重なるハナウタ
···♪~
「···また来た···」
学校の屋上にいると、いろんな人が屋上を使うのがわかる、例えば談笑する人、昼寝をする人、想いを伝える人、ちなみに僕———森繁創也は屋上出入り口の上に昇って誰にも邪魔されずに絵を描く、一つ上にいるために来た人は僕に気付かずに屋上を使ってくれる、僕はそれを見ないようにただただ頭に浮かんだものを紙とシャーペンで表現していく
今までは本当に気にすることなくペンを走らせていたのだが、夏休みからずっと気になっている人がいた
「♪~」
「···(相変わらず透き通った声だ···)···」 シャッ···シャッ···
夏休みにここで絵を描いていた時に聞こえてきたこの声は文化祭が終わってからもずっとこの場所で歌っている、それをBGMにして僕は今日もペンを走らせるのだがどうも聞き入ってしまい途中でペンが止まったまま時間だけが過ぎることがある
「···(キーンコーンカーンコーン♪)···あ···っちゃあ~、また終わっちゃった···」
「♪~···」···ガチャッ···ガチャン
「あ、帰った···」
放課後が始まってから歌いに来て最終下校のチャイムが鳴ったら帰る、こんな人を僕はずっと気になっていた
「···ということなんだけど」
「いやどういうことだよ、話聞いてたけど俺はそれをどうすればいいんだよ···」
「だからどうすればいいか聞いてるんじゃん」
「知るか」
「えぇ~···ちょっとは考えてくれたってよくないかな?」
「やだよ、つか俺がなんでも知ってると思うなよ?」
「だって委員長が"困った時は桐嶋君に聞くといいよ!!"って言ってたからさ」
「···あいつ一回締めてやろうかな」
「···女の子なんだからやめなよ?」
「いややらねぇけどよ···」
文化祭前に仲が良くなった僕の隣の席に座る桐嶋君は目つきも口調も悪く高身長でよく不良と言われているが、学年で一番頭の回転が速くおまけに料理などもできるハイスペック持ちの人間だ、そんな彼はクラスの嫌われ者からクラスの頼れる存在となっており時折クラスメイトが相談を持ちかけることが増えた、最近はそれがあるからかずっと起きている
「···大体声しか分かんねぇやつをお前はどうしたいんだよ」
「どうしたいって···別にどうもしようとは思わないけど···」
「なんで俺に話したんだよ···」
「···ちなみにさ、桐嶋君今何やってるの?」
「あ?マフラー編んでやってんだよ、これから寒くなるっつうのに委員長防寒具何も持ってないんだと、ったく田舎から出てきてんのになんで持ってこねぇかな」
「委員長の田舎の方が寒いからじゃないかな」
「それで着けないってか、見てるこっちが寒くなるんだよ」
「···やっぱ桐嶋君っておかんだよね」
「おかんいうな、モリのも作ってやろうか?」
「僕は持ってるからいいや」
「あっそ」
桐嶋君と話しているとよく委員長のことが話に出てくる、桐嶋君が観察明けから出てきた時から委員長と桐嶋君は二人でいることが多いがそれを指摘すると二人はすぐに否定する、それがこのクラスの名物になってたりするのだが···
そんなことを考えていると···
···ガラッ
「きーりしまー、まだいるー?」
「···チッ、また来たのかよ」
「ちょっとわからないところがあって~、お、モリ君もいるんだ」
「あ、うん、ちょっと桐嶋君に相談しようと思ってさ」
「···なんか知んねぇけど俺は物知り博士じゃねぇからな?」
「え?違うの?」
「ちげーわ、生徒だわ」
教室に入ってきたのは隣のクラスの女子の高野皐月さん、見た目は普通だが中身は今どきのギャルに近い、そしてちょくちょく僕に絡んできたりする
「···で、結局お前はどこ聞こうと思ってきたんだよ」
「そうそうこれなんだけどさ~、モリ君も見てくんない?」
「え?僕見たって···」
「いいからいいから」
「···なんだこれ?」
高野さんが見せてくれたのはなんかよくわからない記号が書かれた一枚の紙だ
「···えっと、これなに?」
「わかんない」
「···は?」
「だからわかんないからこうやって桐嶋に聞きに来たんじゃん」
「自分でも何かわかんねぇやつを俺に聞きに来るな!!多少の説明ぐらい出来るようになれ!!」
「えぇ~···そんなこと言ったって~···そんな訳の分かんない記号の紙が下駄箱ん中入ってたんだも~ん···」
「下駄箱に?嫌がらせじゃないの?」
「さあね~、別に嫌がらせされるようなことやってないし」
「そう···だよね」
「お、なんか言いたそうだねモリ君」
「なんでもないです」
