16話 表と裏の関係
友達のバイト先で食う飯はうめぇ
俺は差し込む光に向かって走り続けた。
光の先に出てみるとそこには、つい最近ハヤテに教えられた学園の医務室の天井があった。
横を見ると目覚まし時計が置いてあり、時間を確認する。十一時。現在の時刻に思わず溜息を吐いてしまう。
「体感半日くらい走ったと思ったんだがな......」
ミアとの評価戦が始まったのは九時。アルトが戦っている間は意識がなかったのでわからないが、それでも長くは続いてないはずなのでおそらく終わったのは九時半頃。寝ていた時刻も含め今の時間を俺は二十二時前後だと予想していたが時間は全くもって違ったらしい。
「開口一発目から訳のわからないことを言うのは頭の病気かい?」
時計とは逆の方から聞いたことのない声がした。
慌ててそちらを向くと、サイズの合ってない大きな白衣を着た少年が優雅に紅茶を飲みながら座っていた。
「お前は? ここにいるって事は学園の者なんだろうけど、どう見ても教師って感じじゃないよな?」
警戒した口調で聞く。
「人を見た目で判断するのは良くないけど、間違ってないから文句は言わないで置いくよ。傷は治せても頭の病気は治せないからね。馬鹿じゃなくて良かった」
傷を治す。その言葉にハヤテの言っていた事が頭によぎった。
「お前、もしかしてエンジニアか? 医療係の」
「そうだよ。僕が君の傷を治したSランクのエンジニア、ユスケ・ヒラノだよ」
「Sランクのエンジニア? そんなのもいるのか?」
「唯一無二の異能力なら、エンジニアでもSランクになるんだよ」
「へぇ〜」
「自分から聞いてきた割には興味なさそうだね」
「どう捻っても俺がエンジニアって事は無さそうだからな。それと傷治してくれたのはありがとう。」
まず最初に言うべき感謝の言葉を少し遅れながらも口にする。するとユスケはまた一口紅茶を飲み、
「傷は治ってないよ。塞いだだけ」
「は? 治ってない?」
「うん。ただで治す訳ないじゃん。この前は君が学園に入る前の一般人だから治したけど、今はこの学園の生徒だからただじゃ治さないよ」
そう言って手をこちらに差し出してきた。
つまり完全に治して欲しければ金を寄越せとの事だ。
それより気になる言葉を聞き逃してなかった。
「この前? 以前俺を治したのか?」
「ヴァイズさんから聞いてないの? この前の遠征で怪我した君を治したのは僕だって」
「この前の遠征......あーっ、そう言うことか! でもあの時ミアは、他の生徒が治したって」
「それで合ってる。けどヴァイズさんも名前を出さないのは人が悪い。この学園にいる以上、必ず一度はここに来るんだから名前くらい出しといた方が話は早いのに」
そんなことを言いながらユスケは自分の座っている机から書類と薬らしきものを取り出し渡してきた。
「ともかく君の傷は塞いだだけ。毎晩この塗り薬を塗ってれば直ぐに治るよ。最初はヴァイズさん相手だし治してやろうかと思ったけど、二回目の相手となれば別、僕は致命傷以外はただで治すつもりはないから」
「充分致命傷だったと思うが......」
渋々薬を受け取る。
ユスケは渡したことを確認し、立ち上がってドアの方へ向かった。
「あの傷を無理矢理でも止血出来てるんだ致命傷じゃないね。それと君に面会したい人がいるから僕は失礼するよ。動けるならそのままでいいから早くここから出てってくれ」
それだけ言い残しユスケはどこかへ行ってしまった。それと入れ替わりで何人かの生徒達が入ってきた。
ハヤテ、エルモア、カエデ、アキハ、ミア。全員見たことのある面々だった。
「お前らどうして? 何か用?」
「少しは自分の怪我の具合を知れ。お前、止まってた血がいきなり出だしてすごい傷だっただぞ」
エルモアが大袈裟に言ってくる。
「そんなに酷かったのか?」
「酷いってもんじゃないよ! 僕は医学にそこまで詳しくないけど、素人から見てもあれは致命傷だったよ!」
次はハヤテが、それからどんどん傷のことについてあーだこーだ言っている中、後ろで一人縮こまってるミアがいた。
「ミアどうしたんだ? そんな落ち込んだ顔して」
声を掛けるとさっきまでうるさかったハヤテ達はいきなり静かになり、ミアが辛そうに話し始める。
「私が、アルトに大怪我させた......から......」
「ミアが? この傷を? 別にいいよ気にしてないし、アイツが勝手に無茶しただけだろうし」
怪我を負った時の記憶をまだ見ていないため詳しくはわからないが、俺自身、そこまで気にしてないので優しく返した。
「うん......」
今にも消えてしまいそうな返事にとても罪悪感を感じる。ついでに言えば隣で威嚇してくるアキハが恐ろしい。
数秒沈黙した後ハヤテが切り出した。
「そうだアルト! 君、途中から口調変じゃなかったか? なんかいつもと違う感じだった」
