5話 僕に明日はあるのか
門が開いた。
その門はゴミで埋もれている部分はそのままで、上だけ開くようになっていた。まあ、そうでもしないと街の外に出ることが出来ないし。しかし、このゴミのせいでこんな構造にしたことは理解できたが、それなら、何故ゴミを片付け、処分しようとしないのだろうか。不思議でしょうがない。
目の前には、ゴミと見間違えるほどのあるいはゴミが70cmほど増したのではないかというほどのなにかがあった。いや、あったのではなくいたのだ。総勢何十万いうカエムシが。
「ぎゃああああ!」「うわああああ!」
様々な悲鳴があちこちから聞こえる。毒のスペシャリストが、あんなにいてはたまらない。
冒険者達が逃げ惑うなか、一匹のカエムシが前に出た。
「人間てのはこれだから情けない。おい!人間共、耳をかっぽじってよーく聞け!私はカエムシの長である。ここに私の息子が世話になった奴がいると聞いた。そいつを前に出せ!」
やっぱりか。くそう、あの時ゴミを避けなきゃよかった。
「なあ、あいつらの言ってる人間ってのはコジローのことか?だったら、行ってくれないか?俺も付いて行ってやるから。」
「わかりました。なにかあった時はよろしくお願いします。」
「ああ、できる限りのことはな。」
人混みとゴミを避けて前へ出た。しかし、魔虫というのはなんと虫に似ているのだろう。僕は元々虫が嫌いなのに。昨日は・・・そういえば倒れてからどのくらい経っていたのだろう。それについては後で聞くとして。あの時は、カエムシは一匹だったからなんとか耐えることができたものの、これはやばいなあ。
「カエムシの長とやら。俺はこの街で護衛騎士団の団長を任されているグレイスだ。要件についてはわかった。だがその人間をここへ出したとして、その後はどうなるんだ?」
「それは言えないな。すぐにでも出さねばこの街を毒で溶かし尽くすぞ?」
「だそうだ。どうする?」
「今にでも吐いてしまいそうですが、行きます。ここまで来た意味がないですから。」
そう言って僕は前に出た。
「息子よ。先ほどまで話しておった奴はこの人間か?」
「そうだぜ。こいつだ。」
そう言いながら出てきたのは、他のカエムシとは、見分けが付きにくいが、あのカエムシだ。吐きそう。
「昨日振りだな!コジロー!会いたかったぜ!早速だが、昨日の決着といこうじゃあないか!」
そのカエムシは、既に毒を吐く準備をしていた。
うえっ!?もう殺されるんですか僕!
「ちょっと待ってよ!ねえ、少しだけ話をしない?」
「ああ?ここにきて命乞いか?・・・まあいいぜ!聞いてやらなくもない!なんだよ?」
「君は・・・カエムシは知性を持っていて、人間と同じように喋ることができる。ということは、人間達と交渉とかすることできるはずだ。でも、カエムシは、僕達を襲ってくる。それはどうしてなの?」
そう聞いた瞬間、カエムシの顔が怒っているように見えだした。
「なにを言ってるんだお前?魔虫や魔物は人間共とは敵対する存在なんだ。殺すか殺されるかだ。だがな、おいら達はな、それ以上にお前達人間に恨みがあるんだよ!」
「恨み?」
「そうだ。人間共はおいら達の住処を荒らして行ったんだ。今のこの街のように!ゴミで!自然破壊するように!どうやら人間共は、この光景は当たり前だと思ってるみたいだけどよ・・・違うだろ!おかしいだろ!だからおいら達は毒で、自慢の毒でゴミを溶かそうとした。毎日毎日溶かしていった。そしたらどうだ。次の日も次の日もゴミを捨てていった!もう限界だったんだよ!そんな時に会ったのがコジロー、お前だよ!これはチャンスだと思った。こいつを殺して街の人間共に見せつければゴミを処分するなり出て行くなりして行くだろうとな!」
「だけど僕を殺す前に毒が切れた。」
「そうだ。だからこの際仲間で街を滅ぼそうとしたんだ。」
僕は後ろを向き、団長や冒険者を睨みつけた。
その集団はポカーンとしていた。
何を言っているのかわからない。理解できない。そんな顔を。
確かに僕も街の外にまでこんなにもゴミが散らかり放題だとは思いもよらなかった。不潔極まりなかった。
「団長さん、もしかしてですが他の街も、この世界全ての場所がこうなっているのですか?」
こう聞いた。
「ああ、そうだ。この目で見たわけではないが冒険者達の話を聞く限り、どこもかしこもこの光景があるだけというぞ。」
本当に頭を抱えてしまうなあ。
「なあ、カエムシ。」
「なんだよ?」
「もし僕がこの世界を綺麗にするって言ったらどうする?」
「ぶっはっはっは!なに?この世界を綺麗にするだって?お前は本当に面白いこと言ってくれるぜ!だがな・・・できるわけねえだろうが!!ゴミの処分の仕方も知らないお前たちが!」
「いいやできる。僕ならね。でも実行するにはカエムシの協力が必要なんだ。」
「なにおいら達の?どういうつもりだ?」
カエムシは、驚いたような顔をした。
「実はね、僕はこの世界のゴミを失くす為にここに来たんだ。僕は片付けの方法などを知っている。そしてカエムシは毒でゴミを溶かすことができる。でも、いくら毒があるからといって無限に毒を吐けるわけではないんだ。」
「つまりどういうことなんだよ?」
「足りないものをお互いで補っていけばいいってことだよ。人間達の説得は僕がどうにかするよ。」
カエムシは10分ほど黙り込んだ。突然人間から協力を求められたのだ。無理もない。
「お前と、この世界を綺麗にするっていうことは面白いとは思うぜ。昔の森が見られるからな。よし、その話乗ってやるぜ!」
「本当に!?なら早速」
「ただし条件がある。お前が諦めたりしたときはおいらがその場で殺して養分にする。いいな?」
「わかったよ。」
「よし、おいらはみんなにこのことを話してくるからコジローは間抜けな人間共を説得しろ!まずはそこからだぜ!」
僕は頷いた。そしてカエムシは仲間の近くまで戻った。
まずはひと段落だ。
ゴミがざわついてる気がした。