「あんまりモリをいじんのやめろよ、こいつ見た目通りに繊細なんだからよ」
「桐嶋君、フォローになってないよ」
「フォローしてねぇもん」
「えぇー···」
···ガラッ
「桐嶋く~ん!!終わったから今日帰りに買い出し手伝って~!!」
「その前に帰る準備ぐらいしろ委員長、んじゃなモリ、高野、また明日聞いてやるよ」
「あ、うん、ありがとう」
「ちぇ~、んじゃああたしも帰るかな、また明日ねモリ君~」
「え、あ、うん、···さて僕も帰るか···あ、そうだノート買ってこっと」
・
・
・
・
・
・
「···」
「···いや~、なんなんだろうねホントに」
「···ホントに嫌がらせかなんかじゃねぇの?」
「だっだだだだっだ大丈夫!!?」
「お前が大丈夫か?」
次の日の昼休み、委員長と桐嶋君と(二人とも僕の席の近くなので)一緒に昼食を取っていたらいきなりびしょ濡れになった高野さんが入ってきた
「ちょちょちょちょちょちょっと待っててね!?今私のジャージ貸してあげるから!!!」
「とりあえず落ち着け委員長、···で、何があったんだ?」
「ふつーにトイレに入ってたら上からざばーっとやられたのよ」
「それってもうイジメじゃん!!!早く相談しないと···」
「いんやいーのいーの、やってる人はもうわかってるし」
「じゃ、じゃあ尚更···」
「だからダイジョーブだって、モリ君は優しいねぇ~」
「なっ···僕は心配して···」
「···高野」
「お、どしたのきり···」
「···ちったぁモリのこと頼れ、何もかも自分で解決しようとすんな」
「···そうだね、ごめんモリ君、でもホントに大丈夫だから、委員長ジャージありがとね」
「ホント何かあったらすぐ桐嶋君に言うんだよ!?」
「お前もちったぁ協力しろ委員長」
「···」
委員長のジャージを借りた高野さんは、そのまま教室を出ていってしまった、残された僕らの間にはなんかパッとしない空気が流れている
「···桐嶋君、今日放課後暇···だよね」
「決めつけんな、今日も今日とて委員長の防寒具作りだわ」
「じゃあやろ、高野ちゃんの犯人探し!!」
「正義感があんのはいいけどよ、今日はアニメ見るんじゃなかったのか?」
「学校の、ましてやこのクラスの周りで起きてることなんだもの、ほっとけるわけないよ!!それに、アニメは録ってあるもん!!」
「あっそう···はぁ···何を言っても折れなさそうだし、俺の周りでやられんのも迷惑だし、···やるか」
「よっし!!そうと決まれば早速行動開始···」
「待て委員長、そんな突っ走っていくな」
「え?なんで?」
「高野には悪いけどやられてるっていう決定的な証拠がなきゃ論破されるぞ」
「え!?じゃ、じゃあやられる瞬間を見なきゃいけないの!?」
「その寸前で止められりゃいいんだけどな」
「寸前か···二人が陰から見てるとだいぶ目立っちゃうよね、桐嶋君でかいし」
「···俺だって好きでこんなでかくなったんじゃねぇよ、やたら俺見るとケンカ吹っかけてくるやつがいるからそいつらの相手してたらこんなでかくなっちまったんだよ」
「···あんまりケンカとかしないでね?今度は停学になっちゃうから」
「そんなヘマはしねぇよ」
「···その役さ、僕がやってもいいかな?」
「···え?」
「別にいいけど失敗すればお前に矢印が向くぞ?」
「その時はその時だよ、いくら高野さんが僕の事を嫌いでも話してくれる人がやられてるのはやっぱり嫌だからさ、後悔だけはしたくないんだよ」
「森繁君···」
「···わかった、じゃあお前にやって貰いたいことを言うな?」
「うん···」
···それから3日経った
「···ホントにこれやってていいのかな?」
『モリは、放課後いつも通りに過ごしてろ』
『···い、いつも通り?』
『そ、放課後お前いつも上で絵ぇ描いてんだろ?それをいつも通りやってくれりゃいいよ』
『そ、それじゃなんも役に立たなくない!?』
『囮だよ、エサっつうのは流してなんぼなんだ、だからお前はその囮役を頼みてぇんだよ』
『あ、それ私も···』
『委員長には別の事やらせっから駄目だ』
『ケチ!!長身!!地味なイケメン!!』
『罵倒するのか褒めるのかどっちかにしろよ···』
「···いいのかなこれで、何の進展もないんだけど」
桐嶋君に頼まれたことをやっている僕だけど、尾行でもなんでもなくただ普通にいつものように屋上で過ごしているということだった
「···まぁいいや、桐嶋君の言うことだし信じてみるか」
そう思い、今日も持ってきたノートを開いた時だった
···バンッ!!!
