振り返る君
Twitter投稿日:4月15日
放課後の帰り道、僕はいつもと同じように君と少し距離を取り君の後ろ姿を眺めながら歩いていた。
「ねぇ」
君が振り返る時スカートが翻った。
僕はその瞬間がとても好きだ。
今日は特に、風が少し吹いていたので髪を耳にかけながら伏し目がちな表情がとても美しかった。
たった今の情景を反芻する。
「ねぇってば」
気が付くと君は僕の目の前で向かい合っていた。
「な、何」
「もう隣で歩いても?」
「い、いいよ」
君が前を歩いている時に遭遇することが多く、ある時君が振り返った時の綺麗さに目を奪われた。
最寄駅が一緒だったので、最初僕のことをストーカーだと思い、ハッキリさせようと君から話し掛けてきた。
誤解だと話したら、最寄りが一緒なら遭遇した時一緒に帰ろう、変に距離がある方が気になると言われた。
別に一緒に帰らなくてもとも思ったが、断る理由も特にないので承諾したのだ。
翌日の帰り、前方に君を見掛けたので声を掛けたらこちらを振り返った。
その時また美しいと感じたので確信した。
君の振り返る姿が好きなのだと。
その翌日の帰り、僕は君がいることに気付いても、敢えて振り返る瞬間をじっと待ちながら歩いた。
学校の最寄駅に着くと君は僕を待っていた。
「私が前歩いてたの気付かなかったの?」
「気付いてた」
「何で声掛けなかったの?」
「声を掛ければ確実に振り返るから」
「そりゃあ」
「声を掛けなかったら、振り返る?振り返らないかも?ってドキドキするから、そのまま歩いた」
「え、何、私のこと好きなの?」
「君の振り返る姿が好きだ」
「ん?えーっとそれは他の女の子じゃダメなの?」
「ダメというか、思ったことがない」
「・・・ふーん。よく分かんないけどありがと。じゃあさ、私がアンタがいるなって思ったら振り返っていい?」
「え、分かるの?」
「分かんないけど」
「何それ」
僕は笑った。
君は目を真ん丸くしてた。
「アンタが笑ったの初めて見た。結構可愛い顔になるんだ、もっと笑いなよ」
そう言って脇腹をくすぐってきた。
その翌日から君は僕の気配を察知しようと頑張った。
最初は全然分からないみたいで、結局そのまま駅に着いてたんだけど、ある日たまたま振り返ったら後ろにいる僕とバッチリ目が合ったと喜んでた。
そこからコツを掴んだのか、すぐ振り返るようになって僕が逆につまんないと言ったら焦らしてくれた。
そんな日を繰り返して今に至る。
因みにクラスは別なので、学校で話すということも特にない。
たまにすれ違うとウィンクだけしてくれてちょっと照れるけど。
「前から思ってたんだけど」
そう言いながら僕の、目の下より長い前髪を1束持ち上げた君。
「前髪長いから皆気付かないだろうけど、アンタって結構イケメンだよね」
「へっ?」
意外な話に変な声が出てしまった。
「前髪真ん中だけ上で留めとくだけでも結構雰囲気変わると思う」
そう言って君は自分の前髪を留めていたヘアピンを取り代わりに僕の前髪を留めた。
「うん、やっぱ違うね。帰りはこれで帰ろ」
僕らは並んで歩いた。
おでこの風通しが良くてソワソワしてしまう。
「何かいつも以上にキョドってて、余計陰キャに見えるよ」
「だ、だって落ち着かないよ」
「可愛いから大丈夫だって」
「あんまり可愛いって言われても嬉しくない」
「女子が男子に可愛いって言うのは純粋に褒め言葉のことの方が多いよ?」
「下に見てるわけじゃない?」
「え?ないない!私アンタのことそういう風に思ったことないよ。何したら笑った顔見れるかなーってよく考えるけど」
「え?」
「ん?あ、あれ?何か言ってて恥ずかしくなってきた」
君の顔が見る見るうちに赤くなってきた。
焦ってる君を見るのが初めてで新鮮だった。
「い、今の話忘れてっ」
君は手を払って無かったことにしようとした。
払ってた手首を掴んだ。
「何で?」
訊くと君は動きをピタリと止めた。
「わ、分かんない・・・」
いつもと形勢逆転な感じだ。
君が僕を振り回してたのに。
「ねぇ、こっち見て」
少し間があったものの、こちらを見てくれた。
眉を八の字にして、困ってるような怒ってるような表情。
「アンタの前髪上げるんじゃなかった。いつもは合わない目がよく合うし、イケメンって思うとドキドキする・・・」
今日の君は変だけど、今日の僕も変だ。
気付いたら君に口付けてた。
我に返った僕は
「ご、ごめん!」
と君と距離を取った。
「何でしたの・・・?」
流石に怒ってると思ったけど、そんな言い方ではなかった。
「可愛かったから」
君はシャツの胸元をギュッと握って
「バカ・・・」
と言って僕に近付いた。
「アンタ、可愛いと思ったらキスするようなチャラい男なの?」
「ち、違うよ、君だけだよ、可愛いからキスしたいって思ったの初めてって言うかキスだって初めてだしっ」
僕は何を言っているんだろう。
まぁ、事実には変わりないが。
「あれ?彩音じゃーん。とっくに帰ったのかと思ったー」
いつも君といる女の子二人組だ。
君はギクっとし、慌てて
