まことの友となりたい
人の流れに乗って駅構内へと歩く途中、見知った天パと遭遇した。ぎくりと体がこわばった。何故ここに。考える暇を与えず、ふわふわの頭が振り返る。
予想違わず、望だった。尊の背中に震えがはしった。駄目だ。無意識に足は数歩後ずさった。今、最も会いたくない人物だった。何故よりにもよって望がここにいるのだろう。だって、ついさっきまで。香りもまだ残っている。まとわりついて離れていない、数々の名残。きっと気づく。秘密を暴く時のように、容赦なく。
心臓を掴まれたように胸がしんと冷え切った。真っ白になった頭に最初に浮かんだのは恐怖という感情だった。尊は恐れた。理由もわからないまま望を恐れた。
こちらの心情などつゆ知らず、望は目を見張った。その顔に喜色が浮かぶ。にんまり。そんな音が聞こえてきそうなほど子供っぽい笑顔に、尊は目を奪われた。
「み・す・ぎ」
歌うように弾んだ声。望は尊の傍を通り過ぎた。
「その手にあるのは、私への土産と見た」
「お前、幸せでいいな」
呆れながらも三杉と呼ばれた男は白い紙袋を差し出した。
「ほれ『ミッキー』のチーズケーキ」
「タルトは? スイートポテトの」
「ねえよ。なんで高いタルトまで買わにゃならんのだ」
やや不満気ながらも望は「まあ許してしんぜよう」と横柄に言った。
なんだ。すとん、と何かが腑に落ちた。
峰崎教会の三杉牧師。望の同期だ。毎年入学する神学生は少なく、望の代では三人だったと聞く。教会が近いこともあり、仲が良いのだ。
同じ神を信じ、同じ神に献身し、同じ教えを守る者――自分とはまるで違う。
(……何を馬鹿なことを)
尊はゆるくかぶりを振った。こちらから願い下げだ。まるで自分には一点の非もないかのように澄ました顔で神の救いを説く偽善者。掲げる自分本位の正義感には嫌悪感さえ抱く。
半ば睨みつけている尊の視線に気づいたのか、不意に顔を上げた三杉と目が合った。尊は反射的に顔を逸らした。
「三杉?」
望の声が聞こえた。
「おーい三杉」
視線が痛い。尊は駅の方へ足早に向かった。
「……ネット廃人、三杉印真抜恵流」
「誰がネット廃人だ」
二人の丁々発止のやり取りを背中に受けて、安堵と落胆をないまぜにしたような感情が胸にわいた。
あんな笑顔、一度も見たことがない。
牧師にしては感情表現豊かな望だが、先ほどのような、喜びを前面に押し出した顔は見せなかった。同志ゆえの気安さ。尊に対しては決してありえない親しさだった。
内ポケットに入れたままの百万円がずっしりと存在を主張した。
(くだらない)
魂を穢す行為。忌むべき存在。侮蔑もいまさらだ。偽善者共にいくら諭されても、つゆほども痛みを覚えない。穢れていて何の損があり、清らかだとどんな得があるのだろう。信仰では一晩で百万円なんて大金、逆立ちしても得られないのだ。