1話 話の始まり
フリーメモが消えた...!という事です。小説自体に影響はないと思いますが精神的影響が凄いです。それだけです。
ここは首都から離れた小さな村の小さな家にて、
「首都行きたいです」
「ダメだ!」
「何故だ!」
朝から大声を出し叫んでいるのは俺、アルトとその親ウルスである。
「なんで駄目なんだ! 三ヶ月前までは良いと言っていたのに急に駄目だとか言い出して! 何故だ!」
「なんでもだ!」
「はぁ? 理由無しに駄目か! エルモアやカエデだって行ったんだぞ! なんで俺だけ駄目なんだよ!」
「よそはよそ、うちはうちだ! それにお前には才能が無いだろうが! あの二人は才能があったから行けたんだ。お前じゃ無理だ諦めろ」
「親が自分の子に才能無いから諦めろはふざけてるだろ!」
「事実だ! お前は俺の子だが俺とは違って才能が無い! 俺とは違って!」
「うるせぇ! あんただって平日働いて休日酒飲んでるだけだろ!」
「子が親の生き方に文句を言うな! そもそもお前は自分のことを何も出来ないだろう!」
「何も出来ないどころかお前のことまでやってるだろ!」
とこのやり取りが日をまたぎ何日も何日も続いている。
「駄目だ話にならん!」
「おい、アルト! 何処へ行く!」
「何処でも良いだろ」
話に終わりが見えないと悟った俺は家の扉を開け出て行った。
「全く、なんて奴だ! まだ話は終わってないってのに」
「お父さん、なんでお兄ちゃんを首都に行かせてあげないの?」
質問したのは先程までのやり取りの隣で本を読んでいた髪の短い小柄で大人しそうな少女、妹のユノである。
「あのなぁユノ、あいつが首都に出て行ったら誰がこの家を支える?」
「お父さん......クズだね」
妹の毒舌な発言にストレートを食らったかのように倒れるウルス。精神的にはKOだろう。それでもよろよろと立ち上がり短く言葉を告げる。
「それに首都は......」
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俺は毎日昼を過ぎると必ず行く所がある。
そこは森だ。村からかなり離れた森の奥にある小さな小屋を拠点に俺は毎日刀を振っている。
俺が行きたがっている首都の学校、東洋異能力学園では一人一人が己の武器を持ち、世界の脅威とされる死徒を倒すための術を教わっている。
当然カエデやエルモアもそれぞれの武器を持って首都の学校へ行った。
俺もその後を追い、首都の学校に入るため日々特訓をしているが、この村には剣を使える者は一人もおらず独学程度。異能力に関してはまだ完全に扱いきれていない。だからあの馬鹿親父が反対するのだろう。
「でも、止まるわけには行かない。必ず首都の学校に入って死徒を......母さんの仇を......っ!」
俺の心には親父を見返してやろうなんて気持ちは一切ない。ただ母を殺した死徒が憎く、そして何よりその光景を何も出来ずただ見ていた自分が愚かで腹立たしい。
もう二度とあんな思いをしない為に強くなる為に首都の学校を目指している。
「もうこんな時間か......」
八時間程延々と刀を振り続けていたため日が既に暮れている。
「そろそろ帰るか。帰ってあの馬鹿親父を説得しなくちゃ行けねぇからな!」
腹も空いたし風呂にも入りたい。首都の学校に入ったら出来ない当たり前の日々に今は浸りたかったから森を走った。
......胸騒ぎがする。
いつもならウルスかユノが迎えに来る筈なのだが、確かにウルスにもユノにもにもこの小屋の場所は教えてはいない。けれど俺が毎日森の方に行ってる事は知ってる筈。
まだあの親父は拗ねているのか、ユノは家の事をやっていてこっちに来れてないだけか。いやそうだろうそうに決まってる。
......何も心配する事はない。そう信じて森を抜けて村の近くまで来た。
「......おかしい」
話し声どころか物音一つしない。いつもならこの時間帯は村の人達なら外にも聞こえる賑やかな声で家族で食事を取ったり楽しい時間を過ごしてる筈。
俺はこれでもこの時間に帰る事を1つの巡回と思って毎日過ごして来ていた。村の様子が変なのはすぐに気がつく。
嫌な予感がする。
言葉じゃ表せない何かが俺の心を締め付ける。
「たまたま今日だけ静かなのかもしれない。とりあえず家に帰ろう」
そう言い歩き出すと、何かが溢れたような音がした。
気になり、音がしたの方向に振り向くがそこには何もない。気のせいかと歩き出そうとした時、
ポタッ、ポタッ。
また音がした。何か溢れたような音、よく聞けば規則的なリズムで音がする。
(雨漏れか?)
