりも辛くなるかもしれない。それだけはダメだ。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
(よし、落ち着いた。多分!)
なんとなく冷静に慣れたような気がする俺は一度ミアの方に向き直る。
「死徒が襲ってきたらすぐ呼んでくれ、秒速で駆けつける」
「アルトは...どうするの...?もしかして、ロレイと...?」
感情を聞き取れるミアは既に俺の考えを聞き取っていたらしく、より不安げな顔になった。
「今のアルトじゃ無理...私は大丈夫...だから...私が行く...」
お前も人の事言えないだろ。
俺は立ち上がろうとするミアを押さえつけて言う。
「そんなボロボロなパートナーに戦わせるほど俺は廃れてねぇよ」
一瞬でも不安にさせた俺は十分酷い奴だが...だからせめて...
「ミアは普段すげぇ活躍してんだ。たまには俺にもかっこいい所させろ。大丈夫。俺は負けねぇから。絶対帰ってくるから...」
軽いジョークを挟み俺は精一杯笑顔を取り繕い言う。
「行ってくる...」
止めようとするミアの声を無視し、俺は走り出した。
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とまぁ、カッコつけて飛び出した訳だけど...
「普通に怖ぇ!」
少し進んだ森の中、俺はミアもロレイと呼ばれていた死徒もいないところで不安と言うなの愚痴を零していた。
「怖いというより緊張なんだけど、いやだってさ、普通に考えてみ?俺、最後に一人で戦ったの拾肆段だよ?十四だよ?それもギリギリだったんだよ?拾壱段とか無理なんだけど!」
俺はみっともなく嘆いた。
『まったく...情けねぇ声あげるな馬鹿』
「!?!?!?」
耳のいいミアに聞かれたくないと極力小声で発していたはずの愚痴を誰かに拾われた。
「誰かと思えばお前かよ...まじでビックリさせんなよ...」
『勝手に驚いただけだろ。そんなことより、戦う前に弱音吐いてどうする!』
「え?」
え?何?
俺は驚いて足を止める。
拾伍段に負けてここ最近顔見せなかったあいつが急に俺の愚痴を拾っては説教し出した。
ものすごく解せない。
しかし、あいつはこちらの事など気にせず話を続ける。
『別に相手が拾肆だろが拾壱だろうが関係ねぇだろ。いつも通り戦って頸斬ればいいだけだろ』
いやいやいやそんな事言われてもな。
「拾参段の時はハヤテ居てほとんど有利の状態だったし、拾段はヒュウガが一人で戦って俺は見てただけだし。なんなら今回は元ミアのパートナーだろ?俺一人で勝てんのかよ」
自分で言っていて思ったが、あいつの言う通りかなり情けないことを言った気がする。
しかしこれは俺の本音だから偽ることは出来ない。そこは同じ俺である以上アイツも分かってるはず。
俺は返事を待っているとあいつは呆れたような溜息を吐き呟いた。
『お前はいつから一人なんだよ』
「は?」
どこを見て言ってやがる。俺が言おうとした時、あいつは俺と無理矢理入れ替わりはっきりと言った。
『お前にはいつも俺という名のお前がいるだろ!それを見て一体どこが一人なんだよ!』
異能力を通じて体を共有している。
例え外見は一人でも、俺達は一人じゃないのだと。
忘れていた。その変えようのない事実を。大切な真実を。
「悪ぃ。寝言ほざいてた。目覚めたわ」
再び入れ替わった俺はそうもう一人の俺に頭を下げた。
アイツはわかりゃいいんだよとでも言いだけに鼻を鳴らし笑った。
俺はロレイと戦う為にもう一度走り出した。
また、少し進んだところであいつが聞いてきた。
『お前、なんのために戦ってるんだ?』と。
ユキナが俺に聞いてきた質問だ。どういう意図で聞いてきたかはわからなかった。
俺は深く考えず、ただ思った事を答えた。
「生きるためだよ。死徒に対して憎しみはあるけど、それも生きてなきゃ出来ない。喜ぶも悲しむも生きててなんぼだ。だから俺は生きるために戦う」
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「よお、戻ってくると思っぜ。アルト」
あの場所に戻るとロレイは既に腕を再生させ待ち構えていた。
「なぁ、さっきの事だが、あれは冗談だよな?あの場にいるヴァイズのための冗談だろ?本当はお前だって...」
ロレイは若干狼狽えた様子で聞いた。
「馬鹿か」
冗談?笑わせんな。それこそ冗談だろ。
「俺は冗談が嫌いなんだ。だから良くも悪くも全部本気なんだよ。ミアに殺されないも、お前を倒すも全部本気なんだよ!」
言い終えると同時に俺は縮地で距離を詰め、刀を抜く。
(取った!)
