34話 影の境地
風邪ってそこまで大事する程でもなくね?と思い始めたこの頃。安心して下さい。重症です。
体が浮いてるような気がする。海の中にいる感じだ。影の海か。
浮遊した体がどんどん影の底に落ちていく。それでも、まだ底は見えない。
『深く、もっと深くだ。奥底に眠るお前の影の力を今!全部!引き出せ!』
アイツの声が届くと言う事はまだ浅いのだろう。俺は声が聞こえなくなるまで潜る。
やがて、辺り真っ暗な場所に足がつく。
恐らくここが影の海の最深。
そこに着いたと自覚した時、黒い何かが俺を覆った。
(これ、全てが影か...なんて大きいんだ...ん?あれは...?)
莫大な影を前に一つの男の影が現れた。
最初アイツかと思ったが違う。身長も体型も違う。そして何より、
(格が違う...俺なんかとは人としてのそもそもが違う。いや、これは人なのか?わからない。でも何か...)
明らかに自分とは別格の存在だと言うのに何故か、自分やアイツに近いものを感じた。
そしてその影の男は俺を指差し言った。
「継ぎ人よ...貴様に...理解出来るか...」
その瞬間、周りを覆っていた影が俺を喰らうように纏い付く。そして、俺の体の中へと入ってきた。
「ッ!!」
影は俺を引き裂くように体内で暴れ周る。
俺は自分の影でそれを抑える。
完全に抑え切れたわけではないが、影の動きは止まった。代わりに俺の頭の中に何かが映し出された。
恐らく影が見せているものだろう。
「これは...」
俺の言葉に答えるように影の男が言った。
「記憶と思想...貴様の歩む道...」
男が俺の言葉に反応した事に驚き、無意識に警戒態勢を取る。
男は動きには反応せず立ち尽くしたままだ。
(なんなんだあいつは...記憶?思想?俺の歩む道?訳がわからない。本当にそうなのか?)
俺は男の言葉に疑問を持っていた。何故なら、
「何も見えない。真っ黒な映像だ」
記憶と言ったからには誰かの記憶が見れると思った。しかし、そこには何もなく、ただ真っ黒な映像だった。
いつ終わるのか、そもそも始まっているのか、動いているのか、それすらわからない。ただ真っ黒なだけ。
この男が俺に何を見せたいのか俺にはわからなかった。
男は首を傾げる俺に奇妙なことを呟いた。
「何もを見えぬ継ぎ人よ...世界を見よ...」
次の瞬間、俺の影の海から引き上げられるかのように意識が戻った。
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『戻ったな。色々聞きたいが後回しだ。手順はさっき教えた通りだ。さあ、行け!』
アイツはそう言って俺の視線を目の前の球体に向ける。
気がつけば球体は目の前まで来ていた。
触れれば肉がえぐられるのはわかっていた。距離的にも避けられないことも。
だけど、不思議と冷静だった。
さっきまでの焦りが嘘かのように冷静だった。
俺はアイツに言われた通り影を使い果たす勢いで全て放出する。
一ミリも残さないように。
刀を鞘に納め、抜刀の構えを取る。
そのまま斬れば良かったのでは?後からそう思えるような動きだった。何故かはわからない。けど、本能がそうしろと言った。もしかしたらアイツが言っていたのかもしれない。
そして、俺は球体が間合いに入ったところで刀を抜く。
「影の技境地...影斬り...」
球体は俺を通り過ぎるように真っ二つに斬り裂かれた。
しかし刀は、刃は、球体には触れなかった。球体を斬らなかった。俺が斬ったものは...
カラキは声にならない声を出して驚いている。いや、カラキだけではないアイツもこの事を予想していなかったかのような反応をしている。
『ありえない...お前...』
「何をした!」
アイツの言葉を遮るようにカラキは荒々しく声を上げた。
「貴様...何をした!どうやって私の球体を斬った!...どうして斬れた...?」
俺は首を傾げながら自分の刀とカラキを交互に見、当然のように言った。
「別に...アイツに言われた通り用意して、ただ、直感で影を斬っただけだ」
『「直感で...影を斬った...?」』
そう。俺が斬ったのは球体ではない。影だ。ダイチと戦った時と同じように俺は影を斬った。
何故そうしようとしたかも言った通り直感だ。特に理由はなく、ただ、影を斬れば球体も斬れるそう感じただけだ。
それだけのことをアイツとカラキは何が起こったか理解できないように驚いている。
俺としてはそんなことより、自分があの土壇場で境地に入れて、未だにそれを維持できてることに驚きなんだが。特訓の成果か?