「うぉっ!?···今日は随分荒々しいドアの開け方···」
「···で、なんであたしはここに連れてこられたんですかね?」
「!!?」
乱暴に開いたドアの音の次に聞こえてきたのは聞き覚えのあるハスキーボイス
「(···高野さんだ!!!)」コソッ···
「···高野さん、あなたいい加減にしてくれないですか?」
「何がよ?」
「とぼけないでください!!あなたこの私がミスをするたびに指摘してきて、あなたは私に何か恨みでもあるんですか!!?」
「だから無いってそんなの、前にも言ったじゃん、おんなじこと何回も言わないと分かんない頭なの?」
「な···!!!」
「ちょっと高野さん!!アンタ今のは酷いんじゃないの!!?」
「何が?あの時から毎回毎回言ってんのに未だに繰り返すそっちが悪いんじゃんよ」
「なんですって···!!!」
「てかさ、···あたし一人の為だけにこんなに人が来るとか、なんなの?暇なの?」
「(複数···?)···!!なっ···!!?」
上からこっそりと覗いてみると、高野さんを取り囲むかのように女子生徒が5人、それだけならまだよかったがガタイがよくちょっと怖い系の———といっても目つきは桐嶋君よりは怖くはない———男子生徒が3人ほどいた
「···答えらんないんじゃあたしの言ったことは正しいって判断するけどいいのね?」
「うぐっ···」
「で、こんな頭ん中空っぽみたいなやつ等連れてきたのになんか意味あんの?」
「···もちろんありますとも、ちょっとあなたには世間ってものを知ってもらわないと困りますわ」
「ほーあたしとやろうっての、男のくせに普通に女であるあたしに手を上げると、外道だねぇ~」
「···チッ、調子乗ってんじゃねぇぞくそアマァ!!!」
「っ!!!」
堪忍袋の緒が切れたのだろう、一人の男子生徒が高野さんに殴りかかってきた
···その瞬間なぜだかわからないが自分の体が動いていた
···バキッ!!!
「ッ!!!」
ガッ···ゴッ···バンッ!!
「あぐっ···!!!」
「!!」
「!?他に生徒が···!!?」
「···モリ···君···?」
体が痛い···殴られたこともないから受け身うまく取れなかったや···
「モリ君!!何やってんのよ!!!」
「···や、やぁ高野さん···奇遇だね···」
「やぁ、じゃないわよ!!あんたケンカしたこともないくせに何急に出てきてんの!!?腕怪我したらどうすんのよ!!」
「···だ、大丈夫、腕は無事だから···」
···正直痛いが今はそんなこと言ってる場合じゃない、殴られて吹っ飛んだ体を起こして殴った相手···いや、その向こうにいる人物を見やる
「···チッ、何邪魔してくれてんだてめぇよ」
「···邪魔···違うよ、助けたんだ···上にずっといたから全部見てたんだよ君たちの事···」
「な···何のことですの?私たちはただ高野さんに話があって···」
「···ここ最近ずっと続いてる高野さんに対する嫌がらせって全部君等なんでしょ?」
『!!?』
「···沈黙は肯定とみなすよ」
「···だ、だったらなんですの?私たちがやった証拠はあるんですの?私が高野さんに身体的な嫌がらせをしている証拠はどこにあるんですの!!?」
「···今、君は身体的な嫌がらせって言ったね、でも僕は嫌がらせとしか言ってない」
「!!!」
「嫌がらせなんて普通なら精神的なものが先に来るはずだ、なのに君は身体的って言った、これはやっている人か···首謀している人物しかわからないはずだ」
「モリ君もういい!!」
「···まぁ、男手を借りて高野さんをやるってのは外道にもほどがあると思う···というか」
「(ザワッ···)な、なんですの···!?」
「···たかだか一人の恨みの為に共謀するとか、頭が本当におかしいんじゃないのか···!!!」
···久々に僕はキレた気がする、なにより人の為にキレたことは今まで生きていて初めてのような気がする
「···証言のボイスは僕のスマホに録音してある、これをもっていったら君たちどうなるんだろうね」
「っ!!!早くあいつのスマホを壊して!!!」
