2話 生きる死体
結構余裕が出来たんで何日かかけて長くしようと思います。
刃物がぶつかり合う音が村中に響き渡る。
片方は刀、もう片方は鋭く磨かれた爪、どちらもただの凶器であり相手を殺すための道具である故に今起きているのはどちらが生き残るかの戦い。
家族の無事を知らされ冷静になった。俺は初戦闘でありながら思うように体が動いていた。
「はあぁぁぁッ!」
「があッ!」
俺の刀が死徒の脇腹を斬り裂く。
かなりのダメージに死徒は腹を抱えながら後退する。
死徒は頸を斬られるか日光を当てる以外で死ぬ事は無い。逆に言えば腕や脚を斬られた所で個体差はあれすぐに再生する。
確かに今の一撃は大きいが、それもすぐに治るだろう。だが、死徒の再生能力とて無限ではない。限度がある。そしてその限度は傷や力を使う度に下がっていく。
今の俺の一撃に苦しみ悶えている様子を見るとそこまで再生は早くない個体だ。
なかなか傷の治らない死徒は背を向け走り出した。
「逃げるが勝ち!」
「逃がさねぇよ!」
死徒の再生能力は限度があると言ったが、その限度は決して下がるだけではない。
死徒にとっての好物は人の血である。それを取り込めば再生、身体能力は格段と上がる。
死徒は狙いはそれだろう。
「クソッ! 道がわかんねぇ!」
と言いつつ、死徒は慣れた足取りで進む。余程この村のことを知っているのだろう。
そんな死徒に俺は一言。
「そんな演技する必要ねぇぞ」
「何?」
「お前に逃げ場なんてねぇからよ!」
先回りしたバレバレの演技を指摘し、大きく刀を振る。
しかし、間一髪の所で頸を曲げて避けられた。
「あっぶねぇな! オラァ!」
「チッ!」
攻撃後の無防備な瞬間を死徒は見逃さず俺の事を蹴り飛ばす。そのため死徒と俺とに少しの距離が出来る。その一瞬で死徒は角を曲がりその場を逃げ切った。
「クソッ! 逃げられた!」
俺は村全体を把握している。しているからこそ今死徒が曲がった角には行かせたくなかった。
何故ならあの角は外の町の外へ繋がる道なのだから。
(でも本当に逃げたのか?)
俺の頭の中でいくつかの疑問が浮かんでいた。
(仮にあいつが村を把握してるとして、何故あそこから逃げた? 道中にだって何ヶ所も外へ繋がる道はあったのに?)
俺は死徒を追っている最中、何度も外へ繋がる道を確認しておりそこを進まれないように、進まれてもいいように常に構えていた。しかし死徒はその道を一切使わずこの角を曲がった。
(あいつはかなり傷を負っている。あいつの再生速度じゃ少なくとも今晩中に快復するのは難しいだろう)
これまでの死徒の言動から俺は別の可能性を考えた。
(もし逃げるつもりじゃなかったら? もしここを外へ繋がる道と知らなかったら? もし最初から俺を殺すつもりしかなかったら?)
死徒の逃げた角を見つめながらアルトはあることを思いつく。
(まさか! ......だとしたら......あー、くそっ!)
こんな時、自分の異能力がうまく使えればと何度も思ったことか。けれど、どんなに努力しても自分の異能力を完全に使えるようにはならなかった。
主導権は俺にはなかった。
(だからなんだ! そこに死徒がいようと正面から立ち向かう!)
一歩大きく踏み込む。自分の位置が一瞬でバレてもいい程に大きく一歩を踏み込んだ。
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ほんの一瞬だった。
成功する可能性も低い。けれどそうすればいけるかもしれない。
ただそれだけの理由で俺は踏み込んだ。
結果、俺の体は思ったように動いた。
壁を蹴り、空中で後転しながら攻撃を避け、死徒の腕を斬り落とした。
しかし俺の中にそれ以上の困惑が頭の中を占めていた。
(今のは俺がやったのか? 本当に俺が、俺の意思で体を動かしたのか? 俺の意思じゃないとしたら、まさかアイツが?)
気にはなったがその疑問は一度頭の隅に置き、アルトは即座に死徒に追い討ちをかける。
考える事よりもここで仕留めなければ。という責任感と緊張感が優先した。
「追い詰めた。ここでお前を斬る!」
(もし俺の体をアイツが動かしたのならそれでいい。この死徒を倒すという目的は変わらないのだから!)
