28話 対面と境地
リュックのポッケに入れたと思ってたワイヤレスイヤホンがなくなり大騒ぎしたけど、よく探した普通にリュックの中に入ってたこの頃。
ここに来るのはこれで二度目だ。以前はミアの推薦で、今回は学園の生徒として。
恐らく話は異死徒拾伍段との遭遇についてだろう。
前回と同じように扉を開けて入る。
「よく来たね。アルト・シャドウ君体の方はどうだい?」
「久しぶり...でもないな、学園長。ユスケのおかげでなんとか生きてるよ」
「それは良かった」
俺がふざけた態度を取ると奥にいる秘書の人が睨んできた。
今にも死んでくれと言い出しそうな。
学園長は俺の態度に不機嫌になってはないらしく。
そのまま「本題に入ろうか」と話し出した。
「君は先日の依頼にて異死徒拾伍段と遭遇し、重傷を負いつつもパートナーのミア君のおかげで無事帰還した」
「刺のある発言に聞こえるのは気のせいか?」
「気のせいに決まってるでしょ」
秘書が当たり前のように口を挟んだ。
「さて、今回君に伝えるのは異死徒拾伍段と遭遇した事ではない」
「異死徒拾伍段の事じゃないのか?」
俺の予想していた事ではないらしく、何かと首を傾げると学園長は得意げに語る。
「異死徒拾伍段の強さはよく理解しただろう。今の君では勝つどころか、戦うことすら難しいと」
「痛いくらいに思い知らされたよ」
俺もアイツもどっちも酷く痛みつけられた。それはどんなに時間が経っても忘れることはないだろう。
「そこで、君には異能の境地を覚えてもらう」
「異能の境地?」
境地。
以前俺と戦ったダイチがその言葉を言っていたような気がする。
それを覚える?
未だに意味の理解できない俺に学園長はミアのことを指しながら説明した。
「異能の境地とは、異能力の到達点とも言える領域の事だ。そこにいるミア君も熟知している」
学園長に繋がるように奥の秘書の人が話す。
「境地であるかないかでは天と地程の差があります。それこそ異死徒拾伍段とやり合えるか合えないか程に。そして、ただ境地に入れるだけでは意味がなく。常に境地に至っていなければいけません」
そこまで行ったところで学園長の話の全貌を理解した。
「つまり、俺には次の遠征までに境地に至れという事だな」
「次の遠征ではない。次の依頼までだ。君達の依頼は途中で区切られた。その続きを君達に行ってもらう。もちろん、すぐに行ってくれとは言わない。君が回復してからで構わない。それまでに境地に至ってもらいたい」
俺は少し考えた後「わかった...」と言ってミアと共に部屋を後にした。
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部屋を出て廊下を歩きながら、俺はミアに聞いた。
「なぁミア、境地ってどんな感じなんだ?どうやったら出来る?」
ミアは難しそうな表情をしながら答えた。
「どんな感じ...体が軽くて、全力が出せてる感じかな?どうやったら出来るかは努力次第...」
「努力次第か...待って!ミア、もしかしてお前、そんな特訓とかしないで境地至ったタイプ?」
頭の中をよぎった嫌な予感を口に出してみる。するとミアは、困った様子で「うん...」と答えた。
忘れてたわけではないが、自分のパートナーが人外級の化け物だということを改めて思い知らされた。
俺は頭を抱えながらトボトボと歩く。
そんな俺にミアは何かジャラジャラしたものを渡してきた。
「ミア、なにこれ?」
「知恵の輪」
そう。知恵の輪である。それもただの知恵の輪ではなく、謎に大きいやつ。
「いや、それは見ればわかるんだけど...なんで?それとなんかデカくね?」
「それ、知恵の輪が十個くっついてるの...それを解けると境地に至れる」
.....は?意味がわからん。知恵の輪が十個くっついてる?解けると境地?俺自身の頭の悪さを差し引いて、ミアの言葉数の少なさに再び頭を抱えた。
わからないことは他の人に聞こう。
俺はそう思い食堂に向かう事にした。
という事で食堂。
別段今が食事の時間というわけではないが、俺達が集まる場所とすれば大体ここなのでここに来た。
当たり前のようにハヤテとアキハを見つけ、二人のいる席に座る。
そして、例の知恵の輪を見せ境地について聞く。
「これなに?」
「知恵の輪ですね」
「知恵の輪だね」
「そういう事じゃない」
聞き方が悪かったと質問を変える。
「ミアが言うにはこれを解ければ境地至れるらしいんだけど、普通に解けばいいの?あと、十個ってなに?これ作ったやつ頭悪いの?」
俺の質問にハヤテが知恵の輪を指差しながら答えた。
「これを作った人が頭悪いかは知らないけど、ヴァイズさんの言ってる事は正しいよ。ちなみに普通に解こうとしても解けないよ。どんなに頑張っても一年は掛かる」
「は?」
訳のわからないことを言うハヤテに、思わず素で返してしまった。