しかしこの村はここ一ヶ月程雨が降っていないから雨漏れはあり得ない。
この瞬間俺の心を締め付けていた何かを理解する。
それは恐怖だ。
この鳥肌が立つような予感は昔感じたのと同じ、忘れる事のない恐怖の感覚。
また音がする。やっと音のする方向を掴めたのでそちらへ近付く。音が大きくなったような気がする、それは同時に俺の恐怖心を刺激する。
(大丈夫だ、何も怖がる事はない)
そして音のする場所ドアの間家の前に立つ。中は真っ暗で何も見えずただ溢れるような音だけがする。目を凝らしてみていると、月夜の光に照らされ見えたのは、
「これは、まさか、人の死体!」
(落ち着け俺! 何かの間違いだ! 見間違いだ! とにかく落ち着け!)
自分に何度も言い聞かせ家の中に入る。
近づいて確認するがそれは案の定、人の死体だった。
(っ!......クッソ!)
怒りと悲しみといくつもの感情が合わさり複雑な気持ちにさせる。ただ今は出来る事をしなくてはいけない。
(死体検証なんてやった事はないがしょうがない)
死体の状態は首は辛うじて残っているが四肢が切られている。当然息もしていない。
(死因は、恐らく四肢を切られての出血死か?)
さらに深く観察する。無残な有様の村人をずっと見ているのも気が引けるのだが。
(この死体は親父やユノのではないか)
よかった。と安心して胸をなでおろすが事態は終わったわけではない。この村で人が殺されているんだ、何かあった事は違いない。
(まずは家だ! 家に帰ってそれから......)
それからなんて考えていない。ただウルスとユノの安全を確認したい。無事を確認したい。ただそれだけだった。
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ようやく家に着いた。明かりもついてる大丈夫そうだ。変わらない、いつも通りだ。あの死体の件は明日でいいだろう今は早く二人に会いたい。そう思い戸を開ける。
「ただいま!」
家中に響くように言う。しかし返事は返ってこない。寝ているのかそれとも聞こえてないだけか、どっちでもいい。どっちでもいいから、そう思うごとに俺の心の中の恐怖は大きくなっていく。
(なんで、なんで怖がっている? いつもの家じゃないか、怖がる事なんて......)
家の中を進む。廊下は真っ暗だが一箇所薄く光る所がある。確かあそこは茶の間だ。あそこに二人はいるんだ。早く会いたい、その気持ちに従い茶の間の前に立つ。
声がしない。何も聞こえない。
テレビの音も話し声も何も、考えたくない事が頭をよぎる。そんな事はいつも通りのはずだ。
そう念じ震える手を抑えながら戸を開ける。
「ただいま! 二人とも......えっ?」
そこ二人は居なかった。代わりにいたのは、
「人間の子供! しかも上物!」
一体の死徒だった。
「ッ!!」
死徒とわかるのに数秒の時間を要した。そしてわかった瞬間に玄関まで走る。当然死徒も俺の後を追う。
(何故この村に死徒がいる? 俺の家に死徒がいる?)
その疑問に対する答えは出てこない。ただ一つ、今は自分が死徒に喰われそうになっている事だけはわかる。
(とにかく今は逃げて、何処かに隠れないと!)
そう思ってただひたすら走り続ける。
「ぐっ! わっ!」
何かが後ろから飛んできて、それに俺は吹き飛ばされた。
(ッ! 何が起きた?)
