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ショートストーリーズ  作者: 松田葉子
7/18

繋がれてゆく想い

Twitter投稿日:3月31日

「好きなの持ってっていいよ」


ハンガーラックにかかった衣装を一つ一つ見てみる。


最後の最後に行ったので、色んな人が既に上物を持っていき、残ったのは時代に合わない使いにくいデザインのものだったり、サイズが合わないものばかりだった。


劇団で所有している衣装や小道具を一掃したいとのことで開かれたバザー。


私は仕事終わりにラスト1時間で駆けつけたのだ。


そんな状況だったのであまり惹かれるものがなかったが、ラックの端まで行くとウールのジャケットが目に入った。


どれどれとジャケットと対峙した。


ふむ、濃いグレーのそれは痛みがなさそう。


自分でコートみたいに着るか、彼氏に着てもらおうかなと思いつつ、胸ポケットはどんなかなと内側を捲ると、名前が刺繍してあった。


それは劇団の先代の先生のものだった。


色んな衣装の中にしれっと入っていると思わず、驚いた。


「これ!先生の!」


近くにいた劇団員たちに声を掛けると


「お!お目が高いねぇ」


「持ってっちゃえ!」


戸惑いつつも、ラックに掛かっていたんだし、と思い直し買い物カゴに入れた。


そういや他のお客さんで本を持ってった人がいたな。


SNSで話してたのを見た。


「本も持って行って良いですか?」


「うん、そこの棚の文庫とあっちの棚のハードカバーは大丈夫」


文庫は村上春樹、村上龍、司馬遼太郎が多め。


私は最近小説を殆ど読まなかったが、怪談話のアンソロジーは読みやすそうだと思い、文庫はそれにした。


今度はハードカバーのある棚の前に。


こっちにも少し村上春樹のがあるな。


上から下まで目を滑らせていると、古山高麗雄の著作がいくつもあった。


初めて聞いた作家さんだった。


何でこんなにあるんだ、そして名前が読めないと思いつつ、その中の1冊を手に取りあらすじを読んだ。


初老の男女とその男の家に転がり込む若い女がメインの登場人物らしい。


「この作家さんって知ってます?結構著作物がここにあるんですけど」


本を持ってっていいと言ってくれた劇団員の方に訊いてみたが、知らないとのこと。


手に取った本に視線を戻し、中をパラパラと捲ってみると上下の二段構成になっており、見た目よりボリュームがありそうで少し怯んだ。


でも面白そうだし折角なのでこれにした。


戦利品を袋にまとめ会場を後にし、ご飯を食べてから帰宅した。


さっきの作者のことを名前を含め調べてみた。


劇団がよく扱っている戯曲の作者と交流があったようで、その為勉強として揃えたのだろうと考えた。


貰ってきた本には80年代に出版された新聞連載の作品だと記されており判明した。


次に表紙を捲ってみると、何と先代の先生へと宛てたサインが書いてあった。


これはまずいかもしれないとすぐさま劇団の主宰に連絡を取ると


「持っててあげて」


と一言。


それを見て私は泣いた。


劇団のものだったから確かに確率としては0%ではないにしろ、そういったものを感じている訳では無かった中で先代と縁のある品物を2つも手に取ったのだ。


私がそこの劇団を観に行く頃には既に亡くなられていたので、お会いしたことはないが


「いつもありがとね」


とにっこり微笑みながら私の頭をぽんぽんと撫でられた気持ちになった。


この話はTwitterに上げたものよりかなり加筆をしています。

Twitterではかなり端折って書いたので、こちらが本来の話となってます。

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