第五話:珍海亭
この世界には、魔石と呼ばれる文字通りの魔力を持った石があります。今回登場するのは、それを使った政府御用達のホテルが登場します。
時刻は深夜0114、静かになった高速道路を赤色灯をつけずに走るパトカーとその後ろをぴったりとくっついていくバイクがあった。
木暮たちの車と岩原のバイクだ。彼らは今、有名なアスファルトの坂道を走るケーブルカーがある港湾区のホテルに向かっている。
「岩原君、なぜ大金君を怖がらせるようなことをしたのかね。周りに今回のホシの密偵がいたらどうするつもりだ」と無線機で岩原に話しかけていた。
岩原は、少し困惑した表情で「別に脅かそうとしたわけじゃないですよ。ただ、いつもの切れ痔が痛くてしかめ面していただけですよ。」といった。
そう、実は岩原は胃腸が生まれつき弱く便秘と下痢を繰り返していて戦争に行く頃には、あまりのストレスで痔持ちになっていたのだ。
「切れ痔ねー。」
そんな他愛のない会話をしているうちに、目的地であるホテル珍海亭についた。
ここ、珍海亭は一見すると横にハイテクな立体駐車場のあるさびれた小さな日系のホテルで、一般のお客様が入ると普通の日系か中華系かよくわからないボーイさんに案内される普通のホテルだが、とある会員である日本人かその付添人が入ると魔法で一瞬にして豪華絢爛なフロントがあらわれて和服姿の様々な種族のメイドさんが出迎えるホテルになる。
岩原と大金は、フロントがあっという間に様変わりしていくのをただ口をあんぐりと開けてみているしかなかった。
「ううーん、やはりいつみても日本製の魔法は素晴らしい」どうやら木暮だけは、会員カードを持っている常連さんのようである。
すると先程まで無口だったボーイさんが突然、男性とは思えないような小鳥のさえずりに似た声で「ようこそお越しくださいました会員番号や-10番さん、ならびにおつきの方々。」
ちなみに、会員番号や-10番とはもちろん木暮のことである。
「き、きみはいったい何者だ?」岩原は、やっとのことで意識がボーイさんの方に戻った。
するとボーイさんは、くるりと一回転したと同時に周りに桜の花びらが羽になった蝶がどこからともなくボーイさんにまとわりついてきて、ものの数秒であっという間にどこかへ行ってしまった。
するとそこにはボーイさんの姿はなく、代わりに太陽のようにまぶしい笑顔を放つ鬼の角をはやした着物姿の大和なでしこが立っていた。
「申し遅れました。私は、珍海亭の女亭主、浜里風香と申します。」
岩原たちの目の前に現れた女亭主、彼女はいったい何者なのか?