俺が斬りかかると死徒は腕や脚を使い突き放す。それでも尚、俺は距離を詰める。その攻防が何度も繰り返しがも続いている。
互いの緊張は解けることのなく張り詰めた空気が漂う。
一歩間違えればその時点で勝負はつく。その一瞬を逃さず作らずの状態だ。
今の状況、押しているのは俺だが未だ押し切れていないのも俺もだ。
(逃げ場がなくなって死徒との正面から戦う事にはなったまではいいが、攻めても攻めきれていない!)
このまま消耗戦になっては体力のない俺としてはかなり厳しい。だからこそここで仕留めたかった。
しかし、事はそう簡単ではなく、首を斬るギリギリのところで蹴り飛ばされる。これが何度も続き、なかなか殺しきれない。
異能力を使えていれば届いていただろう。
今度は死徒が踏み込み小さく飛び、体が浮いた瞬間に右脚で前方を強く蹴る。
俺は横にずれて避ける。返しに斬りかかろうとした瞬間、死徒が左からの横蹴り。
咄嗟に避けきれず、壁に体をぶつける。
死徒が間髪入れずに追い討ちをかけようとするが、急いで距離を取り建て直す。
すると死徒は何か気づいたように楽しそうに笑う。
それが気に触り「おい!」と睨みつける。
「お前、さっきから何がおかしい!」
「ハハハハハッ! 悪いなガキ。だがなこれは傑作だぞ」
「だから何がだ!」
「俺様はお前動きを見てわかったことがあるんだよ」
「わかった事? 何がだ?」
死徒は確信づいた事を話した。
「お前、異能力使えないんだろ」
「ッ!......何のことだ?」
「とぼけるなよクソガキ。お前は何度も俺様を仕留められる場面があった。その度に殺られると悟ったさが何度やってもお前は俺様を仕留めない。いや仕留めきれないそうだろ?」
「......」
話の内容に思わず黙りこくる。
そんな俺を見て、死徒は追い打ちをかけるようにして自信満々に言い続けた。
「図星だな! あーははは! 面白い! 実に面白いなお前! 最初はその速さが異能力だと思ったがお前が速いのは踏み込んだ一瞬だけ。それは異能力ではない!」
「......」
「剣もそうだ! お前の剣はただ速いだけそれ以上の事はない。ここまで戦えばお前もわかってんだろ? お前の力では俺様を殺す事は出来ない!」
「......ちっ!」
それ以上の言葉は聞かず、俺は無言で走り出した。
その速さはこの戦いで一番の速度だろう。対して死徒は落ち着いた様子で蹴りの構えを取った。
速さは俺とっての唯一無二の武器だ。
技術ない俺が持てる自慢の武器。しかし今はそれが仇となった。
(速い! 過去最高に速いかもしれないこの速度なら斬れる! けど! 斬る前にあの蹴りを避けられない!)
傍から見れば俺は方が優勢だろう。しかし実際は速度のあまり、死徒の蹴りを避けられずただ無防備に突っ込んでいるだけだった。
(避けられない! この速さであの蹴りを喰らえば俺の体は完全に貫かれる。死ぬ! クソッ!!)
死を悟った。
「死ねぇ! クソガキ!!」
「クッ!!」
けれど俺の体が貫かれる事は無かった。さらに言えば俺はその蹴りを避けていた。
(当たらなかった? いや俺が避けたのか?)
刀を後ろで隠すように飛び突っ込んでいた俺は蹴りを喰らう瞬間、浮いた左脚で咄嗟に地面を踏み込み右に回りながら避けていた。
しかしそれは俺自身の意思で体が動いたのではない。
(今のは俺の意思じゃない。って事は本当にあいつが?)
考えている中、俺は自分の動きが止まってないことに気づく。それどころか、自分の意識外で避けた所からさらに踏み込み、俺の刀は死徒の頸を斬り落としていた。
勝ちを確信し、何一つミスのないカウンターを鮮やかとも言える形で避けられ、逆に頸が斬られるなんて誰が考えるだろうか。
しかし、現にそれは起きた。
そして今この瞬間、俺と死徒による戦いの決着はついた。
戦闘シーンを入れてみました。表現が難しいのでその部分だけ書くのが難しくどういう動きをしたか理解するにはかなり想像力が必要だと思います。そういう意味では今後の課題として動きの表現の仕方を学んでいこうと思います。
最後までご愛読ありがとうございます。次回も是非見てください。
追記
やっぱ気になる部分があったので直しました。結構見やすくなったと思います。
他の回もちょくちょく治していきますので、よろしくお願いします。