「えっと、それはだな......」
突然アッチの俺の話題を振られ、どう説明しようか悩んでいると、カエデが助け船を出してくれた。
「それに関しては俺とエルモアが説明する。それよりお前はヴァイズ・レット話があるんじゃないのか? お前と言うよりはアッチがか?」
「そう、だな......」
「なら俺らがここに居たら邪魔だろう。食堂にいる。その傷でもお前なら動けるだろうから、終わったら来てくれ」
そう言ってミアだけを残して出て行った。
カエデとエルモアは幼馴染だからか、本当に察しが良く気が利く。こんな友達を持って良かったと心から感謝する。
出る間際アキハが、
「ミアになんかしたらその傷、もっと深くしますからね!」
と軽く脅してきたのは無視した。
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急に二人きりにされた緊張に沈黙が走るが、少ししてからミアから話し出した。
「それで......話って?」
「順を追って話すよ」
既に頭の中で整理がついていた。
自分とアルトのことを他人に話すのは、カエデとエルモアは以外は初めてで少し悩んでいたが整理が出来たで話し出す。
「まず俺は二人いる。と言っても二重人格ってやつじゃない。互いに互いが別の人間として存在するんだ」
「......? それは、どういうこと?」
当然の反応だ。
意識の入れ替わりで出て来る二人目の自分のことを、二重人格ではないと言っている。
誰が聞いたって最初は理解出来ないだろう。
「簡単に言うならドッペルゲンガーってやつだ」
「ドッペルゲンガー?......確か、出会ったら片方が死ぬ、もう一人の自分......」
「そう。それでもう一人のオレは俺の体の中......正確には影の世界って所にいるらしい。俺の体を使って表に出て来れる」
俺自身、もう一人のアルトには直接会ったことがなく、影の世界にも行ったことはない。しかし実際に起きてる以上理解する必要はあった。
「異能力が使えないのはもう一人のオレが主導権を握っているから。ミアが前に聞いてきたどうして死徒を倒せたのかってのはオレが助けてくれたから」
ミアは何も言わずにただ真剣な眼差しで俺の話を聞いている。村の人にこのことを話した時は子供の冗談かのように聞いてくれなかった。だから聞いてくれる相手がいるのはとても嬉しい。
「もう一人のオレは本来こっち側には出て来ないはず。けどオレは必ず俺が生きるために力を貸してくれる。今回もそう言う意図だったと思う。だから失礼なことをしてたらごめん」
いきなり頭を下げて謝った俺にミアが両手を振りながら「大丈夫......」と困ったようにに言う。
ただ今のミアの表情はとても嬉しそうだった。
その笑顔に少しドキッとしたが顔には出さない。
話が終わると再び互いの間に沈黙が流れる。
耐え切れず話出そうとしたその時、扉が開き秘書の人が入ってきた。
「アルト・シャドウ生きているかしら? 体の方は調子はどう? あらミア・ヴァイズ・レットもいたの」
「はい。少し話を」
ミアがちょこんと頭を下げた後、自分の傷のことを簡単に話した。
「治りきってはないですけど痛くはないです。というかせめてノックぐらいして下さい。誰が入ってきたかと思いましたよ」
「それくらい許容しないさい。誰が入って来ようと、いかがわしい事がなければそこまで気にならないでしょう。それとも二人で何かしてたのかしら? 邪魔したならごめんなさいね」
やっぱりこの人苦手だな。
めんどくさいので言い返さないでいると、それきっかけに一枚の紙を渡してきた。
「これは?」
「あなたのランクよ。それとあなたのパートナーが書かれているわ。掲示板にも張り出されているわ。パートナーに関しては知ってそうな相手から聞きなさい。では失礼するわ」
役目は終わったとでも言いたげな後ろ姿を残して、足早に帰って行った。渡された紙をミアと一緒に見てみる。ついでにパートナーについて聞いてみた。
「俺のランクはCランクか、まあこんなもんだろ。でミア、パートナーってなんだ?」
「パートナーは、学園の依頼を受ける二人組......」
「なるほどね」
なんとなく理解したところでパートナーの所に目を通す。
そこに書かれていた名前は、ミア・ヴァイズ・レット。
今まさに俺の隣にいる学園最強の彼女の名前だった。
投稿頻度下げると言ったな。あれは嘘だ!
いやすみません。なんか普通にすぐ出来ちゃったので投稿しました。
次回は16.5話としてエルモアとカエデ視点の話になります。と言ってもただハヤテ達にアルトの事を話すだけです。でも今回だけではアルト君(裏)について詳しくはわからないと思います。それに3人の過去についても少し話します。かなり重要な回ですので是非お楽しみに。
最後までご愛読ありがとうございます。次回も是非見て下さい。