「オラ寄越しやがれぇ!!!」
「モリ君逃げて!!!あんたが太刀打ちできるような奴じゃないって!!!」
「···ごめんね高野さん、僕そんな走れるほど体力残ってないんだ···それに今ここで逃げたらダメな気がするんだ」
「バカ言ってないで···」
「邪魔だくそアマぁ!!!」ドンッ
「うわっ!!?」
「死ねやボケがぁ!!!」
「···っ!!!」
本当に動けない僕は、大きな痛みに少しでも耐えるために目を思いっきりつぶる
「···っ···?」
···が、いつまでたっても痛みが襲ってこない、そう考えてると···
「···ようモリ、悪いな遅くなって」
「···き、桐嶋君···」
「き、桐嶋···!!!」
「ぐあぁああぁあああっ!!?いっっっっでぇえええ!!?」
殴りかかってきた男子生徒の拳を桐嶋君が僕の後ろから片手で止めて握りつぶしていた、思わず緊張が解けその場にへたり込んでしまう
「···で、随分とまためんどくせぇことに巻き込まれてんな高野」
「桐嶋···あんたもなんで···」
「モリに頼まれたんだよ、高野の嫌がらせをどうにかしてほしいってな」
「!!モリ君が···?」
「まぁ詳細は後だ、···それよりもお嬢サマは随分過激な嫌がらせをするんだな」
「っ···!!!なんであなたみたいなのがこの人の助けなんか···!!!」
「今言ったばかりだろ頼まれたからって、···つかどうしたよ、もうギブか?」
「た···頼む···離してく···」
「···じゃあこのまま握りつぶすか、右手使えなくしてやんよ」
「ひぃ!!!?」
「桐嶋ぁあああ!!!!」
「···」 パッ···タンッ
トトンッ···
『うっ···』
ドシャッ···
「なっ···!?」
「···委員長にケンカすんなっつわれてるからこれでいっか」
「···一瞬で···」
掴んでた拳を離した瞬間すごい速さで向かってきた残りの男子生徒の首に手刀を当てて気絶させた
「···さてと、あとはお前らだけだな」
「!!」
「···だったらなんですの···?」
「あ?」
「私に手を出すんですの!?できるはずないでしょうね!!あなたは一度問題を起こしている身なんですもの!!」
「そ···そうよ!!!あんたにやられたって言えば他の人なんか簡単に信じてくれるわ!!!」
「形勢逆転ね桐嶋君!!!」
「っ!!!」
「あいつら···!!!」
「落ち着けよモリ、高野、···確かにこの状況をアンタらが説明すれば俺はまためんどくせぇ反省文か停学だろうな」
「なんだ、自分の立場がわかって···」
「···じゃあこの状況をリアルタイムで伝えてたらどうなるよ、···委員長!!!」
ギィイイイイ···
「はいは~い!!モリ君、高野さん、遅くなってごめんね!!」
「委員長!!!」
扉が開いたかと思えばビデオカメラを回した委員長が現れた···リアルタイムでってことは僕が殴られた瞬間も流れたのかな···
「委員長、撮れてるか?」
「もうばっちり!!最初から最後まで全部撮れてるよ!!!」
「野本さん···!!?あなたどうして···!!!?」
「桐嶋君の手伝い、それと···」
ザッ···
「···友達を嫌がらせから守るためよ!!」
「委員長···」
「···で、どうすんの?委員長がいうには全部流されてるらしいじゃん···これでもまだ自分達のが優勢だって言えるのか?」
「あ···う···」
・
・
・
・
・
・
···ピトッ
「いっづ!!?」
「動くなよモリ、目に入ったら失明するかもしんねぇんだぞ?」
「わかってるけど···痛いものは痛いんだもん!!」
「男なんだから我慢しろ、あとなんだよあの受け身の取り方はよ」
「突然の事で対処できなかったの!!!掘り返さないでよ恥ずかしいから!!!」
「これ治ったら受け身の特訓だな」
「お断りしま···(ピチョン···)いっだい!!!」
あのあと高野さんに嫌がらせをしていたグループは駆けつけた生活指導の先生に連行されて残った僕達はまず桐嶋君と委員長が担任教師に怒られ(ついでに僕も)高野さんは自身の担任からものすごい謝られてた、その後教室に戻り殴られたところの治療を桐嶋君にしてもらってる