うまく受身が出来なかったため、頭からぶつかり意識が朦朧とする。血は出ていない。
何が起きたか確かめるべく飛ばされた方向を見る。そこには当たり前のように死徒が立っていた。
(結構早く走って逃げてたのに、距離がここまで詰められてるって事は突進されたのか)
この死徒に突進があるとわかった以上走って逃げる事は出来ない。だからと言って死を受け入れる訳にはいかない。
(怖い......けど死ぬ訳には行かない)
恐怖と痛みの中、立ち上がり震えながらも刀を握る。
(刀を持ってきておいて正解だった)
「へっへぇ! 俺様の突進を受けて立ち上がるとはなかなか根性あるじゃあねぇか! これはさぞうまい人間だろう! へっへぇ!」
死徒が何か言っている。けど俺の耳にその声は届かない。届かない程、焦って怖がっていた。
(怯むな! 何度も殺そうとしてきた相手だ! 落ち着け俺!)
恐怖を飲み込み刀を構える。死徒を殺した事はない。
殺し方をどうやったら死ぬのかを本で読んだ事があるくらいだ。実際それが効くのかすら確証はないけど、殺るしかない。
殺らなきゃ殺られるとわかっていたから。一歩踏み込み斬りかかる。
(本の通りなら死徒は首を跳ねれば死ぬ!)
素早く近づき斜めから刀を振り落とす。
刃が首に届いたと思った瞬間、身体は横に吹き飛ばされた。
「ガハッ!」
吹き飛ばされた身体は近くの家にめり込んだ。
(ッ! 痛えぇ!)
木造構築だったおかげで致命傷には至らなかった。だがかなりのダメージが来る。石造りの家なら骨は折れていただろう。
死徒が足を上げてるあたり蹴り飛ばされたのだろう。カウンターに相応しい一撃か。
(それでもここで倒れたら死ぬ!)
刀を握り立ち上がる。そして再び構える。
「ほう、俺様の蹴りを受けてまだ立ち上がるか! あそこの家の人間には逃げられたからなお前はちゃんと逃げられないように痛ぶってから喰ってやる!」
(逃げられた? あそこの家の人間に?)
死徒の口元に血がついてるあたり確かにこの村の人間は喰ったのだろう。けどそれはウルスやユノの事なのか聞かなくてならない次々に疑問が浮かぶ。
「おいお前、あそこの家の人間は喰ってないのか?」
答えてくれる保証はないが駄目元でも聞いてみるしかない。もしかすれば、と微かな希望を抱き質問する。
「あそこはお前の家だったのか! はっ! そういう事か!」
くっくっくっ、と顔を抑えながら笑う死徒。
構えは解かずに俺はそのまま死徒の方を見つめる。
「どうせ死ぬんだ。話してやるよ!」
死徒は顔覆っていた手を下ろし話し出す。
「俺様は二時間ぐらい前にこの村に来た。最初は手身近な所の家を三軒程襲い喰った。がそこで一人の男に見つかって村の奴らは一斉逃げ出した。お前の家にいた奴も俺を見たら普通の血肉を囮にして逃げやがったぜ。ああ、確かお前より小さい女もいたな。あれは、お前の妹か? まあどっちでも良いわ。俺様が後でしっかり喰ってやるからな!」
話し終えると死徒は西の方角を見て笑いだす。恐らくみんなあっちの方向に逃げたのだろう。同時に俺は以前、村長が言っていた事を思い出す。
(確かこの村に突然、死徒が襲って来た時は西の村は逃げましょうって言ってたな。そっちの村なら俺らを受け入れてくれるだろうし、強い異能力者もいるって)
つまりはみんな無事だという事だ。
それを聞いた瞬間に俺の中の恐怖が一気に抜けた。
(親父もユノもみんな無事なんだ)
安心しきり完全に落ち着けている。
焦る必要はない。こいつを倒してみんなと合流すれば良い。それだけの事だ。
「ありがとよ、教えてくれて」
「んぁ?」
「お陰で覚悟が出来たわ」
「なんだっ......ッ!」
相手の声を聞くよりも先に斬りかかる。
惜しくも避けられるが首に微かな切れ目を入れた。
「お前を倒してみんなと合流する! ただそれだけだ!」
「このクソガキ!」
「さぁ、覚悟を決めな!」
本日はここまです。
中々話の進みが思いつかず何日かかけてしまいましたが、まあまあかなと次回は来週の土曜日です。
最後までご愛読ありがとうございます。次回も是非見てください。