「ご、ごめん!コイツに用があって!じゃ!」
君に腕を掴まれ駅まで一緒に走った。
あんまり街を走ることってなかったなとぼんやりと思った。
お互い息を切らしながら
「ご、ごめん、走って連れてきちゃって」
「平気・・・」
「とりあえず電車乗ろ」
とやり取りした。
隣同士で座ったけど、これと言った会話が無かった。
でもお互い意識していることは分かった。
揺れで少し肩や膝先が触れると、普段は仕方ないことだからとお互いが認識しているので特に謝ったりとかはしていないのだが、今日は謝った。
最寄りに着いた。
「じゃあここで・・・」
と別れを切り出すと、君は顔を赤くしながら
「もう少し一緒がいい」
と上目遣いで言ってきた。
「何でまたそういう可愛いこと言うの」
と思わず声に出してしまった。
君は更に顔を赤くした。
「と、兎に角帰るの帰らないの?!」
「君に付き合うよ」
「じゃあ公園に行こ」
少し歩いて公園に着くとベンチに座った。
「ねぇ、結局私のこと好きなの?」
電車内で訊けないからここに連れてきたのだろう。
「恋をしたことがないから、これが好きなのかどうか正直分からない。けど嫌いじゃないのは確かだし、キスしたいって思ったのは君が初めて」
「ふーん」
君は僕に顔を近付けた。
「ねぇ、近いとドキドキする?」
「ま、まぁドキドキするけど、多分それは君じゃなくてもドキドキすると思う」
「ふーん」
君は少しつまらなさそうに僕から顔を離した。
「むしろ君の方がドキドキしたんじゃないの?」
少しからかってみたくなってそう言ってみた。
「はっ?!バカじゃないの?!」
と言いつつまた顔が赤くなってきた。
「今日はよく赤くなるね」
「バカにしてんのっ?」
と僕の胸をポカポカと軽く殴ってきた。
その両手首を掴んだ。
君はハッとこちらを見た。
「また、しても?そしたら分かるかもしれない」
「ほ、ホントに?」
「かもしれない」
「・・・ぃぃょ」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で返事した君に再び口付けた。
さっきより長く。
胸がキュッと締め付けられる。
唇を離してはまたくっつける。
このまま時間が止まって欲しいと思った。
彼女の目がトロンとしてきて僕は更に口付けた。
君の腰に腕を回すと、君は僕の背中に腕を回しギュッとシャツを握ってきた。
吐息が絡み合う。
「も・・・だめ・・・」
そんなこと言ったら逆効果だ。
僕はこんなに君のことが好きだったのか。
いや、益々好きになっているのだ、現在進行形で。
分かった時に僕は漸く止めた。
僕にしがみついてないと倒れそうな君。
「アンタ・・・がっつき過ぎ・・・」
「だって、キスしてる時の君も可愛くて更にしたくなったんだもん」
「だもん、じゃないよ・・・フラフラだよ」
「そういえば女の子とこうしてるのも初めてだ」
「離れる?」
「君倒れそうだからいいよ。ずっと彼女のこと抱き締めてたいって言ってた人の気持ちも分かったし」
「か、彼女・・・」
「嫌なら仕方ないんだけど、どうでしょうか」
「アンタそういう性格じゃなかったでしょっ。私がアンタのこと好きって分かったからそういう言い方してるんでしょ」
「僕のこと好きなの?」
「す、好きじゃなかったらこんなことしないっ。好きな奴だから全部許してるというか私がしたい」
「君がしたいんだ。何で今日はそんなに可愛いの?」
「さっきから可愛い可愛い言い過ぎなんだよっ。」
「僕は事実を言ってるだけ。嘘ついたことないでしょ」
「・・・うん」
僕はもう一度口付けた。
「ん・・・」
君の反応全てが可愛い、愛おしい。
「アンタってスケベ?」
「そうだとしたらそれは君のせいだから」
「はっ?!」
「責任取ってよね」
また顔を赤くする君。
「何処まで想像したの?君の方がスケベなんじゃない?」
「うるさいっ」
君をからかうのは楽しい。
「あ、笑った!」
そう言うと僕の胸に顔を埋めてきた。
「どうしたの?」
「今脳内にアンタの笑った顔を焼き付けてるの」
「僕は今日はもうキャパオーバー」
「何で」
「今日の君が振り返った姿が美しかったからそれをまず焼き付けてたんだけど、可愛いとこいっぱい見ちゃったからそれも焼き付けてて」
「・・・恥ずかしげもなく言えるような奴じゃなかった筈なんだけど、今日はペース乱される」
「嫌?」
「別に・・・前髪のせいか、戻すよ」
前髪が元に戻るとやっぱ落ち着く。
「じゃあ今日から恋人ってことでよろしく。だから連絡先教えて」
そう、僕らは一緒に帰るだけの関係だったから、連絡先を交換していなかったのだ。
「僕達って順番変だよね」
「そうだね。あ、今度の土日のどっちかデートしよ」
「いいよ。僕から1つ条件出してもいい?」
「どうぞ」
「スカート履いてきてね。振り返った時のスカートが翻ってるのも込みで好きだから」
「あ、そうだったんだ。分かったよ」
君はクスクスと笑った。
これからは好きなものが沢山見れるということか。
楽しみだな。
久々に妄想爆発ストーリーが出来ました。