「···桐嶋、なんでモリ君に頼まれたことを素直にやってくれたの?」
「あ?まず委員長がやろうやろうって言って聞かねぇし、何より俺の周りでこそこそやってんのが鬱陶しいからな」
「理由が雑すぎる気がするけど···」
「···まぁ一番の理由ってんならモリがお前の為に必死になってくれたからだな」
「!!」
「言わないでよ恥ずかしいから!!!」
「だったらモリはちったぁ反撃できるような力つけろ」ピトッ···
「いっだい!!!」
「···モリ君、ありがと···」
ガラッ···
「桐嶋君大変!!!」
「なんだよ委員長、急に入ってくるからモリの消毒ずれるとこだったじゃねぇかよ···」
「さっき先生に桐嶋君と私で相談室作れって言われた!!」
「やらねぇよめんどくせぇ!!!」
「私もアニメ見たいって言って断ってきた!!」
「お前はやれよ委員長!」
···その翌日から高野さんに対する嫌がらせは無くなり、昼休みになると必ず僕等のところに来て昼食を取るようになった
「···あ」
「どしたの桐嶋?」
「そういやモリに一番最初に頼まれたの結局解決してねぇや」
「モリ君が?どんなのどんなの?」
「確か···」
「言わなくていいから、もうその話はいいよ」
「あっそう、つかモリ今日も上行って描くのか?」
「今日もって言い方悪くない?そりゃ昨日の今日だけど行くよ、僕の日課だもの」
「ほー」
「···うん、今日もいい創作日和だ」
昨日の事があってか今日は屋上を使っている人は誰もいない、それはそれで静かだからいいけどやっぱり何か物足りない
「···」 シャッ···シャッ···
···ガチャッ···キィイイ···ガチャン···
···♪~
「!!(来た···)」
「···ねぇ桐嶋君、モリ君が相談してたことって何なの?」
「あ?気になる人がいるっつう相談だよ」
「何それ!!ネタになりそうだから教えてよ!!」
「お前みたいなのがいるからあんまり話したくねぇんだよ、それにモリはその気になるやつの顔すら知らねぇんだし、手掛かりになるのは放課後に上で描いてる時に聞こえてくる歌声だけなんだと」
「へぇ~···あれ?それって···」
「···まぁあとは当人たちに任せときゃいいだろ、それより委員長ここ違う」
「え!?どこ!?」
「···(モリ、お前の探してた歌声ってのは···)」
「~♪」
「···高野さん···だったの···?」
「♪~···、···お、モリ君いたんだ」
···歌っている時と普通に話している時とは全然声の質が違うから全然気づかなかった
「え···?なん···いつからここで?」
「ん~···夏休みくらいかな?ここで歌うの気持ちよくてさ」
「へ、へぇ~···そ、そうだったんだ、あ、ごめんね邪魔しちゃって」
「いーよ気にしなくて、ちゃんと届いてたみたいだしさ」
「···へ?」
『···桐嶋、あんたのクラスにさ、ものすっごい絵描くのが上手い男子いるでしょ』
『···は?いたかそんなやつ』
『あー···あんたいつも寝てんもんね、あんたの隣の席に座ってる男の子いんじゃん?』
『···あー···』
『その子さ···名前なんて言うのかな···?』
『···自分で聞けよめんどくせぇ、用件そんだけなら帰るぞ』
『あ、待ってよ桐嶋!!せめてどうしたらいいかだけ!!』
『何をだよ、···あ、そういやあいつよく屋上行って絵ェ描いてたな、この前さぼって上で爆睡してた、俺が寝ている隣で描いてたの思い出した』
『屋上ね···ど、どうやって話しかければいいかな?』
『···おーおーいっちょ前に恋でもしたのかお前』
『う、うるさいな!!』
『···きっかけなんかなんだっていいんだよ、お前の得意なことでさりげなく想いを伝えたりいつものようにド直球で行ったりすりゃいいと思うぜ』
『得意なこと···あ、歌とか?』
『···俺でも知らねぇこと出てきたなおい』
『え?そうだっけ?』
『お前よ···まぁそれなら上で歌ってりゃ気づいてくれんじゃね?』
「···ま、あとは頑張れや」