俺の刀はロレイの頸を捉えた...しかし、その刃が頸に届くことは無かった。
俺の刀はロレイの頸元でふわりと浮いていた。思うように動かず、ただ無重力空間に飛び込んだかのように浮いていた。
「俺を倒すのも本気?いいねぇ...そういう無謀への挑戦嫌いじゃねぇよ」
ロレイは不敵に笑った。まるで嘲笑うかのように。
俺が否定した時の動揺はない。もう既に切り替えたというのか。
「だがな...そういう寝言は勝ってから言え!」
膝から下が一気に重くなる。
先程ミアに掛けていた重力を俺の足だけにピンポイントで掛けてきた。
刀は軽く、足は重く。ロレイは器用な異能力の使い方で俺の動きを止めた。
(くそっ...刀も足も全く動かねぇ...)
どんなに力を入れても動いて数ミリ、それも引き摺ってだ。
確かにこれは抗おうとするだけで体力が持ってかれる。
「無様だな!」
ロレイが足を引き、動けない俺の腹に勢いよく蹴りを入れた。
「くそっ!」
蹴りを入れると同時にロレイは俺に掛けていた重力全て解除する。その勢いで俺は後方の木へと叩きつけられた。
「くっ!っ痛てぇ...」
咄嗟に左手だけ刀を離し防御した事で威力は緩和されたがそれも微かなもの。骨折まではいかないがヒビは入っただろう。
俺は痛みを堪えながらなんとか立ち上がる。
「今ので実力の差はハッキリしたはずだ。お前じゃ勝てない。それなのにまだ立つかアルト」
「当たり前だ...勝つまで倒れねぇよ...」
ロレイの問い掛けに俺は息を整えながら答える。
「帰りを待ってるパートナーや仲間がいるんだ。負けられるわけねぇだろ...」
弱々しく後ろの木によっかかりながら、俺は刀を構える。
そんな俺を見てロレイは...やはり笑う。
「お前...ほんとおもしれぇよ...決めた。ヴァイズじゃなくてお前を連れてくことにするわ」
「連れてく?何処にだよ」
「あの方の場所だよ」
あの方。恐らく原初の死徒の事だろう。
「俺を連れてってどうするつもりだ?」
俺は刀を構えたままロレイの話を聞いた。
「あの方は強い異能力者を欲してる。自分の栄養にするためと部下につけるため」
とロレイは大層愉快そうに答えた。
「最近、立て続けに異死徒拾伍段がやられててあの方もご立腹でな。より強い異能力者が必要で学園に詳しい俺がここまで駆り出された訳だ」
ついでのような感覚でロレイは自分がここに来た経緯も話した。
「本当はヴァイズが良かったが、別にお前でも構わねぇだろ。世界とも繋がってるようだし?」
「世界と繋がる?なんの事だ?」
奴の奇妙な発言を指摘するとロレイはしまったみたいな顔をして口を押えた。
舐めてんのか?
「まあ、いい。とりあえずはお前を連れて帰る。詳しい話は死んだ後にでもしてやるよ!」
ロレイは話を途中で無理矢理に区切り、俺に近づいてきた。
目の前に来たところで俺は刀を振るう。
ロレイは避けるようにして一歩引く。それに詰めるように俺も一歩踏み込みもう一度刀を振るう。
「なっ!んだよ!その動き!」
俺の一振をロレイは上半身を逸らして避けた。そこからさらに、手を支えに、逆立ちをする勢いで両足で蹴ってきた。
ギリギリのところで身を捩って避ける。
それ以上追撃はなく、ロレイはそのまま器用に回転しながら立った。
(くそっ...身体能力バケモンかよ)
この距離をあの体勢から避け、さらに反撃を加える。並の死徒で出来る動きではない。
(身体能力もすげぇけど一番は...)
