真実に清く生きたい
「ジキルくんちゃんさん」をくださった方よりリクエスト「永野尊の1日」です。
※「ジキルくんちゃんさん」につきましては拙作『魔女の婿入り』の登場人物紹介ページを穴があくほどご覧ください。きっと幸せになれます。少なくとも私はなってます(現在進行形)
売春は魂が傷つく。
どこかの見識者が言った言葉を尊は鼻で笑った。汚らわしい行為はとても気持ちがいい。
今日のお相手は四十代。二年以上続いている上客だ。一部上場の大手企業の会長だと聞いている――そういう連中しかこない社交場で尊は声を掛けられた。
いくらだ。
ストレートな物言いが気に入った。変に取り繕わない分、面倒でもなく見苦しくもない。着飾った女性や若く美しい愛人を連れて、男たちが見栄を張って歩いている場で会ったのなら、なおさら。
「仕事」は二週間に一度。男が指定する場所に赴き一晩を共にして終了。大体は男の出張の宿泊先だ。尊を相手にしている時点でアブノーマルな性癖だが、首を絞めたり殴ったりといったことはしてこない。
顔も悪くない。健康には気を使っていて、年齢の割にあまり体型が崩れていない。昔スポーツをやっていたのだろう。しがみついた背中は同性から見てもしなやかで逞しかった。
しかし男の素性など尊にはどうでもよかった。重要なのは、会う度にタクシー代だのホテル代だのという名目で十万単位の金をくれるということだ。今日は『小遣い』と称して百万円。おそらく口止め料も入っているのだろう。ありがたくいただいた。
やはり稼ぐならば女性より男性だ。見栄を張るための金を惜しまない。とはいえ、二十七にもなって『小遣い』を貰うことに違和感を覚えなくもないが。
次の約束をして、用を済ませた男が出ていった後、のろのろとシャワーを浴びた。用意されていた香油やら石鹸を惜しげもなく使う。鼻腔を満たす薔薇の幽香にいくばくか気分が落ち着いた。
深く帽子を被って、マスクを装着。身支度を整えてホテルを出た時には、既に昼をまわっていた。気だるい身体を引きずりタクシーを拾う。最寄りの駅名を告げて車を走らせた。誰かと話すことがすでに面倒になっていた。お小遣いをもらったことだし自宅まで届けてもらうこともわけないのだが、タクシーの運転手が同性だったのでやめた。警戒しておくに越したことはない。
いつもと変わらない逢瀬のはずなのに、今日はひどく疲れた。どうしてだろう。尊は窓に身をもたれかせた。
そういえばあの男も「いつもと違う」と呟いていた。尊が部屋に置かれていた聖書を数ページめくったのもいけなかったのだろう。今まで聖書など見向きもしなかったのに。
他に相手ができたのかと、訊ねられた。いつものように首を横に振ったが、あまり信じていないようだった。理知的な目に隠しきれないほどの嫉妬が燃えていた。
でも嘘と建前はお互い様だ。気にしてはやっていられない。
駅前でタクシーを降りる。風が髪を撫ぜると微かに薔薇の香りがした。上品で、悪くない香りだ――と、その時は思っていた。