「うみゅ~···あとどこ~···?」
「4問目と7問目も違うぞ」
「うへぇ~···」
「···モリ君、今日まで私が歌ってた歌覚えてる?」
「え?」
「···あれ全部ラブソングなの分かった?」
「そ、そうなんだ···」
「···モリ君結構鈍いよね」
「え?」
「あれね、全部モリ君に聞かせるために歌ってたんだよ」
「僕に···?」
「うん···初めてモリ君を見た時さ、モリ君の描いた絵とそれを描いてるモリ君を見てあたしはモリ君の事を好きになってたの」
「···」
「···でもあたしこんな性格してるし急に言ったってちょっとおかしい奴じゃないかなって思っちゃってさ、だから遠回しに歌ってたんだけど···モリ君に届いてたってわかるとやっぱ恥ずいね」
「!!!」
「普通に話してるとどうも照れくささが出ちゃうからあんなふうな態度になっちゃうんだけど、···それでもあたしはモリ君に···森繁君に伝えたかった」
「···」
「···って、なんか真面目な話になっちゃったね、ごめんモリ君、今の忘れてもらってくれな···」
···フワッ
「···」
「···も、モリ君···?」
···いつからだろう、高野さんが僕に話しかけてくれたのは
···いつからだろう、話しかけてくる君がかわいい人だと気づいたのは
···どうして気づかなかったのだろう、僕に向けられた矢印がこんなにも一途だと気づいたのは
「···気づくの遅くてごめん」
「···ほんと、気づくの遅いよモリ君···!!」
「···僕もちょっと怖かったんだ、初めて高野さんの歌を聞いた時に気付いていれば高野さんをこんなに不安にさせることなんてなかったのに」
「···不安で···こわくって···押し潰されそうになったんだからぁ···!!」
「うん、···改めて高野さんの口から聞きたい、もう一度言ってくれないかな···?」
「何度だって言ったげるよ!!あたしはモリ君の事が···森繁君の事がす···」
···スッ···
「!!!」
「···」
高野さんの続きの言葉を聞かず僕は彼女の口を塞いだ、それは気持ちに対する最適解
「···ん···」
「···(スッ···)···僕も、高野さんが好きです、···だから、僕の隣で高野さんの歌を一人占めしたい···!!!」
「森···繁···君···!!!」
···その日から僕の放課後の過ごし方が少し変わった
「···モリ、今日も上か?」
「うん」
「なら(ガサッ···)これ持ってけよ、お前らの分も作れってうるせぇから作っといた」
「···おぉって桐嶋君これ高野さんのやつサイズ大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うぞ、あいつ中学の時から体でっかくなってないし」
「え?同じ中学なの?」
「同中っつうか、あいつ小学校から同じだしな」
「うそぉ!?」
「ほんと、だからちゃんと守ってやれよモリ」
「···うん、言われなくてもわかってるよ」
「ほら、あいつが待ってるんだから行ってこい」
「ありがと」
学校のおわりを告げるチャイムが鳴ったら今日も新しい絵を描くために屋上へ行く
少し変わったというのは···
「···お!遅いぞモリ君!!」
「ごめん高野さん、桐嶋君にこれ渡されてさ」
「なにこれ?」
「委員長とおそろいの防寒具だってさ」
「うわ、相変わらず器用ねあいつ···」
「···あ、これ高野さんに喉大事にしろってことじゃないかな」
「ほんと?じゃあこれは創作脳が冷えないようにしろってことじゃない?」
「···桐嶋君ってやっぱりおかんだよね」
「あの見た目で世話焼きなとこあるからね~あいつ、···それで、今日は何を歌えばいい?」
「高野さんの好きな曲でお願い、それで新しいのが描けると思うから」
「りょーかい」
···~♪
「···」シャッ···シャッ···
あの時遠くからしか聞こえなかった声が僕の隣から聞こえてくるようになったことだ
「···~♪」シャッ···シャッ···
「~♪」
『♪~』
その歌を聞き、たまに口ずさみながら今日も僕はノートにペンを走らせる