そこで、俺は検証にと知恵の輪を解いてみる。
......無理でした。二十分くらいかけたけど一ミリも進んでません。
そんな俺の様子を見たアキハが笑いながら「代わりにやってあげますよ」と知恵の輪を解き始めた。「解いてる間暇なんでアルトにいくつか聞きますね」なんて付け足して。
「アルト、学園長から呼ばれたんですよね?なんの話でした?」
「なんで知ってる...って思ったけど、普通に情報流れるか、ミアもいるし。話は境地に至ってやり残した依頼を済ませて来いだと」
「やっぱり境地の話でしたか。アルトがこの知恵の輪を出したあたりからなんとなく察しはついてましたが...随分早いですね...」
「早い?何がだ?」
いつの間にか質問者と回答者が入れ替わってる事に気がつく。アキハはそんな事を気にする様子も見せずに答える。
「普通、どの生徒も境地に至る特訓を始めるのは夏に入ってからなんです。それまでは基礎訓練がほとんど」
「俺は基礎訓練すら受けていないが...まあ、色々あったからしょうがないか」
「アルトは基礎が身についてるからでしょう。基礎と言っても異能力を使えるかどうか。アルトの場合はもう一人の方が主導権を握ってるだけ出来てはいるので」
確かに言われてみれば、異能力を使う事自体初めてでもなんら問題なく出来たのは確かだ。
「そして、今回学園長はこのタイミングでアルトに境地の特訓を出したんですよね。だったら多分学園長としては、アルトのことをミアの助けになる即戦力として見てるんでしょう」
即戦力。
言われるとなんか照れ臭いが、よくよく考えれば頑張って働けと言うことだとわかる。
「ただ、即戦力だからこそ特訓に余計な時間は割けられないのでしょう。恐らく、アルトが境地に至るまでに用意された時間は一週間ってとこじゃないですか?それを過ぎたら出来てなくても行け。って言われますよ」
「二週間...傷の回復も含めてか...」
「安心して下さい。ちゃんと、私もミアもカエデやエルモアも、ついでにハヤテ君も手伝いますよ」
「ついでなんて酷いなぁ...」
ついで扱いされたハヤテが半笑いでアキハをつつく。
「でも確かに、僕じゃ教えられる事は少ないからね。君の回復の手伝いになると思う」
「...なんつーかありがとな...」
手を貸してくれる仲間がいる。その事実に俺は照れ臭く感じながら感謝した。
「ふふん。もっと感謝してくれてもいいんですよ。さあ、日頃の感謝をもっと私に!」
こいつはちょっと言うと調子に乗り出す良くないタイプだ。
「お前に対して日頃の感謝なんてねぇよ。てか、お前なんなの?俺とミアを引き剥がしたいの?それとも煽りたいのどっちなの?」
最近のアキハの矛盾する行為に疑問を抱いてたので聞いてみた。
「別にどっちでもいいんですよ。私はミアに幸せになってもらえれば」
「幸せねぇ...お前といる時点で苦労はしてるんじゃないか?」
と話してはいるが、当の本人のミアは喉が渇いたと飲み物を飲みに行った。
まあ、本人が居ないから話してると言うのもある。
「酷い言いようですね。まあ、ミアのパートナー続けてればそのうち、ミアが抱えてる悩みもわかりますよ。その時、アルトの対応で私は判断します...はい。出来ましたよ」
悩み?それを考えるよりも早くアキハが解き終わった知恵の輪を渡してきた。
早っ!五分も経ってないじゃん!
驚きのあまり口が開いたまんまになった俺に、アキハがついで感覚で言ってきた。
「私はこれが解けるようになるまで一ヶ月掛かりました。ハヤテ君は半年。てことで、アルトも頑張って下さい!」
露骨にプレッシャーをかけられた俺は本日何度目かわからないくらい頭を抱えながら、飲み物を飲み戻ってきたミアと共に食堂を後にした。
バイトの給料がそこそこ多く、ウキウキになっていたら翌日からミスしまくるリヴァイ論です。
皆さん。嬉しい事があると浮かれるのはわかりますが、落ち着きを持って行動しましょう。「やらかした!」と気づいた時にはもう遅いですよ。
さて、今回も後日談的な日常回でした。しかし、今回!ようやく!ほったらかしにしてた境地の話が出てきました。
いや別に、忘れててほったらかしにしてた訳じゃないですよ。もともとこう言う話の展開にするつもりでしたし。
いや、本当ですって!信じて下さい!本当ですって!
.....なんだこの茶番。
こんな茶番してる暇あるなら続きを書け!と言われそうですので後書きで誤魔化します。
実はあの知恵の輪設定、当日に思いついて入れたんですよ。
昼食中「なんか、うまく境地ですよって示すものないかなぁ...」って考えてたら、なんの前触れもなく唐突に浮かんだので入れました。
これが天才!これが...ニュータイプ!
あっ、ちなみに日常回もう少し続きます。新キャラも出ます。先輩キャラです。
最後までご愛読ありがとうございました。次回も是非見て下さい。