ロレイの足元を見ると地面が深くめり込んでいる。
恐らく自らの足に重力を掛け固定し、俺の攻撃を避け、その後足の重力を解除し蹴ったのだろう。
(異能力を防御にも使い、切り替えも早く、身体能力も化け物級。悔しいがさすがに拾壱段というだけあって強い)
俺がロレイの強さに感服していると、ロレイが再び距離を詰め攻撃を仕掛ける。
ロレイが軽くその場で飛ぶと自らを無重力に乗せているのか、延々と飛距離が伸び続ける。
そして、俺の真上辺まで来たところで一気に降下してきた。
俺は横に飛び躱す。しかしロレイは反撃どころか息づく暇も与えず、さらに攻撃を続ける。
飛んで俺との距離を詰めると、ロレイは体を回転させながらものすごい速さで蹴りを放つ。
(こいつの戦闘スタイルは何かの拳法か?イマイチ動きが読めねぇ...)
考えてる余裕はあまりないがロレイを倒す為にも動きをよく見て、少しの時間で頭を回す。
俺は咄嗟に後ろに下がって避けたが、ロレイは今だ宙にある自らの足に重力を掛け、地面に叩きつける。そして、それを軸の一歩としてさらに距離を詰める。
(こいつ!自分が死徒だから簡単に死なない。すぐに再生すると思ってこんな動きしてやがるな!)
雰囲気は人間臭いと思っていたが戦い方は全く持って違った。死徒として自らの肉体を受け入れた上で出来る戦い方。それは決して人間らしくはない。
だが、そんな戦い方でも事実俺に対して圧倒的な驚異を誇っている。
距離を詰めたロレイは引いていた左手を弾丸の如く撃ち放つ。
(避けることは出来るが、避けたところでまた距離を詰められて、追い討ち食らうだけ。それじゃ意味がねぇ!)
俺は下がろうとしていた一歩を前に踏み出した。
飛んでくるロレイの左手を俺は刀で正面から斬ろうとした。が、俺の刀は落ちた。と思えばすぐに勢いを取り戻し、下から打ち上がるようにロレイの左腕を斬った。
これにはロレイも予想外だったらしく、咄嗟に距離を取った。
ロレイの重力でもなく、俺の意思でもない動き。つまりこれは...
『代われ...』
胸の奥から声がすると俺の意識は肉体から離れ真っ暗な空間へと放り出された。
アイツが俺と入れ替わったのだ。
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入れ替わったオレは久々に動かす体の可動域を確認していた。
我ながら呑気だと思う。
そんなオレを見てロレイは不思議そうに首を傾げるがすぐに考えるのをやめたのか、再び距離詰めてきた。
先程のように飛んでオレとの距離を詰めようとする。がオレはロレイの足が浮いた瞬間を見計らい、前に飛び出て足を斬りつけた。
二度も攻撃を食らったことに動揺したからか、ロレイは一度攻撃の手をやめ聞いてきた。
「お前...何をした...?」
余裕がなくなったかのように声のトーンが低くなっていた。愉快な笑顔も消えている。
オレは奴の問いに「別に何も?」と馬鹿にするかの如く答えた。
「まあいい。どちらにせよ俺の方が上だ」
何か癇に障ったのかロレイは足を再生させると左手を前に突き出し構えを取った。
俺もロレイに対するように刀を納め抜刀術の構えを取る。
『おい!待て!』
俺とロレイが互いにタイミングを探っていると、先程引っ込めたアイツがうるさく話しかけてきた。
「なんだよ。今大事なとこなんだ」
『なんだよじゃねぇよ!お前!境地至ってないんだろ?そんなん状態でロレイに勝てんのかよ!代われ!俺がやる!』
あいつは出来もしないのに無理矢理オレと入れ替わろうとしてきた。
主導権はオレが握っていることを忘れているのだろう。馬鹿が。
ついでに言えばあいつはオレが境地に至ってないと思ってやがる。
「はぁ...お前は黙って見てろ。納得行ったら協力させてやる」
説明をめんどくさく感じたオレはそれだけ言い残し、あいつを無視する事にした。
律儀にオレ達のやり取りを黙って見ていたロレイに軽く一瞥し、再び構える。
そして一枚の木の葉が枯れ落ちた瞬間、ロレイは飛び、オレとの距離を詰める。
けれど、オレは動かない。
ロレイは右腕を引き、距離とタイミングを測っている。
オレは動かない。
オレの目の前で着地したと同時にロレイは構えていた右腕を勢いよく放つ。
そしてロレイ拳がオレに触れる寸前、オレは刀を抜いた。
「陰の技境地...陰斬り!!」
オレの刀はロレイの四肢を全て同時に斬り落とした。
更新遅くなってすみません。明日早いんで後書きは後日書きます。(もしかしたらかかないかも!書かなかったから無しってことで!ごめんなさい!)




