六
翌日、尊はどういうわけか洋平を伴って銀座に訪れていた。新しく出来た書店や文房具専門店、キリスト教関連商品を扱う店を案内する。洋平の観光のためだ。風邪で休んでいる望の代わりに尊がその役目を希から仰せつかった。
洋平の観光案内ならば尊ではなく同期の三杉が適任なのだが、洋平曰く「奴は隙あらば俺を口実に秋葉原へ行こうとする」から駄目らしい。わずか半日共に過ごしただけで洋平は嫌気がさしていた。
「何故飲食店で猫耳のカチューシャなんぞを付けねばならんのだ。実に不毛だ」
よほど不快な目に遭ったのか、洋平は峰崎教会に一泊しただけですぐさま荷物をまとめて出て行った。
今日は武蔵浦和教会の牧師館に泊めてもらうことになっているらしい。望の熱は下がっているとはいえ、強引なことだ。当の洋平にもその自覚はあるようだ。若干バツの悪い顔をしていた。
「桃色の部屋ではもう寝泊まりしたくない。野宿の方がまだマシだ」
つまり背に腹はかえられないということ。当の本人達が納得しているのならば部外者である尊が口を出すことではない。
(……部外者)
自分の中に浮かんだ言葉に一々反応していたら世話がない。どうも親しい同期が現れてから過敏になっているようだ。尊は肩をすくめた。
「案ずるな」
銀座の観光を終えた帰り道。南浦和駅に向かう電車内で洋平が言った。
「貴様が懸念しているようなことはまず起きない」
尊は異能のことも忘れて洋平の顔を凝視した。取り繕っていたが完璧とは到底言えない。しかし会ってまだ二日も経っていない他人に悟られるとは思いもよらなかった。
「何を突然」
平静を装ってとぼけたが、洋平は「隠しても無駄だ」と自信満々に断言した。
「希に頼まれたとはいえ、社会人が平日にいきなり見ず知らずの牧師の観光案内役なぞ引き受けるはずがない」
ごもっとも。望の風邪の原因が自分になければ一蹴していただろう。体調を崩したせいで、明日の礼拝説教もまだ完成していない。不調をおして原稿と格闘する望を思えば、観光案内の一つや二つ、引き受けざるを得なかった。
「最初からおかしいとは思っていた。買い物の手際が良過ぎる上に、食器や電気のスイッチの位置まで把握している。いくら友人でも冷蔵庫の中身まで知っている者はいないだろう」
買い物の手際はさておき、食器や冷蔵庫に関しては毎週夕食共にしているが故に染みついてしまった習慣だ。我ながら迂闊だった。
(さて、どう説明すればいいものやら)
尊は内心ため息をついた。異能のことを説明してよいものだろうか。話したところで信じるかどうかも怪しい。
答えずにいる尊に、洋平は人差し指を突きつけた。
「単刀直入に言う。貴様は的場に惚れている」