主の食卓を囲み
鳩沢@枯れ木様リクエスト「例のすき焼き会の様子」です。三人でわいわい楽しくやっている様子……を目指したのですが玉砕。
鳩沢@枯れ木様より「ふつくしいのんちゃん」のイラストを頂戴しております。人物紹介ページに掲載させていただいておりますので、ぜひご覧になってくださいませ。
「ずいぶん姑息な手を使うのね」
挨拶もそこそこに的場希は招かれざる客を睨みつけた。台所で箸と取り皿を用意している望に聞かれないよう小声で、しかし威圧感を込めて。
「のんちゃんはあげないわよ」
「誰も『くれ』とは言ってませんよ」
負けじと永野尊は不敵な笑みを浮かべた。思わず希の頰が引きつるほどの凄みを帯びた笑みだった。
「勝手に奪います」
希が言い返そうとしたところで望が戻ってきてしまった。変なところで鈍い妹は、尊の前に生卵と取り箸、コップと持ち手の部分にオリーブをくわえた白鳩が印字された箸を置く。そう、いつの間にこの男は専用箸まで用意されるほどこの牧師館に入り浸っていたのだ。
(油断も隙もないわ)
しかしこの責任の一旦は自分にもあった。毎週水曜日に訪れる尊を歓迎していたのは望よりもむしろ希の方だった。毎週銀座の高級洋菓子店のケーキやら中々手に入らない地方の銘菓を貢いでくれるので、なんとなく受け入れていたらこのザマだ。なんて狡猾なのだろう!
そして今回はミッキーのスイートポテトタルトだ。甘さ控えめで、中にこっそり入っているリンゴのコンポートがアクセントになっていて、望が一番好きな菓子だ。去年、誕生日プレゼントに何がいいかと尋ねたら迷わず挙げるくらい好きだ(さすがにタルトだけではわびしいので、羊のふわふわもこもこルームウェアも贈ったが)
間違いない。尊はこれを機に水曜日以外もここに入り浸るつもりなのだ。ミッキーのタルトという最強の武器を装備して攻めにかかってきた奴を相手に、希は一人で立ち向かわなければならない。
「あなたにとっても悪い話ではないと思いますけどね」
卵を割りながら尊が言う。
「増えたところであなたの立ち位置が脅かされることはありませんし、他の雄が寄り付かなくなります。むしろ、下手な雄にかどわかされるよりもずっと安全でしょうに」
「とても安全には思えないわ。むしろ雄が余計に寄ってくるんじゃないかしら」
鍋を挟んで火花を散らす二人に、望は怪訝な顔をした。
「何の話?」
「猫を飼う話です」
即答する尊。ただし真っ赤な嘘である。
「しかし、その寄ってくる雄の目当てはあくまでも猫にあります。飼い主に、ではありません。それに猫は飼い主を外へ連れ出したりもしません。危険ですから」
それはそうだ。尊のタラント〈異能〉は男性を惹き寄せること。可能な限り外出を控えるだろう。望を連れて遠くへ行ったりもしない。希が一人寂しく留守番することもないのだ。
「つまり、あなたにはこれまでと変わらない生活が約束されるということです。多少は取られてしまうのは否めませんが、下手な連中よりはずっと良い条件だと思いますよ」