俺の疑問を無視してアイツは叫んだ。
『俺はそこまで教えてない!どうしてあの技が出来た!お前...影に潜った時何を見た...?』
「何って言われても...何も見てないんだよな」
『は?何も見てない?』
「ああ、真っ暗で真っ暗で何も見えなかった。影の男は記憶と思想。俺の歩み道だとかなんだか言ってたけど、さっぱりわからん!」
『影の男...記憶と思想...歩む道...』
思い当たる節があるのか、ブツブツと俺の言った単語を繰り返した。
そんな俺達のやりとりをぼーっと見ていたカラキが注意を引くように話し出した。
「何を一人で喋っている!貴様私を馬鹿にしているのか!」
球体を斬られた焦りからかカラキの口調が変わっていた。
お上品な言葉遣いは何処へ...
「たかが一回小さな球体を斬った態度で調子に乗るな!」
「とは言っても俺が斬った事は事実だし...それと別に調子には乗ってない。浮かれてるだけ」
「そこまで言うならいいだろう...私の持つ最強の技で貴様を跡形もなく殺してやる!」
カラキの掌から一つの球体が生まれる。そして、その球体はカラキが腕を広げるごとにゆっくりと大きくなっていく。
先とは比較にならない、下手すればこの森を半壊し兼ねないレベルの大きさだ。
「この球体、斬れるものなら斬ってみろ!避けても無駄だ!この球体は貴様を殺すまで延々と追いかけ続ける!」
「端から避ける気なんてねぇよ!」
俺が避ければそれだけ被害が大きくなる。それに、俺の背後の方向にはミアがいる。ミアなら避けられるかもしれないが、それでも迷惑は掛けられない。心配はさせられない。
俺の覚悟はより一層固くなる。
そして、その意思を込め、改めて俺はあの台詞を言う。
「さぁ、覚悟を決めな!」
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カラキは巨大な球体を放つ。
大きさに反して速度はそれなりに速い。追いかけてくるとのことだから、雑に良ければそれだけで致命傷になるだろう。
俺は刀を納め、先と同じように抜刀を構える。
俺は球体が間合いに入るまで待った。
多分この時の俺はかなり集中してたのだろう。
何か叫んでいるアイツの声が一切聞こえなかったのだから。代わりに球体ははっきり見えた。
(そう言えば影の海的なところから戻ってからか、見えないはずの球体が見えるようになった。境地の影響だろうか...それにしては真っ黒な球体だ)
そんなことを考えながらも、俺の集中力は高まって行く。
そして、時は来た。
球体が間合いに入った瞬間、俺は刀を抜き真っ黒な球体の影を斬る。
「影の技境地...影斬り!」
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そこからは音もなく事が進んだ。
俺の刀は巨大な球体を斬り、そのまま縮地で距離を詰めカラキの頸を斬った。
断末魔も悲鳴を何も聞こえないまま、カラキの頸は地面に落ち、そして跡形もなく灰のように消えた。
俺はカラキのいた場所に一瞥し、その場から離れた。
境地は異能力を解いたところで既に境地の域に達していれば弱くなる事はないらしい。
それにより、俺は改めてに境地に至った事を自覚した。そして、走った。ミアの元へ。
やがて、森を抜けたところでミアを見つける。
ミアも俺に気がついたらしく、こちらに駆け寄って来た。
ミアのマントに返り血が大量についてるのを見るとかなりの数の死徒と戦ったのだろう。それでも無傷なのはさすがと言うべきか。
ミアの安全を確認できた途端、先ほどまで感じていなかった痛みが今頃になって込み上げてきた。
思わず膝をついてしまう。カッコ悪い。
ミアも心配そうにこちらに声をかける。しかし、集中力が切れたからか、はたまた安心し切っているからか、ミアの声が全く聞こえない。
聞こえないけど、俺は言う。痛みに耐えながら、今作れる笑顔を向けて、俺の帰りを待ち望んでいた相手に言う。
「ただいま...ミア」と。
それを聞いたミアは泣き出しそうな表情を無理やり笑顔に変え返した。
「お帰り...アルト...」
貯金と規則正しい生活の出来ないリヴァイ論です。風邪は寝不足から来るのはわかるんですけど、逆に財布の中の偉人達はどこへ行ってしまうのでしょう。お金をもらえた時は感動的でも消えるのは一瞬。
収入とはあっけないものなのです。
さて今回は!とうとう!ようやく!やっと!アルト君が境地に至りました!イェーイ!
本当にとうとうですよ。ようやくですよ。やっとですよ。書き始めた当初からここまで考えてあって、どうやってここまで繋げようか模索して、長くなりながらもここまで来ました。いやぁ長かった。もうちょっと短く出来たかもしれないけど、それは後の祭りです。関係ないです。なんかこれだけ見ると最終回の後書きみたいになってるなあ。まあいいや。実際終わりじゃないですし。今回で二人の依頼は一旦終わり、学園に帰って日常回を入れます。ただその後は...本編をご期待下さい。
最後までご愛読ありがとうございます。次回も是非見て下さい。




